ベブフフ家の使者 6
隊長のシーク登場。風向きが変わります。
心に傷を負った美しい王子と、田舎の女の子の恋物語。
恋から愛へ変化する―。
二人の思いは成就するのか、それとも、指先から零れ落ちていってしまうのか……。
この作品は『命を狙われてばかりの王子と田舎の村娘の危険な恋 ~けっこう命がけの恋の行方~』の設定を見直し、大幅に改変したものです。
推敲しようとしていましたが、それに収まりませんでした。基本的な部分は同じですが、主人公セリナの設定が変わったため、変更を余儀なくされる箇所がいくつもあります。脇役達の性格や立ち位置もはっきりしたため、変えたい部分があります。
もっと面白くなることを願って……。
星河 語
「何の騒ぎだ! 何をしている!」
その時、突然、玄関前の広場中に一喝が響き渡った。もう、それは“一喝”そのもので、セリナも村娘達も全員、思わず全身の毛が逆立って背筋を伸ばしてしまった。執事と役人とその取り巻き達も同様だった。そして、何より親衛隊員達が一番、緊張していた。
そう、忘れていたが、執事達は兵士達を連れてきていたのだ。だから、余計にベイルは慎重になっていた。流血沙汰になってはいけないと思っているのだろう、それくらいセリナにも分かっていたし、村娘達も全員理解していた。
だって、親衛隊の数よりも執事達が連れてきた領主兵の人数の方が多いのだから。
静かに歩いてくる気配がして、一斉にみんな振り返った。隊長のシークだった。少し顔色が悪そうだったが、怒っているためか少し紅潮している。
そう、完全に怒っている。見たことがないほど、厳しい表情をしていて大変な迫力だ。思わず村娘達はみんな、彼の歩くところを作るように避けていた。シークの後からベリー医師がついてくる。静かだと思ったら、ベリー医師はシークを迎えに行っていたらしい。
とにかく、シークがこんなに怒っている姿を見たことがない。若様が散歩に行って起きた事件の時も厳しい表情をしていたが、今の怒っているのとは違った。
「ベイル、これはどういう状況だ?」
隊長に問われて、フォーリを押さえていたベイルはすぐに離れると、シークの前で姿勢を正し説明しようと口を開いた。
「お前は誰だ?」
絶妙な間で執事が尋ねた。
ある意味神経が図太いのかもしれない。それとも、自分の方が偉いと思っていて、そのせいで恐くないのかもしれない。命令し慣れているせいで、もしかしたら、親衛隊も自分の命令で言うことを聞かせられると思っているのかもしれない。そんなことをセリナは思った。そして、それはほぼ当たっていた。
そうでないと、こんなにド迫力で怒っている人に“お前”呼ばわりで、この状況で聞くことなんてできないと思う。
案の定、シークは厳しい表情のまま、くるりと執事達の方を向いた。彼らの後ろにいる領主兵達も眺める。領主兵達の中には、すでに剣に手をかけている者もいた。
「私は国王軍親衛隊配属セルゲス公付護衛隊隊長のヴァドサ・シークだ。あなた達はベブフフ家の使者か?」
本当の役職名がこんなに長いとは知らなかった。セリナをはじめとした村娘達はびっくりしていた。
「そうだ。お前はなぜ、重要な場に遅れてきたのだ?」
執事は少し押され気味だが、それでも偉そうにシークに尋ねた。大貴族に雇って貰っているとはいえ、小さかろうか地方だろうが、貴族だという自負に不遜な態度が現れている。
「…最初に言っておくが、私は親衛隊の隊長だ。陛下よりじきじきにご命令を賜り、セルゲス公殿下に無礼を働く者は、どんな者であれ斬って良い許可を頂いている。」
すると、執事は鼻で笑った。
「そんなものが脅しになるとでも? お前は陛下の命令を頼みの綱としているようだが、陛下は結局八大貴族のご領主様を捨てることはなさらない。お前かご領主様かを選ぶとしたら、間違いなくご領主様だ。」
今まで若様をいたぶっていた時とは代わり、警戒しながら口元の笑みを深くしつつ、冷たい目でシークを見据えている。
「分かるか? だから、陛下は“若様”をここに送ることを許されたのだ。つまり、どいういう状況になるか分かっていて、送られたということだ。黙認されている。だから、実際に斬ってみろ、結局のところ、陛下はお前ではなくご領主様をお守りになる。断罪されるのはお前の方だ。そうなれば“若様”の護衛も変わらざるを得ないだろうな。」
執事は、はははと馬鹿にしたように笑った。
「どうだ、言い返す言葉も見つからんか?」
「言いたいことはそれだけか?」
「お前の方も凄んでみせるだけが精一杯だろう。いいか。我らの判断で、陛下にどのように伝えられるかが決まる。我らの判断で、若様の病状が変わるのだ。そうなれば、セルゲス公の位も剥奪されるかもしれんぞ。いいな。それに見えているだろうが、こちらの方が武力が上だ。それらを踏まえた上で賢い判断をしろ。」
「そうか。」
シークは淡々と言うと、ベイルに向き直った。
「ベイル。お前が慎重になった理由は分かった。だが、私達の任務はなんだ?」
「若様――、殿下をお守りすることです。」
「そうだ。陛下はたとえ、八大貴族の誰だろうと殿下を侮辱する者は斬れ、と仰った。私の代理をする以上、それは全うしなくてはならない。この者達は殿下に対して無礼を働いたのか?」
「はい。」
頷いたベイルの目から迷いが消えた。セリナ達はお互いに顔を見合わせた。
「…ね、ねえ、これどういうこと?」
リカンナと小声で言い合う。一触即発ってこういう状況を言うんじゃないの? 領主兵達の緊張が一気に高まっている。広間の空気が急速にピリピリしだした。肌に刺してくるような気がして恐い。
物語を楽しんでいただけましたか?
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
星河 語




