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悪魔の知識

石垣の推測は一見すれば言いがかりとも表せる内容だった。


 確かにウォーネットの技術を流用すれば、VRゲームは10年以上進んだものになるとさえ噂されている。それほどまでにデスゲームという要素を除けば素晴らしいゲームだった。


 しかし、唐突にコナタのVR料理とウォーネットを紐づける接点がない。


 石垣も自分の発言は今の時点で部屋にいる全員に信じてもらえないことはわかっていて、根拠を述べ始めた。


「ウォーネットを作った蘇雲は自分の技術を残さなかった。ゲームが発売されると同時にウォーネットの関係するあらゆるデータを消去しました。しかし、ヴイスにはその解析班が作られていましてね。私も以前はそこにいました。今もウォーネットとはどんなゲームだったのかを調べている。その解析班の一人が私に山県さんがこれまで出してくれたVR料理と似たようなものがあったことを教えてくれました……再現は未だにできていないようですが、まるで現実で食べているような食事ができるとされています。加えて、実際にウォーネットから生還した人も食事に関しては現実とそん色ない味だったと言っているようです」


 コナタは押し黙り、石垣を睨んだ。確かに、VR料理はウォーネットと無関係ではない。コナタ自身が話したくもない事実がある。


「どういう理由かは知りませんが、貴方はウォーネットの技術を手に入れ発展させた。そうではありませんか?」


 しかし、石垣の推測は見当違いである。。他人の技術をさも自分のものであるかのように振舞ったりはしない。それこそ、コナタが一番嫌悪する行為なのだから。


「違いますね。VR料理は俺だけのものだ」

「では教えてくれませんか。VR料理を作ろうとしたきっかけは。どうしてST1で作ろうとしたんですか」

「特に理由はありませんよ。ただ、VR空間で料理が出来たら面白いだろうなと思って、たまたまVR空間を体験できる機会がST1だった。それだけです」

「なら、どうして今まで隠してきたんですか?」


 石垣は納得することなくコナタを質問攻めにする。それに、今まで隠してきたという石垣の認識がコナタを益々不快にさせた。


「隠すって……」

「こんなに素晴らしい技術。普通は世に出そうとします。それなのに、貴方は完成どころか既に一つのゲームとして出せるまで隠してきた。そこには大きな理由があるのではありませんか。もし、8年前に出していれば蘇雲さんの技術ではないかと疑われることを危惧したのではありませんか?」

「8年前ってまだ私は7歳ですよ。今だって高校生だ。今日に至るまでVR料理を世間に知らせる方法を知らなかった。それだけです」


 根本的なことは隠しているが、コナタの返答に嘘はない。特別な機会がなければ、コナタは今だってVR料理を自分一人だけで誰にも知られず作っていたはずだ。今までのことは全て近江の自殺現場が始まりだった。


 アレルギーにも拘らず食事をして死ぬようなことがなければ、コナタは近江が食べられないことで悩んでいることを知らないままだっただろう。VR料理で彼女を笑顔にしようとも思わなかった。


 近江に説得されて、ヴイスでVR料理の発展をしようなんて思わなかったはずだ。


 ここにいるきっかけは近江だったのだ。彼女を一瞥し、コナタは石垣に自分の思いを伝える。


「私がここにいるのは近江さんのおかげです。彼女がVR料理は素晴らしいものだと評価してくれた。だから、もっと沢山の人に知ってもらおうと思いました。誰かの助けになると考えられた。決して、誰かの技術を盗んだものではありません」

 

 コナタは自分の思いを言い切った。


 しかし、石垣にはその思いが届かなかった。


「……そうですか。残念だ。正直に、山県さんの過ちを認めて欲しかったです」


 石垣はそう言うと、自分の鞄から一枚のディスクを取り出した。それを部屋にあったST1に入れて、ゲームを作動する。


「これ以上は口で言ってもわからないでしょう。確たる証拠を提示します。皆さんもVR空間へ来てください」


 半信半疑ながらも、石垣に言われた通り全員がVR空間へと入る。民家のような空間に入り、石垣が操作するとテーブルにある食べ物が出てきた。


「先ほど、ウォーネットの技術を再現できていないと私は言いましたが。あれは嘘です。本当は一つだけ再現できていました。どうぞ、お召し上がりください」


 出された食べ物はおにぎりだった。それを鷲掴みに頬張ると具である鮭と米の味が口に広がる。


 現実と寸分変わらない味であり、コナタのVR料理のおにぎりと全く同じ味だったのである。


 他の同僚は困惑した表情で視線を泳がす。それはコナタへの疑念の表れであり、失望でもあった。


 彼らは少なからずコナタに尊敬の念を抱いていた。運が良かったとはいえ自分一人で10万も売り上げるゲームを作り上げた高校生。しかも、才能は自分たちプロよりも一部においては大きく勝っている。

