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理由

四季折々の花が季節を無視して一斉に咲き乱れる美しい光景。


文字通りこの世のものではないのだと嫌でも実感させてくるそれが唯一の癒しでもある矛盾。


『僕』は今現実逃避に花を愛でている。



安堵から泣き出したら四阿に案内された。

お茶とお菓子でもてなされ、歓迎されているらしい。

男性は控えめに微笑むと心地のいい声で言った。


「私のことは『あまね』と呼ぶといい。これから先、永い時を共に歩むこととなる。よろしく頼む。」

「あ、あまね様…よろしくお願いします…」


温かいお茶は心を落ち着かせてくれた。

涙が止まる頃、あまね様に質問をする。


先ほどまでいた街は何だったのか。

ここはどこなのか。

なぜ自分がこんなことになっているのか。

あまね様は何者なのか。


「ふむ…。先ほどまでいた場所は『廊下』のようなものだ。お前にここに来てもらうのに必要だった。お前を選んだのは…私がお前に惚れたからだな」


フッと笑うとこちらに視線を寄越す。

それはなんだか熱を帯びているようで…恥ずかしくなった。

いたたまれなくなり、お茶をグイッと飲み干す。


「お前に辛い思いはしてほしくない。だがここに招いた以上、現世に戻ることは許せん。」


ハッとしてあまね様の顔を見上げる。

隣に座っていても少し高い位置にあるその顔は曇っているように見えた。


心のどこかで帰れないことは分かっていた。

だから驚くよりも納得した。


それでも簡単に「はい、そうですか」とは言えない。

もう家族に会えないのかとか、学校どうしようとか、行ってみたい場所があったのになとか、色んな思いが渦巻く。


あまね様の正体については答えをもらっていない。

ただ、ここに来るためにあの場所へ『僕』を連れていったのだとしたら簡単に信用していいとは思えない。


それに…『僕』に惚れたとは…会うのは初めてなのにどこで…?


人生で初めてされた告白がこんなに不思議な状況だなんて誰が想像できるだろう?


そう、人生で初めて…。こんなに綺麗な人が?


「悩む顔も愛らしいな。先ほどの驚き顔も愛嬌があってよかったが。」


顔から火が出そうだ。

異性からの好意に慣れていないのもあって、これ以上あまね様の隣は耐えられない。

物理的な距離を確保することにした。


「ちょ、ちょっとあっちの花を見てきますね!」


そして花を愛でている。


結局ここはどこであまね様は何者なんだ?

わからないことだらけだ。



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