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本当はどうなの

近江が来る少し前、ある人から話したいことがあるとショートメールが送られてきた。


 一見すると迷惑メールのようだが、知っていた人物なので了承し、彼らが決めた日にコナタはある居酒屋へ赴いた。


「よく来てくれたね。こっちだよ」

「はい。今行きます」


 既に座っていた彼らの所にコナタは向かい、頭を下げて腰を下ろす。


「もしかしたら来ないと思ってたよ。こんな忙しい時にすまない」

「いえいえ。そこまで切羽詰まっているわけではありませんでしたから。淡路さん。宗谷さん」


 コナタが待ち合わせた人物は本来なら今頃一緒にVR料理を探求していたメンバー。淡路柳太と宗谷泉だった。正直、コナタは彼らのことに関してはあまり知らない。石垣との食べ比べによって交流などほとんどないからだ。食べ比べが終わってからは晴れて一緒に協力する仲になる。機会があるのなら人柄ぐらいは知りたいもので、今回の誘いに快諾したのだ。


「今回、来てほしかったのは言わば前の延長みたいなものだ。ちょっとアクシデントもあってあんまり喋ることはできなかったからね」

「はい。こちらもそのつもりです。よろしくお願いします」

「ならまず聞くけど、君はどうやってVR料理を盗んだの?」


 淡路とコナタが話していた中、黙っていた宗谷がコナタに問いかける。内容は友好的とはいいがたい。淡路も難色を示し、目を細めた。


 前回と比べて、淡路と宗谷にはコナタに対する畏怖がなくなっていた。仕事の場と言うこともあり敬語だったのかも入れないとコナタは最初思ったが、そうではないらしい。

 どうやら、二人はコナタがヴイスからVR料理を盗んだと思っているようだ。だからこそ、敬語は外れてしまい他人行儀か敵意が込められた言い方になっている。


「泉。そんな言い方はないだろ」

「柳太だって、冷静に考えればこの子がVR料理を盗んだ方がありえるって言ってたじゃない。遠回りに話をはぐらかしても仕方ないでしょ。例え間違いだったとしても、説明してもらわなきゃ仲良くなりたいなんて思えない」


 二人の会話からコナタはこの場における彼らの目的について把握した。要するに、コナタが怪しいから弁解してほしいと言う訳だ。


 確かに、突然現れた天才を怪しく思い、二人が審議を知りたいのは当然だった。


「すまないね、山県君」

「いいんです。はっきり言ってくれた方がこちらも助かります」


 コナタの返事に、宗谷が淡路に勝ったかのような視線を向ける。彼女からすればこの場で言い繕う気はなかったようだ。真直ぐな性根だと感じるが、気難しい人物だという印象を持つ。


「それで、貴方はVR料理を盗んだのかしら。それとも、何か別の理由で知ったとか?」


 回答を求める宗谷にコナタは口を閉じる。


コナタが隠している事実を言えば、VR料理をこの10年間研究していて、解析班が研究していたウォーネットにVR料理があった理由を説明はできる。


 それを聞けば、宗谷も淡路も納得してくれるだろう。この場にはいない石垣でさえも同情してくれるかもしれない。


 しかし、


「残念ながら、私から直接は事の全てを話しません。ただ言えるのは、VR料理を作ったとこの世界で言えるのは私一人だけだということです」


 コナタは安易な慰めなんて欲しくはなかったし、他人にできるだけ事情を話したくなかった。


「それは貴方が後ろめたいことをしたと認めたってことになるけど」

「疑う気持ちもわかります。だから、事情を察するヒントだけ話しましょう」


 無論、それで話を終わらせるほどコナタは我儘ではなかった。二人とはできるだけ仲の良い関係を築いていきたい。だが、今ここで問いかけられたことは本当に信じられる人間にしか言わないことだ。コナタからすれば、二人はまだ他人以上友人未満の関係であり、ここで真相を話そうと思えるほどの人間関係が出来ていない。


 だから、たどり着く糸口だけ教える。後は勝手に調べてくれれば知ることができるだろう。


「その前に宗谷さんにお聞きしたいのですが、解析班はウォーネットで研究した技術をVR料理以外は今のゲームに活用しているということでよろしいのでしょうか?」

「……ええ。たぶんそうよ」


 納得いかないのか、宗谷の返事は怒気を含んでいた。しかし、不貞腐れるのではなく、返事はしてくれたことで話を続ける。


「なら、それが糸口の一つ目です。どうしてウォーネットにおいてVR料理だけ世に出すことを上層部が禁止したのか。それを調べることができればわかると思います」

「悪いが山県君。それはできないよ」


 淡路がコナタの発言に反論する。その言い方は宗谷の態度と比べて軽く、かつ楽しそうにしていた。彼はコナタのことをヴイスに所属しながら敵としては見ていないのだろう。無論、仲間としても。


