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ベブフフ家の使者 5

 若様の態度が急変。セリナ達は初めて若様の変化を目にします。


 心に傷を負った美しい王子と、田舎の女の子の恋物語。

 恋から愛へ変化する―。

 二人の思いは成就するのか、それとも、指先から零れ落ちていってしまうのか……。


 この作品は『命を狙われてばかりの王子と田舎の村娘の危険な恋 ~けっこう命がけの恋の行方~』の設定を見直し、大幅に改変したものです。

 推敲しようとしていましたが、それに収まりませんでした。基本的な部分は同じですが、主人公セリナの設定が変わったため、変更を余儀なくされる箇所がいくつもあります。脇役達の性格や立ち位置もはっきりしたため、変えたい部分があります。

 もっと面白くなることを願って……。      

 

                              星河ほしかわ かたり

「この小娘! 私達を馬鹿にするのか! どこまで侮辱すれば気が済む! 私達を誰だと思っている!」

 セリナは執事の怒鳴り声にさっと振り返った。びしっと執事に指を突きつける。

「そっくりお返しします! 最初に若様を馬鹿にしたのは、あんた達じゃないの! どうよ、やり返されて! 腹が立つでしょうが! 若様を嫌らしい目つきでじろじろ眺めて! どれだけ可愛いからって、あんなにべたべた触って! 気持ち悪いのよ!」


 すると、それを契機に村娘達が頷き合った。

「ほんと、気持ち悪かった……!」

「鳥肌立ったもん!」

「吐きそうだったわ!」

「ほんと、ゾッとした!」

「最低よ!」

 娘達の反応に執事と偉そうな小役人は目を丸くし、わなわなと全身を震わせた。


「わたし達だって知ってるんだからね! 若様が本当は王子様だって! 王子様にそんなことをして、無事ですむと思ってんの! 村中にあんた達が若様に嫌らしいことしようとしたって、ふれ回ってやる! わたし達だけが証人じゃないようにしてやるんだから!」

 セリナは二人に指を突きつけて怒鳴った。

「待て、それでは、若様の名誉が傷つく。」

 ベイルが生真面目に注意したが、セリナは聞いていなかった。

「わたし達をただの小娘だと思って、馬鹿にしないでよね!」

「セリナ、落ち着いて。」

 興奮しているセリナを若様が(なだ)めようとする。若様は病み上がりで、影のある顔を心配で曇らせていた。こんな時でも若様は可愛い。


「ふはは。」

 セリナが少し若様にみとれている間に、執事が不気味に笑い出した。

「貴様らは私が誰か忘れているようだな。何も問題はない。ここは小さな村だ。お前達が大切にしている若様に夜の相手をして貰っても、何も問題ない。」

 執事の目が異様にぎらりと光る。

「村ごと全員、葬ってやる。」

 フォーリ以外、全員が数秒、この男の言っている意味をすぐに理解できなかった。

「何を……、言ってるの、あんた。」

 セリナの声が震えた。

「まあ、お前もなかなかの器量よしだ。お前を二人で抱いてから若様を楽しみ、その後で村人全員を抹殺することにしよう。そうすれば、証人は一人もいないな。」

「あんた、自分の欲望のために、村人全員殺すって言ってんの!?」


 セリナは震えた。勝手に体が震えてくる。そんなことを簡単に言ってのける人間がこの世に存在しているなんて、信じられなかった。

 実際には、この執事達は欲望で抹殺すると言っているわけではなかった。もちろん、領主からの了解があるからである。若様の王子としての名誉を傷つけるというものに対する了解だ。

 執事がニヤリと笑ってセリナに近づいてきた。

「どうした、さっきまでの勢いは。今さらになって私が恐いのか? だが、遅すぎたな。まずはお前を頂くとしようか。」

 執事がセリナに手を伸ばしたその時。


「やめろ、その娘に手を出すな。」

 若様が制止した。若様は硬い表情でさっきよりも、ますます血の気が失せて顔色が悪かった。若様も震えていた。優しいから、村人全員を殺すという男に対して怒り、また怯えているのだろう。

「……ほう。若様がこの娘の身代わりになると仰っているので?」

 ニヤリと笑った執事は若様に標的を変えた。ゆっくりと近づき、若様に手を伸ばす。誰もがはっとした。パシッと音がして、若様が執事の手を叩き払ったのだ。

 若様はうつむいたまま、震えていた。

「……だ、誰にも、手は出させない。村人を傷つけるのは、許さない…!」

 若様はきっ、と顔を上げてはっきり言った。その両目には涙が盛り上がっている。


「ははは、泣きながら随分と可愛らしい威嚇(いかく)ですなあ。」

 執事と小役人は高笑いした。その間に何か聞こえた気がして、セリナは若様を振り返った。セリナには聞こえたのだ。小さな声だったけれど、はっきりと。なぜか、背中にぞくりと悪寒が走った。

「無礼者、控えよ、と言っている!」

 若様の(りん)とした声が響き渡った。馬鹿にしていた二人は押し黙ったが、一瞬だけだった。

「いきなり、なんでしょう。偉ぶってみせても、お立場はなんら変わりませんよ。」


「本当にそうか?」

 若様の声が冷たくなっていく。まるで、氷の鎧を身に(まと)っていくようだ。

「私を誰だと心得ている?」

「……セルゲス公でいらっしゃいますが。」

「無礼である。態度を改めよ。まさか、セルゲス公という位が、王族が陛下から賜る位の中で、最高位だということを知らぬというわけではなかろうな?」

 まるで別人だった。美しい顔が氷のように冷たい表情を浮かべている。

「最後にもう一度言う。態度を改めよ。」

 執事達は困惑したまま、呆然と突っ立ったままだ。だが、執事が笑い出した。

「いいのですか。私の言葉一つで、セルゲス公のお立場は大きく代わるのですよ。セルゲス公でいられなくなる可能性だってあるのですが。」

 口調は柔らかかったが、明らかに恫喝(どうかつ)だった。若様は珊瑚色の唇を引き結んで小さく震えている。 

 物語を楽しんでいただけましたか?

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。


                             星河ほしかわ かたり

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