表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/134

盗み聞き 9

 親衛隊を交代されてしまうと、若様の命が危なくなるという話をセリナはジリナから説明を受ける。


 心に傷を負った美しい王子と、田舎の女の子の恋物語。

 恋から愛へ変化する―。

 二人の思いは成就するのか、それとも、指先から零れ落ちていってしまうのか……。


 この作品は『命を狙われてばかりの王子と田舎の村娘の危険な恋 ~けっこう命がけの恋の行方~』の設定を見直し、大幅に改変したものです。

 推敲しようとしていましたが、それに収まりませんでした。基本的な部分は同じですが、主人公セリナの設定が変わったため、変更を余儀なくされる箇所がいくつもあります。脇役達の性格や立ち位置もはっきりしたため、変えたい部分があります。

 もっと面白くなることを願って……。      

 

                             星河ほしかわ かたり

「まあ、わたしも油断してたさ。お前に見られたのはね。まあ、だから、この際言ってしまえば、ヴァドサ殿は好みって言ったら好みだね。」

 いきなり白状されたので、セリナは目を丸くして母の顔を凝視(ぎょうし)した。

「父さんや村の男達とまるで違うことくらい、お前だって分かってるだろ? そりゃぁ、目の前にいい男達がうろうろしてるんだから、眠ってた女も目覚めてくるさね。」

「……母さん?」

 なんだか、今、とんでもないことを白状されているような気がして、セリナはちょっと不気味に感じた。


「お前、気づいてないのかい? 村中の女達が色めきだっているのを。そりゃ、若様やフォーリ殿は、はっきりした美少年と美男子だよ。でも、あの二人は手が出せない、高嶺の花だからあきらめているさ。

 ところが、親衛隊もなかなか(そろ)っているからね、みんな彼らが用事で村を通りかかる時、仕事を作って外に出て行くくらいだよ。うぶそうな子を狙って唾をつけられないか、みんなして狙っているんだよ。既婚、未婚を問わずにね。」

 若様に夢中で、村の娘達の変化にリカンナに言われて気づいたセリナは、最近になって観察して理解したくらいだった。が、少しでも知っているので虚勢を張った。

「……そ、それくらい知っているわよ。」

 でも、すでに結婚している既婚者達まで色めきだっているのは知らなかった。


「どうせ、リカンナに教えて貰ったんだろ。まぁ、いいけど。」

 ジリナは言ってニヤリと笑い、右手を頬に当ててため息をついた。

「お前は分かってないんだよ。正々堂々と正面切って、若いピチピチの男の裸を見られるんだから。特権ってヤツだね。しかも、礼儀正しい。もう少し若かったら、唾つけたかったねぇ。」

 セリナはびっくりして言葉を失っていたが、はっと思い出した。

「……あ、でも、母さん、隊長さんって婚約者がいるんだって。えーと、モなんとかっていう人が言ってた。」

 セリナはなんだか非常に慌ててしまっていた。もしかして、この村中で一番危険な人が目をつけているんじゃないかと思う。

「まあ、そりゃあ、婚約者の二人や三人いたっておかしくないさね。」

「婚約者って……、二人も三人もいるもんなの? 普通一人なんだと思ってた。」

 母の言葉にセリナは本気でびっくりした。


「馬鹿だね、言葉のあやだよ。でも、大昔は名家になると婚約者は二、三人どころか、三、四人ほといたらしいけどね。」

「…へぇ、そうなんだ。じゃあ、隊長さんもそうなのかな。」

 なんだか、釈然としないものを感じながら思わずセリナは呟いた。すると、ジリナが馬鹿にしたように笑う。

「もう、あのヴァドサ殿がそういう人だと思うかい?」

「ううん、思わない。真面目そうだと思うし。ベリー先生の冗談に本気で怒っていたところを見ても、軽い人じゃないと思う。」

「分かってるじゃないか。とにかく、今日のことは誰にも言うんじゃないよ。ヴァドサ殿があそこで療養してるってことも、言ったらだめだからね。」

 セリナは頷いた。リカンナにこっそり教えてあげようかと思っていたが、ダメらしい。

「セリナ、ちゃんと盗み聞きしてたんなら分かると思うけど、ヴァドサ殿が二回も毒を飲まされた話をしてただろ。だから、言っちゃだめなんだ。家でもうっかり漏らすんじゃないよ。」

