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8 暗躍 1

売国奴として討たれた兄のせいで騎士団から追放された令嬢騎士レイシェル。

彼女の前に現れた、最強の霊能者を自負するノブ。

二人は出会い、今、波乱に満ちた旅が始まろうとしている。

だがその一方で、世界には闇が蠢いているのだ――


 煤け、ひび割れ、穴の開いた尖塔が陽に照らされていた。戦いによって無残に砕かれた尖塔が。

 尖塔だけではない。砦全体が同じような有様だ。はた目には廃墟としか見えないだろう。

 これが以前はコノナ国最強と謳われたガデア魔法騎士団の砦だと、誰が信じるだろうか。


 そしてこの砦には、まだ住人がいるのだ。


 断末魔が砦中に響き渡った。

 その庭にて、また命が失われたのだ。


 庭には二つの集団があった。

 一つはゴブリンやオークども、下級の魔物達。皆が武装しており、立った旗には魔王軍の印が描かれている。

 もう一つは……光の無い、死んだ目をした騎士達。彼らはガデア魔法騎士団の生き残りである。

 魔王軍はニタニタと下卑た笑みを浮かべていた。

 騎士達は生気の無い、敗者の沈んだ表情であった。


 二つの軍団は離れて向かい合っている。

 その中央にいるのは黄色いフードローブの男と、学者のような井手達の老人。

 そして……横たわって無残な屍を晒す、十人以上の魔法騎士達。


「こちらの軍門に降るのを拒む奴は、もういないな?」

 黄色いフードローブが騎士達に訊ねる。

 その言葉に俯く者ばかりで、異を唱える者はもういなかった。


「なら決まりだ。コノナ国はもう存在しない。お前らは魔王軍コノナ領に仕えるガデア魔法騎士団だ。今後は俺の命令で戦え」

 そう言って、黄色いフードローブはその衣を脱ぎ捨てた。

 その下から現れたのは――


 身の丈2m、黄金の鎧を纏った屈強な大男。

 歳の頃は三十前後か。乱れた灰色の髪と太く荒々しい眉が男の野蛮さを隠す事なく醸し出す。

 凶悪な笑みを浮かべる野獣のような顔の、左目は縦に切られて潰れ、古傷が固まっていた。

 男は野太い声で続ける。

「この魔王軍陸戦大隊長ジェネラル・ゴーズの傘下としてな!」


 この男が軍勢を率いてコノナ国を攻め落としたのは昨日の事。

 そして首都を巡る攻防戦が終わった後、そのままこの砦へ攻めて来たのである。

 首都責めの直後なので少数の兵しか率いていなかったが、ガデア魔法騎士団もそれまでの戦いで数を減らしており、一夜と持ち堪える事はできなかった。

 やむなく降伏した騎士団に、ジェネラル・ゴーズは命じたのだ。

 今後は自分の手下として働け、と。


 それを拒む騎士達は……ジェネラル・ゴーズにより、今しがた葬られた。

 彼は騎士達全てを同時に相手にした。たった一人で。自分が討たれれば引き上げるよう、部下に命じた後で。


 そして、一瞬のうちに逆らう魔法戦士達を全滅させたのである。

 周囲で見ている者のうち、何が起こったのか見極めた者は何人いるだろうか。

 魔法戦士達の、剣が、魔法が、黄色いフードローブへ放たれた――そう見えた次の瞬間、閃光が爆発した。

 その光が消えた時……一国最強を誇る魔法戦士達がことごとく息絶えていたのだ。


「ふうむ……肝心の、クイン家の娘は去った後か。あれさえ手に入れば、こんな所に何の用も無いんじゃがのう」

 ジェネラル・ゴーズにつき従っている老人が、面倒くさそうにそう言った。

 哀れな魔法戦士達の事など全く興味が無い様子だ。

 老人へとジェネラル・ゴーズが振り返る。


「その娘を捕まえれば手に入るんだな。神蒼玉(ゴッドサファイア)が」


 神蒼玉(ゴッドサファイア)

 それはこの世界でも最高峰の秘宝。最強を誇る黄金級機(ゴールドクラス)……天を裂き大地を割り、戦局を1機で完全に変える究極の最強機を造るための、必要不可欠な部品となる至宝。


神蒼玉(ゴッドサファイア)の一つが封印されている場所をお前が見つけた。その封印を解くために、クイン家の人間が必要だという事も」

 ジェネラル・ゴーズの言葉に老人が頷く。

「240年前、勇者と共に魔王と戦った騎士がクイン家におりました。その血を引き、本家で産まれた者のみが封印を解除できるのです」


 この条件を満たす者は、もうレイシェルしかいないのだ。

設定解説


・ゴッドサファイア

この世に七つしかない神々のアーティファクト。

かつては神の武具を召喚するための宝玉で、天の代行者に選ばれし七人の勇者が預かっていた。

だが黄金級機のケイオス・ウォリアーの材料として使われるようになってから、様々な者達の手を経て七つの宝玉は散り散りになっている。

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