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第一話 立夏の邂逅⑥


「まあ、兎にも角にも」


会話が脱線しまくる中、ケルベロスの右の首が口を開く。


「コイツは連れて帰らせて貰うぜ。オイ、さっさと地獄に戻って、あくせくとしっかり働けコラァ!!」

「ふざけんなバカ犬!! 折角、ジャンヌと再会出来たんだ、俺はこのまま――」

「ジル」


ケルベロスの右の首に噛み付かんばかりに吠えるジルの名を、ジャンヌが呼んだ瞬間。


「はい、何ですかジャンヌ!」


と、ジルは満面の笑みを向けて来た。

その様子に、ランはほのぼのと「極端で分かりやすいなぁ~」と溢す。


「お前は罪を犯し、その償いをしている最中なんだろう?」


なら……と、ジャンヌは真っ直ぐにジルと視線を交わらせる。


「職務に従事し、いつか赦されるまでしっかり励むんだ。簡単にはいかない事だろうが、それが叶った暁には――」


ジャンヌは少し、口端を柔らかく吊り上げて。


「再び、友として積もる話しをしよう」


と、優しく告げた。


「ジャンヌ……!!」


感極まった様子のジルが、声と共に涙を溢す。

それを横で見守っていたランは「素敵な友情ですね!」と呑気に言い、ケルベロスの右の首は「オイラには良く分からん」と返した。


「あ、そうだ。帰る前に、お前さんの記憶を消しておかなければな」

「記憶を消す?」

「ああ、前世の記憶を持つ聖女サマは兎も角、お前さんは普通の人間……っぽいからな」


と言う、ケルベロスの右の首の言葉に。


「いや、コイツが普通の人間にカテゴライズされるなんざ、俺は認めねー!」

「悪い娘では無いのは分かってるんだけど……私もごめんなさい、同意見です……」


目くじらを立てて言うジルと、心底申し訳なさそうな表情で言うジャンヌ。


「えっ、私? とっても平均的かつ平凡ですよ?」

「「どこが!?」」


ランの言葉に、ジルとジャンヌの声が思わず揃う。


「唯一抜きん出てるって言われるのは……あっ、体力測定で常に学校内一位取ってるくらいです!」

「なんだそれ!?」

「凄いんだね、本当に……」


吠えるジルに、呆気に取られながら言うジャンヌ。


「でもな……いくら非常識人だからって、こっちも規則だし。もう、これ以上失態をするのは……」


ケルベロスの右の首の言葉に、ランが「失態?」と疑問符を浮かべると。


「コイツ、俺が与えた菓子に気を取られてる間に。俺に地獄から脱走されたんだよ」


と、ジルが得意気に言う。


「ジル、威張って言うな」


だが、すぐさまジャンヌにたしなめられ。「すみません、ジャンヌ」と少し嬉しそうな顔で謝る。


「うう……罪人の拷問官は、亡者と同じく地上に出せない決まりなのに……よりによって、オイラが当番の時に……」


目元に涙を浮かべるケルベロスの右の首の頭を、ランが「よしよし」と撫でた。


「お菓子好きなんですか?」

「……甘い物全般」

「私の友達と一緒だ」


ランは笑みを浮かべて告げると、制服のポケットからビニールの袋に個包装されたチョコレートを取り出す。


「チョコ食べますか? その友達がくれたんです」


ランの言葉に、ケルベロスの右の首がすぐさま反応。


「チョコ?」

「うん、チョコ」

「……良いのか?」

「うん、どうぞ」


と、屈託の無い笑顔でチョコレートを差し出すラン。


「……でも、これを貰ったからって記憶は――」

「大丈夫ですよ、消しちゃって」


その場に居た全員が、驚きの表情を向ける。


「だって、そうしないと困るんですよね?」


何の含みも感じない声で告げるランを、ケルベロスの右の首は瞳を揺らしながら見上げた。


「でも、その前に。落ち込んでるみたいだから、チョコ食べて元気出して下さい」


そう言われ、少し躊躇いながらも。ケルベロスの右の首は両前足でチョコレートを受け取り。そして、数度鼻を小刻みに動かしてからパクっと噛り付いた。すると、彼の表情はパァっと明るく輝き出す。


「気に入って貰えたみたいで良かったです!」


そう無邪気な表情で言うランから、ケルベロスの右の首は自身の足元へと沈んだ表情で視線を落とす。


「あっ、あの。百合園先輩!」


ランはケルベロスの右の首から、ジャンヌへと顔を向けて声を掛ける。


「私が忘れちゃっても……もし、また。出逢えるきっかけがあったら、今度こそ『恋キミ』の話し。しましょうね!」


ケルベロスの右の首と同じように、無邪気な声と表情で言うランに。ジャンヌの胸には切ない気持ちが込み上げ。


「あの――」


と、ジャンヌがケルベロスの右の首を振り返った刹那。


「この事は」


ケルベロスの右の首の声が、図書室内に鋭く響く。


「他言無用。この場に居る者達のみの秘密。それを絶対に守って貰えるなら……」


言いながら彼は、気恥ずかしそうに。


「このチョコレートに免じて、記憶の消去は見逃してやる」


と、言葉を続けた。


「お前、本当に菓子に弱いな」

「うるさい殺人騎士! さっさと帰るぞ!」

「ついでに、俺を見逃してジャンヌとの青春を謳歌する許可を――」

「絶対に却下だ」


ジルの台詞に、きっぱりと言い切るケルベロスの右の首。


「ジル……お前は罪の償いがあるだろう? 地獄に帰って、きちんと勤めを果たすんだ」

「無理矢理なBL展開は良くないので、お帰り下さい」


続けて、ジャンヌとランにもこのように言われてしまう。


「そんな、ジャンヌゥゥゥー!!!!」


という叫びを上げるジルの足元に、黒い穴が出現し。彼の身体を足から順に、少しづつ飲み込んで行く。

ジルの頭に身体を乗せていたケルベロスの右の首は、「じゃあ、達者でな~」とジャンヌとランに前足を振り。二人も「お達者で~」「ジルをよろしくお願いします」と手を振りながら、黒い穴へと消えて行く一人と一匹を見送った。


「……なんか、変な事に巻き込んじゃってごめんね」


黒い穴が消え、すっかり静かになった図書室に。ジャンヌの声がそっと響く。


「いえいえ! 悪魔と対決するなんて初めてでしたので、とっても良い経験になりました!」

「そっ、そうなの?」


予想外の反応に、ジャンヌは戸惑う。

周囲はジルが暴れた事実など無かったかのように、ランが一人で図書当番をしていた状態に戻っている。恐らく、ケルベロスの右の首の力か何かなのであろう。


「改めて。私は前世で、祖国に平和が訪れるように……という願いの元、田舎の農民でありながら。戦いに参加させて頂いたジャンヌ=ダルクという者でした。現在は、百合園純矢として生を受け。勉学と同時に、風紀委員の仕事に順次しています」


礼儀正しく、まさに騎士の風格でジャンヌが告げる。


「貴女の名前を……貴女の事を、教えて下さい。そして……」


柔らかな笑みを浮かべ、元聖女の美青年は続けた。


「私と、友人になって頂けませんか?」


ジャンヌの言葉に、ランは満面の笑みを浮かべ。それから肯定の返事と、自身の名を告げるのであった。



第一章 立夏の邂逅【Fin】

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