25 勇者 2
売国奴として討たれた兄のせいで騎士団から追放された令嬢騎士レイシェル。
そんな彼女の前に最強を自負する転生者にして霊能者・ノブが現れ、秘宝探索の旅へと誘う。
その途中に立ち寄った村で、二人は流れの勇者・ライガーが訪れている事を知る。
噂通りの人物なら心強い仲間になってくれるかと、勇者に会いに行くが――。
ノブとレイシェルは森の中を進んでいた。
運搬用ゾウムシは村の外に停め、二人ともケイオス・ウォリアーに乗っている。
そんな二人は森の中の広場で、地面を掘り返した跡を覗いていた。
「ふむ? これは‥‥地下に潜ったとしか考えられないが」
機体の目で覗き、ノブは呟く。師匠の元で修業していた時代に蓄えた知識で推測するなら‥‥
「地中移動用の装備で地下へ掘り進めば、こんな跡が残る筈だ。実際に見るのは初めてだが」
地中移動用能力を持つ機体などそうそう有る物ではない。
『謎の勇者だけありますわね。誰にも正体を知らさないとは聞いていましたけど』
レイシェルは呟き、顔も知らぬ勇者が何者なのか考えていた。
勇者ライガー。
魔王軍と戦う勇士として、ここ半年でその名が上がりつつある男。
だがその割には、ライガーの姿については情報が無い。なぜか極端に人へ顔を見せないのだ。
「私も会いましたが、顔はわかりませんでした。異界の乗り物から降りませんでしたから」
村の店主もそう言っていた。
人と話す時も報酬を受け取る時も常に乗り物の中。その乗り物もこの世界で見る物ではなく、異界から召喚された物だろうと言われている。
――少し時を遡り、村の中――
「ケイオス・ウォリアーに乗らない、異界の兵器に閉じ籠るパラディン。名高い勇士ながら詳細は不明‥‥ただ正義と人々のために戦い続ける高潔の士という事です。異界の神の化身、という話もありますの。もし味方になっていただければ心強い筈ですわ」
それがレイシェルの知る情報である。まぁかなり疑わしい部分もあるが。
そしてノブは少し考え、賛成したのだ。
「正義の定義に興味はないが、味方してくれるか否かは知りたいな。ふむ‥‥この件を手助けし、その勇者に会ってみるか。仲間になってくれるかどうかはあくまで相手次第だが」
こういう経緯で、二人は森に向かったのである。
幸い、勇者の後を追うのは難しくなかった。
森の茂みや、時には木までもが踏みつぶされて痕跡を残していたからである。
しかしその跡があったのも途中まで。
森の中の広場で地中に潜られていたようなのだ。
と、これが冒頭までの流れである。
――森の中で二人は進路を変える事にした――
「ふむ。子供達の方から探すか。保護しているうちに勇者にも会えるだろう」
予定を変更するノブ。
森で行方不明になったのは双子の子供だと村で聞いた。
薬師の孫達であり、近くの森から薬草を採集するのが日課だったという。
それが森から帰らず、丸一日はとうに過ぎたと。
『一日以上前の子供の足跡を探して辿る‥‥難しそうですわね』
レイシェルの困り声。
しかしノブは気にせず、操縦席で指をサッとふる。青い煌めきが零れるや、モニターに映る周囲の地図に光る線が浮き出た。
【パースート】――追跡の呪文。生物の残した霊的な痕跡を捉え、その足取りを把握できるのだ。
「話で聞いただけの人間が対象だから、そう長くは持続させられない。急ごう」
そう言うとノブはEムーンシャドゥで森のさらに奥へ向かう。
『初めて聞く呪文ばかりですわね‥‥』
そう言いつつも感心し、レイシェルは自機に後を追わせた。
――森の奥の、ある洞窟前――
『あの中にいるというのですの!?』
盛り上がった地面に開いた空洞を見て、レイシェルが焦って叫ぶ。
洞窟の入り口には魔物達がうろついていたのだ。
手の長い猿のような半人半獣、エイプマンの一団である。一様に革鎧とナタで武装しており、洞窟の中を用心深く覗き込んでいたが、ノブとレイシェルのケイオス・ウォリアーを見て仰天していた。
しかし洞窟の前から去ろうとはしない。
「ケイオス・ウォリアーで攻撃しては、洞窟を潰してしまいかねないな」
『ならば体で戦うしかありませんわね』
ノブの言葉にそう応えると、レイシェルは操縦席のハッチを開けた。そのまま呪文を詠唱する。
「【光熱の領域、第三の段位。炎は塊り球となる。球の炸裂は敵を焼き払う】――ファイアーボール!」
レイシェルの掌に炎が集結し、火炎球となる。それは魔物の群れの真ん中へ飛び、膨れ上がって爆発した!
炎が消えぬまに金属片の刃が降り注ぎ、弱ったエイプマン達をズタズタに切り裂く。
それを放ったのは、やはり操縦席のハッチを開けたノブだった。
【ブレーズ】――金属元素を大地から呼び出し、刃と変えて撃ちだす地属性の攻撃魔法。
魔法の斉射で大半のエイプマンは倒れる。
かろうじて生き残った物は反撃に転じた。近くの木へと跳び上がり、それを足場に操縦席へと跳び込んでくる。これら猿魔獣どもは樹上での活動能力が非常に高いのだ。
だが跳び込んだエイプマンが断末魔をあげて転がり落ちる。
エストックナイトに向かった物はレイシェルの剣に、ムーンシャドゥへ向かった物はノブの正拳に、それぞれ致命傷を受けて。
二人が接近戦にも長けていた事は、エイプマンどもにとって不幸としか言いようが無い。
跳ばねば魔法で撃たれ、跳べば打撃で打たれる。
いくらか賢明な個体は森の奥へ逃げ、愚かな物は倒れる。
魔物の群れが全滅するのに、さほどの時間はかからなかった。
設定解説
・エイプマン
邪悪で凶暴な猿の獣人。ライカンスロープのような変身種族とは違い、邪悪で大柄な猿である。
猿よりも微妙に高い知能、猿より大きい体格、猿より強い膂力を持つ。
武具を使える知能と樹上を移動する機動性を持ち、森の中で戦うには危険な相手。
たまに木から落ちる。




