ベブフフ家の使者 8
今夜は少々短めです。
心に傷を負った美しい王子と、田舎の女の子の恋物語。
恋から愛へ変化する―。
二人の思いは成就するのか、それとも、指先から零れ落ちていってしまうのか……。
この作品は『命を狙われてばかりの王子と田舎の村娘の危険な恋 ~けっこう命がけの恋の行方~』の設定を見直し、大幅に改変したものです。
推敲しようとしていましたが、それに収まりませんでした。基本的な部分は同じですが、主人公セリナの設定が変わったため、変更を余儀なくされる箇所がいくつもあります。脇役達の性格や立ち位置もはっきりしたため、変えたい部分があります。
もっと面白くなることを願って……。
星河 語
シークが親衛隊の輪から出て、執事達の前に行こうとすると、フォーリが追いかけてそれを止めた。
「待て。私がやる。絶対に許さん。」
「そういえば、フォーリ。お前、今までよく我慢したな。」
ふと、シークが部下に聞くかのようにフォーリに言った。すると、フォーリは殺気丸出しでシークを睨みつけた。
「お前の部下達に抑えられていたからだ…! そのせいで若様を……!」
後は言葉にならずにぶるぶると拳を握って震わせている。
「隊長、その者達を殺しては、若様のお立場が悪くなると思い、フォーリを押さえていました。」
横からベイルが説明する。
「分かっている。だが、フォーリ。これは私がやるべきことだ。それが任務だ。」
すると、フォーリがいきり立った。
「何を言っている! こいつらはニピ族のことも馬鹿にしている! 絶対に許さん!」
「それを言ったら、親衛隊はもっと馬鹿にされている! 私達は陛下の兵だ。こんなことがあってはならない!」
二人は執事達の前で睨み合った。本気で怒っている二人が睨み合い、火花が散っている。
(……え? 二人とも、何やってんのよ!)
セリナは心の中で叫んだ。どっちが斬るか……、つまり、殺すかで揉めている場合ではない……!
「執事殿と私を守るのだ…!」
二人が妙なことで喧嘩している間に、役人が領主兵に号令をかけ、ざっと二人を取り囲ませて守りを固めてしまった。
「ちょっと、何やってんですか、守り固めちゃった!」
とうとうセリナは叫んだ。一触即発でお互いに兵士達が睨み合っている状況だ。村娘達は怯え、斬り合いになりそうな雰囲気に震え上がった。しかも、親衛隊である若様側は圧倒的に少ないのだ。
つまり、村人達を守る側が圧倒的に少ないのに、仲間割れして喧嘩している場合ではない。どっちが斬るかで。
「ほんとだよ、あんた達、何やってんだい!」
その時、ジリナの怒声がした。後ろからジリナも様子を窺っていたのだ。
「これだから、男ってのは! 張り合ってる場合じゃないだろ!」
ジリナはつかつかと近寄ってきてさらに怒鳴る。
「あんた達、娘達の命もかかってんだよ! 村人の命もだ! ちゃんと守ってくれるんだろうね!」
すると、睨み合っている二人は同時に振り返って同時に答えた。
「問題ない…!」
「問題ない…!」
声が全く同時に重なり、その事でさらに睨み合っている。
問題ない、これのどこが? セリナはそわそわした。今にも戦闘が始まりそうなのだ。落ち着いていられるわけがない。
「分かった。」
セリナがさらに催促しようと思った時、シークがため息交じりに答えた。
「フォーリ、その男はお前がやれ。」
仕方なく隊長のシークが折れた。こうなったからには、それしかない。やはり、いつもの展開だがほっとする。
「いいか、お前達、人数は圧倒的に我々が多いのだ…! やってしまえ! 親衛隊だということは気にするな!」
「その通りだ! 死人に口なし、全員口封じに殺してしまえ!」
執事と役人が叫んだ。この時、この二人は王子と王が貸与している親衛隊を抹殺するという宣言をしているも同じだったが、気にしてはいはなかった。自分達が勝つと確信しているからの暴言でもあろう。
二人の号令と共に領主兵達が一斉に剣を抜いた。村娘達から悲鳴が上がる。やはり、斬り合いになりそうだ。
セリナも焦って周りを見回した。どうしよう。どうやって逃げたらいいのよ、周りは領主兵だらけなのに…!
物語を楽しんでいただけましたか?
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
星河 語




