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ベブフフ家の使者 7

 隊長はやっぱり隊長でした。


 心に傷を負った美しい王子と、田舎の女の子の恋物語。

 恋から愛へ変化する―。

 二人の思いは成就するのか、それとも、指先から零れ落ちていってしまうのか……。


 この作品は『命を狙われてばかりの王子と田舎の村娘の危険な恋 ~けっこう命がけの恋の行方~』の設定を見直し、大幅に改変したものです。

 推敲しようとしていましたが、それに収まりませんでした。基本的な部分は同じですが、主人公セリナの設定が変わったため、変更を余儀なくされる箇所がいくつもあります。脇役達の性格や立ち位置もはっきりしたため、変えたい部分があります。

 もっと面白くなることを願って……。      

 

                            星河ほしかわ かたり

 領主兵達の間にかすかなざわつきが起こる。今まで、執事達が主導権を握っていたが、隊長の出現で一気に(くつがえ)ろうとしているのを分かっているのだろう。

「ならば、お前のすることは何だ?」

「無礼者どもを斬ることです。」

 このやり取りだけで、執事達は苦々しい顔になる。

「貴様ら、分かっているのか! こちらの方が兵力が上なのだぞ!」

 役人が怒鳴ったが、シークは完全に無視していた。

「お前は私の代理だ。最後までやれ。」

「分かりました。」

 ベイルは振り返った。

「貴様ら、血を見ることになるのだぞ! そこの若様がどうなってもいいのか!」


 すると、シークが少しだけ振り返った。

「黙れ!!」

 お腹の底にまで(ひび)くような一喝が広間中に響き渡った。先ほどまでの役人の怒声が、物(すご)くちっぽけに思えるようなものだった。村娘達の数人がパタパタと座り込んだ。あまりの怖さで腰が抜けたのだ。

 やはり、隊長はただ者ではなかったらしい。今まで静かにしていただけだったのだと気づかされたセリナだった。

「殿下を護衛せよ…!」

 静かになっている間にベイルが命じた。一斉に親衛隊が動いて若様の周りにざっと囲むように並んだ。フォーリも解放されて若様の隣に立つ。統率された隙のない動きに一同は気圧された。

「私はこの無礼者共を斬る…!」

 ベイルが剣の柄に手をかけて宣言した。


(えーっ!? 最後までってその最後!?)

 思わずセリナはぎょっとした。村娘達も同様だ。みんな青ざめて顔を見合わせている。

「…待って、待て、ヴァドサ。」

 その時、若様が声を上げた。シークは静かに囲われた中に入る。

「お呼びでしょうか、殿下。」

 セリナは親衛隊の兵士達の隙間からその光景が見えた。制服を着た立派な男の人が、まだ少年の若様の前にひざまずいて座っている。若様は王子様なんだ。妙にその光景は若様が王子だという事実を突きつけてきた。なぜか泣きそうになって、こっそりセリナは涙を拭いた。


「この…者達は、村人をみんな抹殺すると言った。だから、言うことを聞けと。そうでないと、皆殺しにすると言っていた。」

「殿下、ご安心下さい。そのようなことにはなりません。」

 シークはきっぱり答えた。この間、ベリー医師にからかわれていた時とは別人のようだ。

「……でも、フォーリがざっと数えただけで、領主兵が百人以上は来ているだろうって。」

 若様のさっきの氷の鎧を(まと)っていたかのような厳しい声が、少しだけ和らいで元に戻っていた。いや、少し違うような気もする。

(……もしかして、若様、隊長さんに甘えてるの?)

 以前もシークとベイルにきつく当たっていたことを思い出した。若様の表情は兵士達の囲いでよく見えない。でも、子どもが親に甘えているような感じがして気になった。

「殿下、ご安心下さい。大丈夫です、それくらい。たかだか百人程度、その程度一人当たり五人ほど斬れば済む話です。」

 いつものシークは、フォーリに何か言われて折れて仕方なさそうにしている姿とか、若様に何か聞かれて教えている姿とか、部下達がじゃれてきて、それを(かわ)している姿とか、手が足りない時に薪割りしていたり、水くみを手伝っていたり、そんな姿しか見ていなかったので、今の発言が信じられなかった。

 それは他の村娘達も同様で、リカンナは目を見開いて彼のいる方角を見つめていた。


「でも、もっといるかもしれないって。フォーリが言ってた。だから、私はみんなを守らなきゃいけないって思って、その人が宴会を開いて酌をしろって言ったから、酌ぐらいしてあげようと思った。でも、フォーリもベイルも絶対にダメだって。」

 シークの顔色が変わったんじゃないかと思う。とにかく、はっとして若様の顔を凝視している。セリナは、これは若様の口を塞ぐべき話なのではないかと考えていた。だって、明らかに火に油を注いでいないだろうか。

 領主兵もそわそわしている者が幾人かいる。すでに、先ほどの一喝で執事達も黙ってしまったし、兵士達の中に明らかに恐そうにしている人も幾人かいるのは確かだ。


「誤解だ!」

 その時、役人が叫んだ。さすがに危険を感じたらしい。

「誤解じゃない。だって、夜まで行くって言ってた。夜って何? 普通の夜じゃないんでしょ?」

 その時、若様の隣に立っているフォーリが怒りのあまりに、ぶるぶる震えだした。セリナが初めて若様と出会った時以上の殺気が吹き出してくる。

 そして、それは若様の前にひざまずいているシークも同様だった。若様の言葉を聞いた途端、彼の周りの空気が切れる刃物のような鋭利な感じに変わった気がした。

 だが、シークはフォーリのように殺気を丸出しにはしなかった。呼吸を整えた途端、少し収まったようだ。

「殿下。分かりました。殿下がこのように不愉快な思いをされてしまいましたことを、深くお詫び申し上げます。申し訳ありません。」

 シークは言って静かに立ち上がった。これは……、完全に怒っているを上回って、完全にぶち切れている状態なのではないだろうか。


「どうして謝るの? やっぱり、夜って悪いことだったの? 酌っていうのをしようとしたから?」

「いいえ、違います。殿下は何も悪くありません。私共の不手際を謝罪したまでです。」

「…やっぱり、夜がいけなかったんだ。」

 若様も混乱しているようだ。もういいよ、若様。夜について考えなくていいよ。心の中でセリナは言う。

「若様、それについては私が後で教えてあげますからね。」

 ベリー医師がそっと来て囁いていた。うん、それが一番いいって思うわ。セリナは一人で頷いた。


 物語を楽しんでいただけましたか?

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。


                            星河ほしかわ かたり

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