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第一話 立夏の邂逅②


(夜に『恋キミ』読み始めちゃって寝坊した!!)


そう心の中で思いながら、ランは学校への通学路を疾走していた。口には朝食代わりなのか、ゼリーのチューブパックを咥えている。

急がないと遅刻――と、ランは最初に思ったが。思いの外、全力疾走のスピードが速かったらしく。割と余裕をもって校門へと到着する事が叶う。


(そんなに焦らなくても大丈夫だったな)


そう内心安堵し、下駄箱でスニーカーから上履きに履き替え。ランは残り僅かになったゼリーを飲み干す為、パックを口に咥えたまま顔を上げて。ゴミ箱がある方へと歩き出す。

すると、前方も左右も不注意になったランに何かが衝突し。彼女は廊下に倒れてしまう。


「ゴホッゴホッ!!」


衝突の衝撃で、変な所にゼリーが入ってしまいむせ込むラン。


「ずっ、ずみまぜっ……ゴホッゴホッ!!」


よそ見をしていたのは自分の方であった為、ランは息も絶え絶えに謝罪の言葉を言う。だが、相手からの返答は、何も返っては来なかった。

疑問に思い、ランは喉に落ち着きを取り戻すよう促しながら。自分の前に立つ人物へと視線を上げる。

そこには、鋭い目付きの男子生徒が。着崩した制服をワイルドに着こなして立っていた。

見た事の無い男子の姿に、ランは気管の刺激で涙目になりながらも疑問を浮かべる。だが、そんな彼女の視線を横目に。彼は涼しい表情で、さっさとその場から立ち去って行ってしまった。


「――大丈夫!?」


すると、未だに気管支と格闘するランの元に声が降って来る。

少し咳が小さくなってきたランは、今度は声のした後方へと顔を向けた。


(あっ、二年の貴公子様!)


ランに駆け寄って来たのは、昨日クラスの女子達……ひいては、学年。否、学校中から注目を受ける貴公子こと。百合園純矢であった。


「ゴホッゴホッ!!」


ランは未だにまともな返事を言う事が出来ず、咳で返してしまう。

すると、貴公子は最初。驚いた表情をしていたが、すぐに優し気な表情で。


「大丈夫、焦らなくて良いよ」


と、声にも優しさを含ませて言ってくれたのだ。


「鞄の中身、散らばっちゃったね」


辺りを見回して告げた貴公子の言葉に。


(しまった!! 慌てて家出たから、締め忘れてたんだ!!)


と、内心焦るラン。

そんな彼女に気が付かぬまま、彼は親切にも辺りに投げ出されたランの筆記用具や教科書を拾い集め始める。


(ああ~!! 貴公子様がそんな……私なんぞの荷物を、申し訳ない……!!)


そう、ランが思う傍ら。


「ん?」


貴公子は、廊下に放り出された一つの冊子に手を伸ばして一度動きを止めた。


「これ、『恋キミ』の新刊!?」


嬉しそうな声が弾け、ランは驚きながら彼の手元を覗き込む。すると、そこには昨日マリから借りた漫画冊子があった。


「私も、この漫画大好きでね! 今回、ヒロインへの恋が一つ大きく前進したのは、感動して涙が止まらなかったよ!」


嬉しそうな貴公子の言葉に、ランは最初首を縦に思い切り振って肯定してから。数度、軽い咳をして。


「分がりまずっ! 私もっ、昨日の夜読ん……で……ゴホッ……しばらく余韻で、なかなか眠れませんでした!」


と、ようやく言葉を発した。


「だよね!」


彼女の言葉に、嬉しそうに肯定する貴公子。


「特に泣けたのは、この巻のあの――」


刹那、校舎内外にチャイムの音が響き渡り。朝の予鈴が、二人の間に咲いた会話に水を差す。


「もっと話たかったけど……教室に行かないと、だね……」

「ですね……」

「じゃあ、また今度。ゆっくり話そう」


貴公子の誘いに、ランは「はい、是非!」と返し。二人は各々の教室へと足を急がせるのであった。

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