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第四話 遅桜の秘め事②


昼休みが終わり、午後の授業を寝ぼけまなこで受けたランは。放課後を迎えていた。


「マリ~、マリは今日も保健室?」


教室にて、マリに尋ねるラン。


「そう~。委員会、私以外殆ど運動部だから」


ラン達の学校には、少し特殊な規約が存在していた。

部活動の入部は絶対では無いが、無所属の場合はなるべく委員会活動での仕事を部活加入者よりも率先して行うように……というものだ。勿論、仕事内容は教員や各委員会の委員長によって平等に振り分けられるが。図書委員であるランや、保健委員であるマリのように。特定の教室に、昼休みや放課後在中するような業務のある委員においては。放課後の部活動の為、部活加入者達は昼休みのシフトや別の仕事を回され。逆に、無所属の者は放課後のシフトへ優先的に回される。


「最近、教室か保健室にしか居ない気がする」

「なんか、チラッと聞いたんだけど。マリ、“保健室のおかしな妖精”ってちまたでは呼ばれてるらしいよ」

「巷ってどこ?」


ランの言葉に疑問符を浮かべるマリ。


「まあ、ここの学校の保健室。居心地良くって、嫌いじゃないから良いんだけど~」

「保健室の先生、優しい人らしいしね。そういえば、私まだ遠目でしか見た事ないなあ」

「よっしー先生優しくて面白いよ~」


マリはニタニタとしながら告げる。


「ねえ、マリ……明日は、一緒にお昼ご飯食べない?」

「えっ、なんで? 貴公子は?」

「ジゃ……百合園先輩は、まあ、置いといて……」

「置いとくな!!」


思わず声を張り上げてしまうマリに、ランは驚きつつも。


「いや、でも……そろそろ、ちゃんとマリに許して欲しいというか……仲直り、したい……と、いうか……」


ランの言葉に、マリは「許す? 仲直り?」と疑問符を浮かべる。

「なんだそれは。私、ランになんか怒ってた?」と、思考してから。「あっ、そういえば。貴公子との時間を設ける為に、ランの人気沸騰にかこつけて。怒って突き放す演技したの忘れてた!」と、記憶を蘇らせる。


「ごめん、忘れてた。もう、何も怒って無い」


そして、素直に言った。


「ホント!? 良かったぁ~……」


ランはマリの発言に疑問を抱くこと無く、ホッとした表情を浮かべる。


「マリと、もうお昼一緒に食べれなくなったり。一緒に遊べなくなったら、どうしようかと思ってた……」


心底安心した様子で言うランに、マリの心が少し軋む。


「わ、私が居なくても。貴公子が居るでしょ」

「百合園先輩は百合園先輩。マリはマリで、どっちも私には必要不可欠で大事な友達だから」


そう笑みを浮かべて告げるランに、今度はマリの心臓が静かに跳ねる。


「あ……そろそろ、委員会行かなきゃ」


それを悟られないように、いつもの口調で慌てて言うと。鞄を持って、教室の入口へと歩み出す。


「了解。委員会、頑張ってね!」


屈託の無い笑みを向けるランに、マリは「おう、ありがと~」と返しながらも。教室を出てから、溜息を一つ溢し。


「あぁ、もう……ホント、いい加減にして欲しい……バカ……」


と、赤くなった顔を俯かせて言うのであった。

そんな親友の心情に、全く一切何も気が付かぬまま。


「マリ、もう怒ってなくて良かった~」


と、呑気に喜ぶラン。

そして「明日は、マリが好きそうなお菓子でも持ってこよう~。あ、でも。今日はもう帰るし、久々にマドレーヌでも作ろうかな~。絢子先輩にも、いつものお礼を……」と考えていると。


「――オイ、アマゾーヌ!」


鋭く、聞き覚えのある声がした。


「いや、私が作ろうと思ってるのはマドレーヌで……」


と、言いながら声の方へと振り向くと。


「あ、ジルさんに。ケルベロスの右の首さん! こんにちは、お久しぶりですね!」


ジルと彼の肩に乗っかるケルベロスの右の首が、窓の外で浮遊していた。


「何だよ……マドレーヌ、って……」

「オイラ、好物だぞ」

「知らねーよ」


ジルはケルベロスの右の首をあしらってから、脱力した様子で。


「つーか俺が言うのも何だが、少しは驚いたりしろよな……」


と、続ける。


「この嬢ちゃんには無駄だろ」


しかし、それを今度はケルベロスの右の首が一蹴。

ランも非常識な存在である彼等に慣れてしまったが、彼等もランの異常さに若干慣れてしまっていた。

ちなみに、ランの居る教室にはケルベロスの右の首とジルの魔術で既に彼女以外の生徒は居らず。廊下からも、彼等の姿を確認される事の無いように術を施されている。


「今日はどうしたんですか? 観光ですか?」


ランの質問にジルが「ちげーよ」と、言い。ケルベロスの右の首が「地獄はブラックで、休日なんて無いんだぜ」と言う。


「それは流石、地獄ですね……」

「まぁ、その割には地獄の番犬サマはフラフラしてるけどなァ?」

「オイラだって遊びに来てるワケじゃねーんだよ。仕事だ、仕事」

「ンの割に、帰りに毎回。駅のコ●ジー●ーナーでケーキ買って帰ってんじゃねーか!!」

「ありゃ、オイラの分の仕事も負担してくれてる真ん中の首(・・・・・)左の首(・・・)へのお礼とお土産だ!」


もはや名物となっているジルと右の首との言い争いを眺めながら「右の首さん、律儀なんだな~」と、ほのぼのするラン。


「今日は何のお仕事何ですか?」


何気無く、彼女が尋ねると。


「実はな、嬢ちゃん……」


ケルベロスの右の首が、少し重たそうな声を出す。


「嬢ちゃんに折り入って……その、頼みたい事が……あるんだ」


と、告げる。

不思議そうに右の首を見つめる中、ジルの表情も。いつもより、真面目な影を落とし。少し様子が異なっている雰囲気を、ランは強く感じ取るのだった。

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