ベブフフ家の使者 9
隊長はどんな人達相手でも隊長?
心に傷を負った美しい王子と、田舎の女の子の恋物語。
恋から愛へ変化する―。
二人の思いは成就するのか、それとも、指先から零れ落ちていってしまうのか……。
この作品は『命を狙われてばかりの王子と田舎の村娘の危険な恋 ~けっこう命がけの恋の行方~』の設定を見直し、大幅に改変したものです。
推敲しようとしていましたが、それに収まりませんでした。基本的な部分は同じですが、主人公セリナの設定が変わったため、変更を余儀なくされる箇所がいくつもあります。脇役達の性格や立ち位置もはっきりしたため、変えたい部分があります。
もっと面白くなることを願って……。
星河 語
「し、執事殿…!」
役人が叫んだ。
「次はお前の番だ。」
フォーリが役人の方を向く。
「待て、フォーリ……!」
鉄扇を振り上げたフォーリを若様が止めた。
「その者には話すことがある。」
若様の声に仕方なく、フォーリが鉄扇を下ろす。
「未だ、今のうちにやってしまえ…!」
役人は叫んだ。
「まだ、やるのか! お前達の頭である執事は死んだぞ!」
役人の声をかき消すようにシークが怒鳴った。やはり、それは一喝でお腹にビリビリ響く。いつもは静かにしているだけだったらしい。領主兵達もセリナ達と同じように、ビリビリしたようだ。明らかに戦意喪失している者もいる。顔を見合わせて困ったな、という表情だ。
「君達ね、教えてあげようか。」
その時、今まで黙って成り行きを見ていたベリー医師が口を開いた。
「フォーリは当然ニピ族だ。凄腕だよ。それは君達も分かっているだろう。」
ベリー医師は領主兵達の前に出て彼らを見回した。
「そして、彼だけど。」
と言ってシークを指で示す。
「君達も聞いた覚えがあるだろう。大街道の事件。若様が狙われて大街道で放火が起きた事件のこと。その時、若様を抱えて一晩中、敵を斬り続けたのがこの人だ。
フォーリともはぐれちゃってね。たまたまヴァドサ隊長が若様を抱っこしてたけど、仕方ないから一人で敵を斬りまくった訳だ。分かっているだけで、一人で一晩のうちに三十人だよ。」
一晩のうちに、三十人も若様を殺すための暗殺者が送られたことにセリナは驚いた。それはジリナも、村娘達も同様だった。
「彼の部下達が他にも斬ってるから、総計でどれくらいだったか正確には分からないけど。全部で結局、百人近くいたか、越したくらいだったな。もちろん、フォーリもいるし。」
セリナは絶句してしまった。村娘達が一斉に息を呑んだ気配も伝わってきた。若様を殺すために百人の暗殺者? セリナは身震いした。そして、若様がシークが親衛隊の隊長でないと嫌だと言った理由が分かった気がした。どれだけ恐かっただろうか。百人も自分を殺しに来るのだ。
それから、守ってくれたのだから、どれほど心強かっただろう。若様がシークに甘えるような声で、話す理由も分かる気がした。フォーリ一人よりも絶対に心強いに決まっている。だって、二十人の護衛の長なのだから。
「それでも、やる? 親衛隊に選抜されるだけで猛者だって分かってるだろう? 君達だって。そんな相手に本当にやる? この人は真面目な隊長殿で、練兵もきっちりしているよ。はっきり言って、この人の持つ武器が箒でも君達は勝てない。」
領主兵達がざわついた。
「なにくそと思うだろうけど、今ので分かっただろう。剣を抜いてないんだよ。剣を抜いていない相手にそのざまで、本当に武器を持った彼に勝てると思ってるわけ?」
当の本人のシークは困ったなぁ、というように黙っているが、領主兵達は悔しそうだ。本当にそうなのか、疑わしく思っている者もいそうだ。これじゃあ、戦意の喪失よりも焚きつけているんじゃないだろうか。セリナは心配になった。
「じゃあ、聞くけど、寝込みを襲われて何人までなら君達、勝てると思うわけ? 自分の実力で。」
役人は何か言いたそうだったが、フォーリが襟首を掴むと黙った。そもそも、頭の二人が捕まった時点で終わりなのでは? その上、一人は死んでいる。
「ほら、君、遠慮しないで答え給え。」
ベリー医師がなぜか、領主兵の一人を指名した。領主兵は困惑していたが、仕方なく口を開く。
「……一人か、上手くいっても…二人。そもそも、深く眠って熟睡していたら、その時点で終わりだ。勝てる見込みは全くない。」
ベリー医師は鷹揚に頷いた。
「その通り。彼は七人を返り討ちにした。」
領主兵達に衝撃が走った。誰かが嘘だ、と言ったがベリー医師はすぐに反論した。
「嘘なもんか…! 部屋中、血みどろだった…! 天井から壁から全部! だから、フォーリも若様も血みどろにするなと、彼には言うんだよ。ぶち切れたら恐ろしい事態になるからね。ニピ族も真っ青だな。」
シークが微妙な顔でベリー医師を見つめていた。
「ベリー先生、若様のお加減が悪そうです。」
戦意を喪失させようと試みているベリー医師に、ベイルが声をかけた。
「ふむ。そういういわけで、君達、解散。」
領主兵達が顔を見合わせている。
「整列…!」
シークが一喝した。途端に領主兵達が思わずという感じで整列した。
「全員、指示があるまで外で待機! 右から順番に出て外で待機…! 外の者達にも伝えろ! お前達の頭の一人は死に、もう一人も捕まったと! 分かったな!」
「……。」
なぜ、親衛隊の隊長に指示されているのだ、と領主兵達は困惑している。
「返事だ! 分かったな!」
「は、はい。」
シークのビリビリくる声を聞いて、領主兵の幾人かが思わず返事してしまい、それに何人かが呼応して返事していた。
「お前達の部隊長だけ出て来い! それ以外は早く移動しろ! ベイル、移動させろ。」
ベイルは数人を連れて領主兵達を移動させた。
「部隊長、出て来い!」
シークの迫力に数人が走って前に出た。
(隊長って、どんな部隊の隊長にもなれるんだ。そういう人が隊長なんだ。)
全員がまた、全部隊がそういうわけではない。だが、セリナはそう思ってしまったのだった。
物語を楽しんでいただけましたか?
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
星河 語




