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王太子タルナスの回想 3

 遅くなって申し訳ありません。

 タルナスは勇気のある子だと思います。


 心に傷を負った美しい王子と、田舎の女の子の恋物語。

 恋から愛へ変化する―。

 二人の思いは成就するのか、それとも、指先から零れ落ちていってしまうのか……。


 この作品は『命を狙われてばかりの王子と田舎の村娘の危険な恋 ~けっこう命がけの恋の行方~』の設定を見直し、大幅に改変したものです。

 推敲しようとしていましたが、それに収まりませんでした。基本的な部分は同じですが、主人公セリナの設定が変わったため、変更を余儀なくされる箇所がいくつもあります。脇役達の性格や立ち位置もはっきりしたため、変えたい部分があります。

 もっと面白くなることを願って……。      

 

                              星河ほしかわ かたり

「一体、誰ですか?」

 黙って聞いてくれていたフォーリが、初めて質問した。

「それはナルグダだ。今は八大貴族として父についているが、以前は伯父上の時代に王宮の補修や設計などに携わっていた。それを考えるとナルグダなら、これらの地図に記載されていない隠し通路を把握している可能性がある。」


 懸命(けんめい)に調べたタルナスだったが、ここからは一人では無理だった。誰かに手伝って貰わないといけない。何があっても口を割らず、腕っ節も強くて実行力のある人間が味方にいるのだ。ニピ族の護衛を味方につける以外にない。


「だが、大きな問題がある。それは、私には実行していく力がないことだ。誰かに助けて貰わなければ何もできない。ナルグダを説得しようにも父上に仕えている以上、私が相談した時点で報告されてしまう可能性もある。そうなれば全ての計算が狂い、グイニスを一生、助けられなくなってしまう。

 あの子には時間がない。早く、早く助けなければ本当に殺されてしまう。両親にも甥を殺したという罪が残ってしまう。だから、私がなんとしても食い止めなければならない。何より、グイニスに申し訳ない。あの子が受けるべきものを私が奪ってしまった。あの子に全てを返したいのだ。」

 一気に言ってしまってからタルナスはうなだれた。フォーリはまだ自分の護衛ではないのに。それでも、心の焦りを抑えることができなかった。


「早くしなければ、早くしなければ手遅れになってしまう。だから、だから……、私は……!」

 タルナスはうなだれたまま、両手を固く握りしめて声を絞り出した。グイニスとはおよそ三歳違いだ。正確には二歳と八ヶ月。腹違いの弟達より仲が良かった。グイニスは弟のような従弟だ。

 両肩に手が置かれたのを感じて、タルナスは顔を上げた。タルナスに会わせてかがんだフォーリの顔が間近にある。


「殿下。殿下のお気持ちは十分に分かりました。しかし、もう一つだけ確認させてください。殿下のなさろうとしておられることは、陛下の逆鱗(げきりん)に触れる…、つまり、ご両親と対立してしまう事になりますが、そのご覚悟はおありですか?」


 タルナスは唾を飲み込んだ。さっきまであったグイニスを助けたいという熱い気持ちとは真逆に、真冬の隙間風が吹いたがごとく、心の中がすーっと冷たい気持ちになっていく。

「当然のことだ。便宜上、そして、血筋としては変えられないから、両親のことを父上、母上と呼んでいるが本当なら口もききたくない。そう呼びたくもない。だが、そういうわけにもいかない。それに、私はもう一つやるべきことがある。それは、父上をあんさ――。」

 最後まで言うことはできなかった。フォーリに口を押さえられてしまたからだ。タルナスの口から手を放してフォーリは謝罪した。


「殿下。失礼致しました。ですが、お声が大きくなっておられましたので、誰かに聞かれると大変危険です。グイニス王子殿下の救出もできなくなってしまいます。」

 タルナスは目を丸くしてフォーリを見上げた。

「殿下。私は殿下のお覚悟に感銘を受けました。私でよろしければお手伝い申し上げます。」

「それは……、つまり、私の護衛になってくれるのか?」

 タルナスはおそるおそる聞き返した。

「はい。殿下が私でよろしければ…。」


 やや控えめに言うフォーリに、タルナスはしがみついた。突発的に行ったことで、自分でもびっくりした。だが、どうしても彼を逃したくなかったのだ。

「お願いだ、助けてくれ。お前が護衛になってくれるのに、不足など感じない。ものすごく嬉しい。」

 声が気づいたら震えていた。そして、タルナスは自分でも思っている以上に、グイニスを助けられないでいる状態が、恐くてたまらなかったのだと気がついた。そして、自分一人で行うことに不安と恐怖を抱いていたのだ、とも。

 フォーリが味方になってくれると分かった途端、全身から力が抜けるようにほっとした。

 一瞬、驚いた様子のフォーリだったが、優しく頭を撫でてくれた。そして、膝をついて姿勢を正した。

「私の方こそ、お仕えさせて頂きます、殿下。これから、よろしくお願い申し上げます。」

 こうして、フォーリは味方になってくれた。

 物語を楽しんでいただけましたか?

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。


                              星河ほしかわ かたり

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