61 暗躍 8
売国奴として討たれた兄のせいで騎士団から追放された令嬢騎士レイシェル。
そんな彼女の前に最強を自負する転生者にして霊能者・ノブが現れ、秘宝探索の旅へと誘う。
道中で数々の仲間を加える二人だが、ついに彼らの前に最強の敵、黄金級機が現れた。
だがそこへ魔王軍の親衛隊が現れ、裏切りと陰謀が露わになる――!
暗雲の下に、煤け、ひび割れ、穴の開いた尖塔がある。戦いによって無残に砕かれた尖塔が。
尖塔だけではない。砦全体が同じような有様だ。はた目には廃墟としか見えないだろう。
これが以前はコノナ国最強と謳われたガデア魔法騎士団の砦だと、誰が信じるだろうか。
だがこの砦には、まだ住人がいるのだ。
騎士団を制圧した魔王軍が、新たな拠点として使っていたが故に。
しかしその住人達は、今、動揺の直中にあった。
無敵を誇る彼らの大隊長が軍勢を引き連れて出撃したというのに、それが予定時間を過ぎても戻ってこないのだ。
隊長自身は気まぐれな所もあり、予定が変わるのは珍しくはない。
だがそれならそれで遣いの者が戻って来る。
何の音沙汰もないなどとはこれが始めてだった。
どうしていいかわからず、ある者は調べに行こうとし、ある者は砦に留まり様子を見ようとする。
ゴブリンやオークなどの下級の魔物は、命令がこないのでただうろたえるばかりだ。
そんな中、独りだけ我関せずでいる者があった。
帰還したマスタージェイドである。
そんな彼に注意を払う者はいない。
彼に何か訊きに来る者もいない。彼が戦場に向かったのは、一部の者以外には告げずに行った秘密裏の行動だったのだ。
マスタージェイドは自室に篭っていた。
沢山の書物が詰まった本棚と、奇怪に歪んだ護符や装飾品の並ぶ棚、様々な薬液の瓶が置かれた机。
それらに囲まれた空間に彼はいた。
(せいぜい混乱しておるがいい。その方が儂は動きやすいという物よ)
彼が待っていると、薄暗い部屋の中に、羽ばたき飛来する物がある。
窓も無いのに飛んできたそれは、目玉にコウモリの翼が生えた奇妙な魔物だった。
それはマスタージェイドの眼前に来て、目の中にどこかの景色を映し出す。
山中の岩場のようだ。
映された景色を少しの間眺めると、マスタージェイドは片手で目玉の妖怪を払った。
目玉は陽炎のような揺らめきを残し、消えてしまう。
マスタージェイドは考えた。
(ふむ、封印の地に向かったわけではないか。ならばどこに逃げたかじゃが・・・・候補地は絞れるものの、特定はできん。儂にはするべき事もある。誰かを手駒として動かせればいいのだが。親衛隊の何人かに声をかけてみるかの・・・・)
その時である。
部屋の外から呼び鈴の音が届いた。
「誰じゃ。入れ」
面倒に思いながらも入室を許可するマスタージェイド。
扉が開き、薄暗い部屋に光が差し込む。
逆光を背に立つのは三つの人影。
そのどれにも、マスタージェイドは見覚えがあった。
来訪者達の顔をみて、マスタージェイドは少しばかり驚く。
「ほう。また戻って来るとはな」
その声に三人は頷いた。
(ちょうど良いわ。こいつらに追いかけさせるとしよう)
三人を前に、マスタージェイドはそう考える。
とはいえ、別に彼らの腕を信用しているわけではない。
(親衛隊でも同行させれば、こいつらでも少しはやれるかもしれん。駄目でも足止め程度になればそれでいいわ)
そう考えてマスタージェイドは命じる。
「お前達に任務を与える。そのために倉庫にある設備を適当に使ってよいぞ。無論、砦の人員もな」
マスタージェイドが言うと、三人は頷いた。
ノブ達になんらかの手を打たせないよう、攻撃を仕掛ける必要はあるとマスタージェイドは考えていた。
そのための捨て駒が欲しかったところである。
自分が動けるようになるまで、その準備が整うまでは。
これから行う事こそが、海戦大隊が壊滅する前からの悲願であり、陸戦大隊に潜り込んだ理由であり、ジェネラルゴーズを抹殺してまで神蒼玉を手に入れた理由なのだから。
陸戦大隊の大隊長が倒れても、レイシェル達への追撃の手は絶えない。
彼女達は今どこにいるのだろうか?
戦いの旅はなおも続く・・・・!
設定解説
・一部の者以外には告げずに行った秘密裏の行動だったのだ
一部の者は知っているという事でもある。マスタージェイドは完全に単独で活動しているというわけでもない。




