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96/114

96 師匠 8

売国奴として討たれた兄のせいで騎士団から追放された令嬢騎士レイシェル。

そんな彼女の前に最強を自負する転生者にして霊能者・ノブが現れ、秘宝探索の旅へと誘う。

長い旅の末、二人は数々の仲間とともに封印の地へ到着した。

ノブの兄弟子を名乗る老魔術師・マスタージェイドをも撃退した一行。

彼らはノブの師匠、世界有数の大賢者トカマァクの居住地へ向かった――。

 戦いは終わった。

 夕陽の射す岩場を、モヒカンエルフの作業員達が走り回り、資材を搔き集める。

 今度の敵はなかなか良い素材を使っていたようで、彼らの間から「ヒャッハー!」と歓声が時折あがっていた。


 その岩場にノブの姿もあった。

 機体を降り、残骸の散乱する戦場跡を独り歩く。

 残骸の中から何かを引っ張り出した――金属の冠だ。

 それは先刻戦った金属生命体の、頭部のパーツだった。


 ジルコニアが飛んできてノブの肩に停まる。

「アホな奴だったな、今回のは。いよいよジェイド側も人材が枯渇か? まー最初から大した奴いなかったけどさ」

 ノブは答えない。じっと冠を見つめている。

 妖精の視線に疑いが混じった。

「なあ、ノブ。まさかお前、今度の金属生命体に何か思う所があるわけじゃないよな?」


 ノブは何も答えない。


 少し苛立ちながら、ジルコニアはさらに言う。

「あいつは複製されてたし、それを喜んでやがったけどよ。あいつ自身が言ってたじゃんか。ああいう魔物の体質が向いてただけだって。人間とは違うだろうが」


「違う、と言ってもな。誰が調べたわけでもない」

 ノブはやっと答えた。

 小さな声で、否定的に。


「おいおい!」

 思わず叫ぶジルコニア。

 だがノブの方は、静かに、昏い調子から変わらない。

「それにそう馬鹿にした物でもない。僕は劣勢だった」


 今日の戦いで、ノブだけは敵に対し優位に立った場面が無かった。

 それを本人がわかっていないわけもない。


「そりゃ今日のお前が変だったからだろうが」

 ジルコニアは思いだす――ノブの戦意(モラール)がどん底まで低下していた事を。

 それは彼の気力が全く入っていなかったが故だ。


 だがノブは、妖精の言い分には答えない。

 彼から出た言葉は全く別の事だ。

「思慮が浅く間違えていた。でも、自分で考えて自分で動いた。その結果がミスだっただけだ」

 冠を見つめて言う。

 今日戦った敵の事を。複製された金属生命体であり、愚かで、自信に満ちていた相手の事を。


 苛立って眉を(ひそ)めるジルコニアに、ノブは告げた。

「僕も今‥‥考えている事がある」


 それは何か?

 シルコニアが訊く前に、後ろから声がかかった。

「ノブ? どうしたんですの?」

 振り向いた二人の前には、やはり機体から降りて来たレイシェルがいた。


「僕が資材回収するのは珍しい事じゃないだろう」

 ノブは淡々と答える。

 しかしレイシェルは何かがひっかかるようだ。

「そうですけど。でも、そうじゃなくて。なんだか‥‥今日は調子が悪かったみたいですわ」


「僕も()()()だからな」

 ノブのその返事に‥‥その言葉の調子に、レイシェルは「?」と僅かな違和感を覚える。

 だが曖昧なまま下手な事を言うよりは‥‥と、よくある何気ない考えで、とりあえず軽く笑っておいた。

「そうですわね。最強の霊能者(サイオニック)といえど、人ですものね」


 そんなレイシェルの袖が後ろから引っ張られる。

 皆が振り返ると――リュウラがやや強引にレイシェルを引っ張ろうとしていた。


「おいおい、空気読めよ」

 溜息混じりのジルコニア。

 それを聞いたリュウラは微かな声で、一言二言(ひとことふたこと)、何かを呟く。

 実はそれは簡単な呪文で、小さな風を――殺傷力など全く無い程度の物だ――起こした。


 それに煽られてジルコニアがノブの肩からずり落ちかける。

「なにすんだ、このアホ!」

 ジルコニアがそう怒鳴ったが、リュウラは「ふん」とそっぽを向いた。


「レイシェル、早く行こう。黄金級機(ゴールドクラス)を造ってもらわないと。レイシェルの乗る機体ならレイシェルに合わせて調整すべき」

 リュウラはレイシェルの手を再び引っ張る。

「え、あ、うん、そうですわね。ノブ、貴方も‥‥」

 レイシェルはそう呼び掛けた。


 だがノブは視線を岩場に、散乱する敵機の残骸に向ける。

「僕はもう少し資材を集めておく。造ろうと思う強化パーツがあるからな」

「あ、そうですの。なら先に行っていますわよ」

 ノブの事だから、何か役に立つ物を準備するのだろう。そう思ったレイシェルは、リュウラとともに大賢者トカマァクの部屋へ戻る事にした。


 女魔法戦士二人が背を向けて去っていく。

 それを見送り――十分な距離に離れてから、ジルコニアはノブに訊いた。

「本当に強化パーツのためなんだな?」

「そこは嘘じゃない」

 それがノブの返事だった。

設定解説


・自分で考えて自分で動いた。その結果がミスだっただけだ


ミスは罪だ。罪は許されない。

どうせ許されないなら面倒だから自分で考えるのやめるわ‥‥となるのが人間というもの。これは金属生命体でも同じだと思うが、そうじゃなかったならそのやる気だけでも評価してやるのが優しさというもの。

魔王様の最強ボディを使って無敵モードになれる奴が「自分で働けネズミが」とかフいてはいかんと思う。まぁしょせん奴も悪の軍団の一員だからな‥‥。

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