 頷きながらセリナは疑問に思う。家でも漏らすなというのは分かる。セリナだって先日の事件は頭にこびりついている。きっと、セリナの後をつけて父オルとの会話を盗み聞きされたに違いないのだ。


「親衛隊の隊長って、何回も毒を盛られたりするもんなの? 交代させるためなんかなぁ、くらいは分かるけど。若様も親衛隊は隊長さんじゃないと嫌だって言ってたし。」

 ジリナは少し深刻な表情でため息をついた。

「お前も王妃様が若様を嫌っていることくらいは、分かってるだろ?」

「うん。」

 ひどい話だ。叔母が甥を殺そうとするなんて。

「王太子様の邪魔になると思って、殺そうと狙っている。」

「…狙ってって……。」

 改めて言われると後は言葉にならなかった。つい先日の事件を見れば明らかだ。今の王妃様は若様のことが邪魔だから、殺したいのだと。若様がシークが親衛隊じゃないと嫌だと言うのは、彼が王妃の言うことを聞かない、つまり、王妃の息がかかってない人だということだ。

 セリナもそれくらいは分かる。


「分かったかい? ヴァドサ殿は王妃様の息がかかってないってことだ。だから、ヴァドサ殿を殺すなり、社会的に抹殺するなり、何かして追い落とし、王妃様の息がかかった親衛隊に変えようとやっきになっているということだ。」

 セリナは母の深刻な表情を見ながら頷いた。

「この間の事件を見ても分かるとおり、この村にもそういう奴らが来ている。だから、あんなことが起きた。この間の事件も口を滑らせたら、親衛隊の交代の口実になる。そうなれば、若様は抵抗できない。だから、余計に誰のせいでもないと若様は言われたんだ。もし、親衛隊が交代されてしまったら、どうなるか。セリナ、お前も分かるね?」


 想像以上に深刻な話になっていくとは思わず、セリナはびっくりしていたが、よく考えたらそうなのだろう。母のジリナのこういう話に間違いはないので、セリナは神妙な顔で頷いた。

 親衛隊の隊長の命は、若様の命に繋がる。本当に盾となって守っているのだと分かった。ただの地味な人ではなかったらしい。今までとても失礼なことを思っていたと反省しつつ、誓うようにはっきり口にした。

「若様の命を守るためにも、絶対に隊長さんのことを口外しない。そして、村の人にも事故だったって言っておく。村で唯一、事件の目撃者っていうか、当事者だったわたしがそう言えば、そうなのかもしれないって、みんなも思うかも。」

 すると、ジリナが珍しく微笑んで頷いた。どうやら正解だったようだ。

「お前も頭が回るようになってきたじゃないか。そういうことだよ。」

「へへへ。やっぱりそうかな。」

 厳しい母に褒められて、セリナは調子に乗りながら照れ笑いする。


「それはそうと、セリナ。仕事を怠けてるんじゃないよ…! 盗み聞きした罰、ここの裏側の通路の掃き掃除、とりあえず五日間、あんたがするんだよ。」

 このまま忘れてくれたらいいな、と思っていたが、やっぱり忘れてくれていなかったのだ。

「はーい。」

「なんだい、その気の抜けた返事は。」

「はい、分かりました。」

「ほら、早く行くよ。」

 こんな話をして、セリナは時々、ジリナと本当の親子のような気がする瞬間があるのだった。前よりは母と距離が近くなった気がしたセリナだった。

 物語を楽しんでいただけましたか?

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。


                             星河ほしかわ かたり

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