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第二話 花桃の備忘録②

今から数年程前、彼女が小学生だった頃。マリは、今の十倍は我儘であった。

というのも、クラスで一番背が低く。高校生になった今も健在であるクリクリとした愛らしい瞳を携えた相貌に、光加減で金にも見える柔らかな栗色の髪は彼女の可愛らしさを際立たせ。男女問わない人気者で、周囲にずっとちやほやされていたからである。

学校だけでは無く家族もそんな彼女の事を大分甘やかしていたため、マリは世界が自分中心に動いているのだという感覚で毎日を生きていた。

給食で出たデザートが欲しいと言えば、病欠の生徒の分は優先的に回して貰える上に、自分に好意のある男子が譲ってくれる。

グループ作りは必ず、自分が真っ先に誘われる。休み時間、昼休みは女子に囲まれ「麻里奈ちゃんの髪ふわふわ!」と言われながら髪を梳かれたり。机の中や下駄箱に入れられていた手紙で体育館裏に呼び出されては、月一。多い時には、週一で告白されていた。

それでも、マリには自身に見合うと思える男子と思わなければ。何の迷いも無くその申し出を断った。

どんなに足が速い子も、勉強が出来る子も。学級委員をやるような真面目な子も、明るくクラスの中心にいるような子も。誰も、マリのお眼鏡には適わなかったのだ。


(私は強くて優しくて、私の事を守ってくれるようなカッコイイ人が良いの!)


そう思いながら、マリは学校から帰宅すると。自宅のベットに寝そべりながら、よく少女漫画を読み耽っていた。

小学校入りたての頃に、母親秘蔵のラブストーリーを勝手に読んだ日から。彼女の趣味は少女漫画、恋愛アニメやドラマ全般を見る事である。


(そして、ただカッコ良くて優しいだけじゃなくて。ロマンティックな出会いとか、ドキドキするような思いをさせてくれる人が良い!)


そんな、現実的ではない夢見がちな願望が。マリの中で日々膨らんでいたのだが……当然、そんな出来事が訪れる事は無かった。

彼女が五年生だった時の、二月初旬迄は――。


「麻里奈ちゃん! 今度ね、隣のクラスに転校生が来るんだって!」

「へぇ、そうなんだ」

「転校生って、なんか珍しいね」


生返事をするマリとは対照的に、驚きの表情をする女子生徒その一。


「なんか、今までずっと海外に居たんだって! それで、つい最近日本に戻って来たみたい」

「それって、“帰国子女”ってやつ!?」


沸き立ち始める女子生徒その一と、その二。


「男子? 女子?」

「さぁ、そこまでは……」

「マジか~!! 男子希望! 帰国子女って、英語話せるって事でしょ!? メッチャスペック高いじゃん!」

「確かに! あと、なんか“帰国子女”って肩書がカッコイイし」

「それな!」


マリは心の中で「どうせ、帰国子女なんていったって。しょせん小学生だし」と思いながら、二人の会話を耳に入れていた。


(やっぱ、ロマンティックで素敵な恋をするなら。中学生か、高校生くらいにならないと無理だよねぇ~。周り、ガキばっかだもん)


などと、彼女は自身の事を棚上げして辛辣な事を思う。


――その翌日。

マリが普段通り、始業の予鈴が鳴るギリギリに到着するよう通学路を登校していると。


「とうっ!!」


という威勢の良い声が頭上から降って来た。


「わぁっ!?」


直撃こそは免れたが、驚いて思わず尻もちをついてしまうマリ。

それが飛び出して来たのは道では無く、道の脇に立つ家の屋根の上からだったのだ。


「ちょっ、何なの一体!?」


驚きでバクバクと脈を打ち鳴らす心臓を抑えながら、マリは苦情をその人物へと放つ。


「しかも、どっ、どこから来たのよ?!」


すると、マリの言葉を受け。その人物は「あっ、ごめんね」と告げる。


「道に迷って……そういう時は、高い所から目的地を見つけた方が早いから」


そして、右手をマリに差し出しながら「大丈夫?」と尋ねた。

その人物は、マリとあまり年齢の変わらなそうな少年で。短く切り揃えられた髪に、動きやすそうなズボンと緑のパーカーを纏っている。


「大丈夫じゃない! あなたのせいで、せっかくのお洋服が汚れちゃったじゃない!」


お気に入りのスカートなのに……と、文句を言うと。少年の視線が、マリの顔から少し下がり。「あっ」という小さな声と共に、気まずそうに顔を逸らした。

疑問に思い、マリは彼が見たと思われる箇所へと目を向けた。


「なっ……!!」


そこでようやく、自身の下着が彼に丸見えになっている事に気が付く。


「えっ、エッチ!!」

「ごっ、ごめん!! ちゃんとは見てないから!!」

「嘘つくな!!」

「ほっ、ホントだよイチゴちゃん!!」

「しっかり柄まで見てるじゃない!!」


気まずそうな少年に、羞恥心と怒りで混乱するマリが辛辣な言葉を浴びせまくっていると。二人の耳に、小学校のチャイムの音が響く。


「あっ!」


彼に気を取られ、学校をすっかり失念してしまっていた。


「も~!! あなたのせいで遅刻じゃない!!」


いまだに地面にペタンと腰を降ろしたまま、マリが喚く。


「も、もう……学校始まっちゃった?」

「一応まだだけど、今から五分後の本鈴で朝の会が始まるの! こっから学校まで、五分ちょっとは掛かるから、もう間に――」


刹那、マリの身体が宙に浮き。いつの間にか、少し見上げた先には少年の顔が近距離で存在していた。


「ちょっ!?」


彼に横抱きに抱きかかえられた事を察したマリは、戸惑いをあらわにするが。


「しっかり掴まってて」


先程より、真剣な声に。マリは全身の動きを思わず止める。


「三分で着くように行くから」


そして言うや否や、彼は風の如く駆け出すのであった。

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