 その要因はただの模倣だった。がっかりするのも仕方がない。


 しかし、近江と松阪の反応は違った。

 特に近江は殺意すら感じる目つきで石垣を見ている。


「どうでしょう。完全に再現できていますよね。コナタさんの料理にも似たようなものが――」

「貴方馬鹿にしてるの⁉」


 掴みかかっていくような勢いで石垣へと迫っていく近江。平手でもするかと思ったが、その怒りは言葉に変換された。


「一度までならず、二度までも。そんなに山県君からこれを盗みたいの」

「私が山県さんのVR料理をコピーしたと。それをさも自分のもののように語っていると?」

「そう考えるのが普通でしょ。最初に盗もうとした人たちも貴方も人間性を疑うわ。協力してくれるっていう人からその発明を盗んで、それだけじゃなく山県君を悪者にしようだなんて。ここまでヴイスが悪徳になっていたとは。私はこの企業の重役の娘で恥ずかしい」


 近江からすれば石垣の話を信じられるはずがなかった。故に、彼がどうしてこの場でVR料理を出せたのかという疑問について一つの答えしか思いつかない。


 旧味覚開発部門と同じようにコナタのVR料理をコピー。そして、筋が通りそうな話をでっちあげてコナタをヴイスから技術を盗んだ人間として仕立て上げる。


 松阪も同じような見解を持ち、石垣に心底軽蔑したような表情を向けた。


「石垣さん。君は本当にこの技術がヴイスのものだというのかい?」

「ええ、もちろんです」

「なら、いくつか質問させてくれ」

「わかりました」

「まず、どうして今に至るまでこのことを黙っていた。もっと言えばこのウォーネットの料理は何時から再現できていたのだ?」


 石垣が疑われてしあう理由はVR料理を今になって出してしまったからだ。もしも、予めVR料理がウォーネットにあって開発が進んでいるとされていれば問題はなかった。しかし、コナタがVR料理を世間に出してきてから自分たちが作ったものであると主張する。


 これではこちらが正しいとは思えない。加えて、自分たちが作った証拠である今出されたVR料理も信ぴょう性がない。前例から考えるに、石垣がコピーしたのだろうという推測が出来てしまうからだ。


「この料理の技術そのものが発見されたのは1年前になります。我々がウォーネットからこのVR料理を解析することに成功しました」

「それなら1年は期間があったわけだ。どうして黙っていた?」

「上から命令されていたんですよ。特にVR料理について再現できた技術を他のゲームに流用してはいけないと。他部署にも漏らしていけなかったんです。皆がっかりしていましたよ。この料理を世間に公表すればどれほど人を笑顔にできるかと」


 松阪は石垣の言い分に具体的な判断が出来なかった。松坂もヴイスの解析班が発見した技術を外に出してはいけないものがあるということを噂で耳にはしている。


 しかし、解析班の本分はウォーネットのようなデスゲームがもう一度世に出てしまった時に対策のためだと聞いていた。


 本当の意味でウォーネットのことは解析班と一部の重役しか知らないブラックボックスだった。調べるにも時間がかかるだろう。その間はVR料理を作ったビジネスは完全に停止しなければいけない。


 ビズネスの側面で考えるのであれば、石垣のやったことはあまりにも無駄でしかなかった。


「私は解析班の代表としてここに来ました。私たちのやっていることは酷く自己中心的なことなのでしょう。それでも言わずにはいられなかった。山県さん、それはヴイスのものだ。決して堂々と言えることではないが、確かにヴイスの職員が作ったものなんだ。それをどこで盗んだかは知らないが、さも自分のもののように出すのは許さない」


 自分が正義だと言わんばかりに石垣はコナタに断言する。その姿はコナタからしてみればひどく滑稽に映った。まだ、この部屋には誰も彼の味方はいない。心を揺さぶることはできるだろうが、調べて白黒がはっきりするまではあくまで仮説でしかないのだ。


 同時に、ここまでVR料理を侮辱したことに怒りを感じた。VR料理をウォーネットの技術であると決めつけたことはVR料理が悪だということに変わりなく、狂人の発明だと言われているのだ。


 許せるものではない。


「わかりましたよ。もういいです」

「認めるんですね。自分の罪を」


 口にした意味を勘違いした石垣を嘲笑い、コナタはある提案を申し込む。


「そんなわけないでしょ。でも、この場じゃ水掛け論にしかならない。事実がはっきりするのも暫くかかるでしょう。その時間は非常にもったいない」

「もったいない?」

「そうでしょう。少なくとも、グルメ・ヘルスというゲームでVR料理は世に出てしまったんです。他者だって必死になってヴイスと並ぼうとするでしょう。その間に私たちは仲間割れ。下手したら追い抜かれます。だから、実力ではっきりさせましょう」

「実力?」

「一か月後、食べ比べをしてみませんか。貴方方解析班が作った最高のVR料理と、私が作った現時点の最高のVR料理でね」

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