「私たちは社会人だ。会社の秘密に関してはそれなりに厳しくてね。知っていたら外に話してはいけないし、教えられていないことを探ろうとしたら首が飛ぶ」

「それは怖いですね」

「そうだよ。社会は怖いのさ」


 人の生活を脅かすこと何てコナタもしたくない。糸口の一つ目はできないのなら二つ目を出すしかない。


「なら、次の糸口を話しましょう。それは一言で表すのなら、私です」

「……ねえ、どういう意味かわからないんだけど」


 言い方が回りくどく、宗谷は憤りを感じながらコナタを睨みつける。コナタもその目見続けられるのは堪えるので細かな補足を付け足した。


「お二人が私のことを知れば何となく察しが付くと思います。因みに私に付いて知るとは別に友人関係とか性格とかじゃありません。第三者的に調べることが出来る情報です。例えば、出身地とか、所属していた学校とか」

「なら、今言ったことを教えてくれないかしら」

 

 少し考えれば最もな正論を言われて、コナタは自嘲してしまう。


 そして、自分がやはりこの二人に自分の身の上を話したくないのだろうと認識した。はっきり言ってコナタが話そうという意思があるのならこんなことにはなっていない。自分の話せることを全て話せば終わる話だ。


 しかし、どんなに相手が納得してくれて、かつ自分の正しさを証明できることでも話したくないことはあるのだ。コナタは二人に打ち明けることはできなかった。


 だから、これまで通りきっかけだけを話すことしかできない。


「出身地はここ東京です。それから骨間第二小学校を卒業して、骨間第五中学校を卒業。それで高校は有形学園に在学中です」

「へえ、有形か。俺の母校じゃん」

「淡路さんはOBでしたか」

「巡りあわせもあったもんだ」


 淡路と縁があったことに驚き、話が弾みそうになるコナタ。しかし、運命のいたずらか。宗谷とも全く共通点がなかったわけではないらしい。


「柳太は楽しそうね」

「そりゃ、そうだ。母校の名前が出てくることになるとは思いもしないからな」

「住んでいた場所が一緒だった私とは大違いね。山県君、君がさっき言った骨間って北海道でしょ」

「ええ、そうですよ。珍しい名前ですよね」

「私も高校までは骨間だったから。出身学校は違うけど」

「すごいですね。こんなに共通点があるとは」


 宗谷ともまたコナタは住んでいた場所が同じだったのである。宗谷が大体20代なので、もしかしたらコナタと宗谷はどこかで会っていたかもしれない。


「なら、少し特徴的ね」

「可笑しいって何がだよ。泉」

「生まれは東京で育ちが北海道。普通、何かなきゃこんな遠くに引っ越さないわ。恐らく親の仕事関係かしら」?

「ええ。そうでしたね」

「両親の仕事は?」

「……ええと」


 話が盛り上がる中、コナタは会話に少しだけ間を生んでしまった。日常的になら違和感を持たないが、雰囲気を壊したこの間を宗谷は見逃さない。


「そう。親の仕事が関係してるんだ」

「……まあ、そんな所です」


 宗谷はこの時、初めて満足げな顔をしていた。状況が好転したことが余程嬉しかったのだろう。過程よりも結果に重点を置く人格である。逆に淡路は話題が終わったことを残念そうにしていた。この二人は下の名前を呼ぶほど仲が良いが、それはお互いにない長所を持って認めているからだった。


 淡路は努力そのものを楽しむので長続きするが、寄り道しやすい。宗谷は結果が出ないと憤るが、だからこそ最短で辿り着く道を探せる。


 コナタは話す必要はもうないと感じ、二人が頼んであろう料理も来たので話題を変えた。


「さて、別のことを話しませんか? 正直、尋問みたいでこっちは居心地が悪い」

「ええ、そうね。成光のこと話しましょうか」

「いいですね。石垣さんってどんな人なんでしょうか?」


 宗谷から石垣についての話を振られ、コナタも興味を持つ姿勢を見せる。コナタからすれば今は競争相手でありながらあまり知らない人物が石垣成光という人物だった。


 ただ、しっかりとした信念はあるのだろうなとコナタは思っていた。VR料理をコナタが作ったものではないと考えるのなら、上が黙認していようが従わずに自分の選択を優先する。不器用な生き方だが、嫌いではない。


「仕事はかなり真面目だし、優秀だよ。実際、私たち3人の中では一番能力は高い」

「だから君を疑ってるってわけね」


 コナタの想像通りの返答をされて、反応は薄くなってしまったが安心もした。自分と戦う人間は絵に描いたような悪役であってほしくない。あくまで、意見の違いで争っているだけだから。


「それに、この時点で君が勝てるとは思ってないし、成光に勝ってほしい。石垣をはじめ解析班は精鋭揃い。仕事の合間とは言え、それが本気で挑んでいる。私たちから見ても解析班は何時もに増して忙しそうで、その姿を見たら報われてほしいのよ。それに比べて、君はそこまで頑張ってないようだし」


 準備も怠っていないらしく、今回の戦いの厳しさを改めてコナタは知れた。それでも負けるだろうという恐怖は一切ない。


「頑張ってますよ。自分なりにね」

「良ければ、どんなことしてるか教えてくれないか。正直、私は興味津々だ」

「残念ながら、本番のお楽しみということで」


 キメラ料理をこの一か月で完成させて本番に臨む。コナタがするのはそれだけだ。方針を途中で変えるようなことはしない。


「ただ、言えることがあります。相手は一か月ですが、こっちは10年の成果になります。だから、100人がいようが負けるわけにはいきません」


 今回出すキメラ料理こそが、10年かけたコナタの今の答えなのだ。


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