公園
公園が急に静かになった。
先ほどまでたくさんの子どもが遊んでいた気配があり、声が聞こえていたのに、だ。
ブランコの揺れるキィキィという音だけが耳障りに響いていた。
間違いなく直前まで子どもが遊んでいたと思わせる揺れだった。
公園の中が見える位置に来た途端、音が止むなんて。
誰の姿も見なかった。
反対側にも公園の出入口はある。
そこから出ていく人の後ろ姿すら見かけることはなかった。
賑やかな声に安堵したつか間の出来事。
『僕』には受け止めきれない。
どうしようもなく怒りが込み上げてくる。
どうしてこんな理不尽な目に遭わなければいけないのか。
どうして『僕』の大切なものを、家族の体の一部を奪われなければならないのか。
どうして、どうして、どうして――。
砂場に目がいく。
バケツをひっくり返したような砂の城が作られている。
不格好のそれが無性に頭にきて、思わず砂の城を蹴り崩した。
崩れた城を何度も何度も踏みつける。
すると中から紙が出てきた。驚きが怒りを超える。
アパートの部屋で見つけたものと酷似しているそれを広げると、やはり鉛筆で『社』と書かれていた。
「しゃ…?」
理解しかねて首を捻る。
恐らく次の目的地だと思うのだが…。
ブランコに腰かけ紙を見つめる。
何度見ても『社』の一文字しか書かれていない。裏は真っ白だ。
悩んでいると声が降ってきた。
「お姉ちゃん、それ、『やしろ』って読むんだよ。そんなんも知らないの?」
バッと顔を上げる。誰もいない。
「今の声は…?」
妹の声だった。近頃聞けなくなった可愛らしい妹の声。
「ねぇ、分かる?『やしろ』って神社の建物のことだよ。神様がいるところなんだよ。」
姿が見えないのに声は聞こえる。
まるで上から降ってくるようだ。
「上…?」
見上げるとそこには――黒い何かがいた。
黒いモヤが蠢いている。
今にも霧散しそうなほど儚く、それでいて存在感のある何か。
「うわぁぁぁぁぁぁ」
一目散に逃げ出した。
公園を出て左手、来た道を進むように走る。
走って走って走る。
今はただ正体の分からない黒い、妹の声を発する何かに追いつかれないことだけを祈った。