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王太子タルナスの回想 4

 グイニスはタルナスのおかげで助かったのでした。タルナスはフォーリにあることを頼みます。


 心に傷を負った美しい王子と、田舎の女の子の恋物語。

 恋から愛へ変化する―。

 二人の思いは成就するのか、それとも、指先から零れ落ちていってしまうのか……。


 この作品は『命を狙われてばかりの王子と田舎の村娘の危険な恋 ~けっこう命がけの恋の行方~』の設定を見直し、大幅に改変したものです。

 推敲しようとしていましたが、それに収まりませんでした。基本的な部分は同じですが、主人公セリナの設定が変わったため、変更を余儀なくされる箇所がいくつもあります。脇役達の性格や立ち位置もはっきりしたため、変えたい部分があります。

 もっと面白くなることを願って……。      

 

                               星河ほしかわ かたり

 タルナスは泣きたいほど嬉しかったが、そんな(ひま)はなかった。フォーリは今の面接の時間を利用して、タルナスにさらに詳しい計画について聞いてきた。

「それにしましても殿下。お一人でここまで調べられたとは驚きです。それに、帯の芯に隠すとは名案です。」

 フォーリは淡々としているが、逆に淡々としている人に褒められると嬉しさが増すような気がした。

「ナルグダは可能性があるでしょう。私がナルグダの身辺を調べ、それから話をしに行きます。」


 フォーリは実に仕事の早い男だった。カートン家にも手を回し、タルナスの立てた計画を詰めた。彼がタルナスの護衛になって、わずか一ヶ月ほとでグイニスの救出にこぎつけたのだ。

 タルナスは案内された部屋で、じっとグイニスの治療が終わるのを待っていた。側にはフォーリが黙って立っている。


「……フォーリ、ありがとう。」

「…殿下。私は役目を果たしたまでです。殿下の計画が周到だったからこそ、少し修正するだけで済み、速やかな実行ができたのです。」

 フォーリに褒められて、タルナスはくすぐったいような気持ちになった。嬉しくなってしまう。でも、今はグイニスのことがあるので、嬉しさを押し隠して我慢した。

「そう言ってくれて、嬉しい。」

 素直に甘えられないタルナスは、端から見れば嬉しそうに見えない調子で答える。そうしながら、タルナスは椅子に座ったまま、フォーリを見上げた。ずっと考えていたことがあった。


「フォーリ。ニピ族は二人の主人に仕えないそうだな。」

 フォーリはタルナスの様子に少し考えているようだったが、頷いた。

「そうですが、それが何か…?」

「グイニスを守ることは、ニピ族の掟を破ることか?」

 さすがに即答ではなかった。

「一時であれば、それは可能なことかと。」

「一時?」

「はい。グイニス王子殿下に護衛をつけるまでの間、その繋ぎとしてあれば、できるかと思います。」

 フォーリは嘘を言わなかった。いつも、実直に答えてくれる。だから、ニピ族は信用されるのだろう。


「では、そのようにしてくれ。私はお前ほど信用できる人間が身近にいない。だから、グイニスにニピ族の護衛を探してつけるまでの間、フォーリ、お前に護衛をして欲しい。」

「…しかし、その間、殿下の護衛はどうなさいますか?」

 タルナスとて身辺に危険がないわけではない。腹違いの弟妹達の母親達から刺客が送られてくる。フォーリの懸念(けねん)は最もだった。

「大丈夫だ。私のことは心配ない。お前が来るまでの間、親衛隊が私の護衛をしていた。また、しばらくの間、そうなるだけだ。グイニスにつける護衛が見つかったら私の元にいて、会いに行ける時に行って交代しよう。」

「しかし、それでは陛下が疑念を持たれる可能性もあります。」

「大丈夫だろう。父上は忙しく、お前とも一度も会っていない。母上もニピ族が嫌いだから、お前と会ったのは一回だけだ。顔が違うと万一、騒いだとしてもなんとでも言いつくろえる。

 それよりも、グイニスを守って欲しいし、グイニスにつける護衛もいきなり知らぬ者を送るより、一時でも私が見てどんな人か知りたいと思った。だから、こういう手続きを踏もうと思ったが、難しいだろうか。」


 タルナスの説明にフォーリは頷いた。

「承知致しました。それでは、グイニス王子殿下の護衛を早急に手配致します。」

 フォーリの言葉に安心したタルナスは椅子から立ち上がった。そして、フォーリの手を握る。

「…殿下?」

 タルナスにもこの時は、そんなに深い意味はなく、ただ自分を主として認め、護衛になってくれた自分よりも年上の青年を見上げた。

「では、今日からグイニスを護衛してくれ。」

「殿下、しかし、それでは今日のお帰りは?」

「いいから、そうしてくれ…!」

 フォーリがいなくなるのが、少し寂しかったのもあってタルナスが強く言うと、フォーリは少し困ったような雰囲気で、すぐには答えてくれなかった。きっと、どうすべきか考えていたのだろう。

「そうでないと、私が安心できない。カートン家は安全だと分かっていても安心できない。私は大丈夫だ。それこそ、カートン家が守って送ってくれる。」


 タルナスは本当はフォーリと少しの間でも、別れたくなかったが、冷静に判断するくせがついているため、自分のことよりもいつ死ぬか分からない従弟を優先して、必死に言葉を紡いだ。

「殿下、それではこう致しましょう。まずは殿下を王宮にお送り致します。その後で、グイニス殿下のために、こちらに戻ります。今日、殿下がカートン家に送られるのは得策ではありません。カートン家が関わっていると分かれば、陛下がどうなさるか分かりませんので。」


 フォーリの説明にタルナスは、自分の視野が狭かったことに気がついて頷いた。確かにそうである。自分がカートン家に王宮に送らせてしまえば、グイニスはカートン家にいると言っているようなものではないか。苦労して助け出した意味がなくなってしまう。

「確かにフォーリの言うとおりだ。カートン家が関わっていると宣伝してしまうことになるな。」

 タルナスが納得したので、フォーリは少し安堵したようだった。


「できるだけ早く、グイニス王子殿下の護衛を手配致します。」

 フォーリがそう言ってくれて、タルナスは嬉しかった。それはできるだけ早く、自分の元に帰ってきてくれるという意味でもあったから。それなのに、タルナスは少しやせ我慢をして格好をつけた。

「分かった。だが、実際にはグイニスの護衛となると、探すのは難しいかもしれない。だから、多少、遅くなっても私は大丈夫だ。いざとなれば、父上と母上がなんとかなさる。私はなんだかんだ言っても王太子だから、私に何かされるとあれば、黙ってはおられないだろうから。特に母上は。」

 タルナスの言うことは最もだったので、フォーリがどう思ったのかは分からない。この後、フォーリと話す機会はほとんどなくなってしまったから。

 物語を楽しんでいただけましたか?

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。


                               星河ほしかわ かたり

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