7 邂逅 7
売国奴として討たれた兄のせいで騎士団から追放された令嬢騎士レイシェル。
彼女の前に現れた、最強の霊能者を自負するノブは、達人級のカラテで魔王軍を退けた。
燃える村も魔法で見事に救ってみせたノブだが、彼が要求する金額はかなりの物で――
「という事で頼もうか。これだけの金額を支払ってくれ。嵩張らないよう、宝石か貴金属でな」
ノブは羊皮紙にさらさらと金額を書くとそれを手渡す。
金額を見た村人達は……皆、暗く苦い顔になった。それは年老いた村長にしても同じ事だ。
「は、払えなくはありませんが……」
襲撃と火災からの立て直しも考えれば、村の蓄えは底を尽きかねない額だった。
村人達の顔色を見れば、凡その事情は察しが付く。レイシェルは心を決めた。
(仕方ありませんわね、クイン家から出しますか。私が助けられたと言えば、家も断りはしないでしょう)
苦境にある実家に出費を要求するのは気が引けるが、この際、仕方が無いではないか。
だがノブは平然と言う。
「払えて当然だろう。僕らが倒した魔王軍の機体を資材として換金すればこの額になる。僕の【鑑定】スキルで見積もった」
そう言ってまだ野ざらしになっている魔王軍の機体を手で指し示す。
魔物からの戦利品やダンジョンで発掘した物の価値・効果を知るための【鑑定】スキルは、古来から多くの冒険者が学んできた技能である。
その技能は倒したケイオス・ウォリアーから価値ある部品・金になる資材をより分ける事にも使えるのだ。ノブもまた【鑑定】スキルを、極めて高い練度で身につけていたのである。
「本来は僕自身が換金するのだが、旅の途中だ。早く現金化できるならそうしたい。だから資材の換金処理はそちらにやってもらおう」
要求された額は後に手に入る額。実質、村の出費はゼロに等しい。
ノブの話を理解し、村長はよろめいた。大きな安堵からである。村人が慌てて支えねばならなかったが。
「フヒヒヒ。これで安い項目の1段階ぐらいは改造できるかな」
妖精ジルコニアは楽しそうに呟いた。
――報酬を受け取り、村人達にお礼の言葉の洪水を受け、村の出口から出ての事――
レイシェルとノブは互いの機体に乗り、通信機で話し合う。
『では行こうか、レイシェル殿。行先も目的も話すが、真っ先に言うべきは……命をかけた旅になる。覚悟してくれ』
いきなり物騒な事を言われ、レイシェルは慌てふためく。
「ちょ、ちょっと待って! ならここで話してくれればよくありません?」
『機体に乗って歩きながらでいいと思うが』
ノブは平然としたものだ。無論、彼は全てを知っているからだろう。
しかしレイシェルはそうもいかない。
「私、実家に戻るつもりでしたの。旅に出るにしても、一度帰って理由を話したいのですわ」
『ふむ……』
しばしノブは静かになる。
(急ぎの旅ならどうしましょう? けれどその説明も無しでは判断しようがありませんわ)
そう考えつつも、レイシェルは借りを受けっぱなしで別れるつもりはない。
誇り高きクイン家の者が、他人の世話になる一方ではいけないのだ。高貴な血筋と身分なら、むしろ施しを与える側であるべきなのだから。
ただ……今の彼女にできる恩返しなど限られているかもしれない。
不安の中、返事を待つレイシェル。
だが通信機越しにムーンシャドゥの操縦席内でかわされた会話が聞こえる。
『キシシ、そっちルートに行ってやんな。クイン公爵家の城ならそれほど寄り道にはならないからさ』
『ほう、そうか。よし、ならばレイシェル殿の実家へ行こう。彼女の家族も話を聞けば納得してくれるだろう……我が師の言われた通りの人達であればな』
設定解説
・改造項目段階
この世界のどのケイオス・ウォリアーも、各部をチューンナップして強化する事はできる。
だがそれにも当然限度がある。その限界までを10段階に分割して考え、限度までの何割を改造したかを、この世界では「改造段階、〇段階目」という呼び方をしている。
機体性能に関わる能力を全て5段階改造すると各機体個別の強化能力がつく。10段階でさらに別の能力がつく。