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第五話 白百合の芽吹き⑩

「えっ?」


無意識に頭に浮かび、心が呟いてしまった言葉に。ジャンヌは驚き、思わず声を溢してしまう。


「ジャンヌさん?」


不思議そうな表情で自分を見上げるランに、ジャンヌは思わず赤面し。


「えっ、イヤっ!! なっ、何でもないよっ!! ごっ、ごめんねっ!!」


と、慌てて無理やり誤魔化す。


(急に、私……何!? どうしたの!?)


心の中で、いまだ混乱したまま自問自答を繰り返すジャンヌ。


(好き、って……そりゃ、ランちゃんのこと好きだよ? だって、私の込み入った事情を全部受け入れてくれて。友達になってくれて、好きな漫画の話しも合って……)


「大丈夫ですか? まさか、さっきの実を食べて……」

「いやっ、だっ、大丈ぶ……」


言い掛けてからジャンヌは先程、自身が“禁断の果実”と疑わしき物を食べていた事を思い起こす。


(まさか、アレの所為で!?)


果実に知恵を与えられ、自身の中に潜んでいた本心に気が付いてしまったとでもいうのか?


「もし大丈夫でしたら、私も食べて良いですか?」

「だっ、ダメー!!」


つい慌てて叫んでしまうジャンヌ。


「えっ? 何故でしょうか?」


いつもと違和感ある様子のジャンヌに驚き、ランは目を丸くしながら尋ねる。

ジャンヌとしては。ランが食して何かしらの知恵をつけ、予測不可能な彼女に想定外の事態が起こってしまう事への懸念。そして、現在のジャンヌの心の内に勘づかれてしまったら……と、考えるが。


(そんな事、ランちゃんに言えないし……)


と、焦る頭で思う。


「まさか、ジャンヌさん……それ、ゴム人間になってしまう果物――」

「それは無いから!」

「でも、悪魔さんからのお見舞いの実ですし」

「確かに、悪魔の……って、いや、そうじゃなっくってね!」


ジャンヌは「ホラ、見て!」と言いながら、自身の頬を引っ張り。


「全然伸びないし、カナヅチにもなってないよ! 多分」


と、告げた。


「良かった……でも、じゃあ。なんで食べちゃダメなんですか?」


純真無垢な瞳が、ジャンヌを優しくも容赦無く追い詰める。


「そっ、それは……」


少々口籠ってから。


「凄く、不味かったから……」


と、ジャンヌは苦し紛れに言った。


「大丈夫ですよ。私、野営生活で舌もお腹も鍛えてるんで」

「いや……ダメだよ! 病人には、身体に障る程の不味さだから!」

「そっ、そうなんですか? でも、せっかくジルさんとケルベロスの右の首さんが下さったので……」


尚も、果実を食べようとするランに。ジャンヌは切り分けられた残りの実の乗った皿を取り、ランの手の届かない位置まで少し移動すると。口に入るギリギリの量を口内に放り込む。


「ジャンヌさん!?」


ジャンヌの行動にランが成す術無く見ている事しか出来ない中、ジャンヌはどんどんと自身の口の中に果物を含み。やがて、喉を通過させて体内へと吸収させていく。


「だっ、大丈夫ですか!? 凄く不味いって言ってたのに……」


慌てて咀嚼し、慌てて飲み込み捲ったので。落ち着きを失ってしまった身体を少し宥めてから。


「だっ、大丈夫……問題無い、よ……」


と、少し疲れた声音で返す。

正直、味自体は今まで味わった事の無い未知の味というだけで不味いと感じるものではなかった。


「すっ、すみません……ジャンヌさんに食べさせてしまって……」

「だっ、大丈夫だよ! 私の方こそ、ランちゃんのお見舞いなのに強奪する形になってごめんね」

「そんな! ジャンヌさんが私の為に全部食べて下さったの、ちゃんと分かってますから!」


力強い瞳と声で言われ、ジャンヌの胸の鼓動が早鐘を打ち始める。と、同時に。頭の中には、自身の意思とは関係無しの言葉が溢れて来る。


“辛くて苦しくて、助けが欲しい時には私が助けます”


――困った時に、いつも助けてくれて。辛い時、何も言わなくても察してくれて。それから、笑顔で優しく癒してくれて……。


“何言ってるんですか?”


――カッコ良く手を差し伸べてくれて、何の偏見も打算も無く。


“ジャンヌさん、立派な可愛い女の子じゃないですか”


――私を、女の子扱いしてくれて……。


(あぁ、そっか……私、ランちゃんに……)




恋、してるんだ。




刹那、ジャンヌの体内を熱が駆け巡り。頬を火照らせ、思考がショートする。


「ジャンヌさん、本当に大丈夫ですか? まさか、私の風邪移しちゃいましたか!?」


焦った様子のランの声が届くが、その顔をジャンヌは今。直視する事が出来なかった。


(私は、ランちゃんに……恋、してる……)


心に響かせてしまった言葉を、ジャンヌは心の中で呟き繰り返す。


(なんで……)


言ってから、彼女は。


(なんでなの、私ー!!!!)


と、内心で悲痛な叫びを上げた。


(せっかく出来た、本心を打ち明けられて。前世の私の事も受け入れてくれる女の子の友達に……ランちゃんに……どうして、私、もう……)


疑問を溢しながらも、その答えは明確で。だが、それでも彼女はワザと目を逸らした。


「ジャンヌさん、本当に大丈夫ですか?」


心配気に顔を覗き込むランに、絶対に言うことが出来ない自身の秘密に気が付いてしまったジャンヌは。


「だっ、大丈夫だよ! ごめんね、ボーっとしちゃって……」


ぎこちない笑みを浮かべ、再び誤魔化すのであった。



  * * *



……ちなみに、その後。

悪魔と魔獣からの見舞いの果物を丸々平らげる事になってしまったジャンヌは。自宅へ帰宅後、知恵熱で一日寝込む羽目になってしまうのは……また、別のお話である。



第五話 白百合の芽吹き【Fin】

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