113 旅路 0
売国奴として討たれた兄のせいで騎士団から追放された令嬢騎士レイシェル。
そんな彼女の前に最強を自負する転生者にして霊能者・ノブが現れ、秘宝神蒼玉探索の旅へと誘う。
長い旅の末、二人は数々の仲間とともに神蒼玉を入手。
それを届けるべく首都を目指す途上で、最後の戦いが始まった。
激戦の末、それに勝利した一行は――。
魔人ジェイドを退け、数日後。
レイシェル達一行は首都へ入った。
そして、王城にて。
吹き抜けかと思うほど高い天井、陽の光に輝くいくつものステンドグラス。居並ぶ騎士や大臣達。豪華な長い絨毯の奥に設置された玉座に座る、長い顎髭をたくわえた老人が、スイデン国の現国王だった。
豪華な装飾の施されたローブを纏い、頭上には上品な宝飾で彩られた王冠を頂く、『王様』という単語をそのまま形にしたような王である。
「おお、おお! これは真に神蒼玉! まさか、生きているうちに三つも見る事ができるとは‥‥!」
王は歓喜の声をあげた。信じられない、という風に首をふりつつも。
「して、海戦大隊を打ち破ったという勇者は‥‥鬼甲戦隊はどこに?」
そんな王の前で起立しながら――膝はつかなくていいと王直々に言われたのだ――レイシェルは周囲を窺いながら問う。
重鎮や騎士は周囲でざわめいているが、どうにもそれらしい者達が見えない。
彼らの部隊名と大まかな容姿は、首都に入ってから聞いておいたのだが‥‥。
王は深い溜息をついた。
「おらんのだ。ある日気づいたら、首都を出て行ってしまっていてな‥‥どうやら国境の街に行ってしまったようなんじゃ」
「「「ええええ!?」」」
レイシェル、その後ろにいるリュウラとエリカが驚いて思わず声をあげる。
ノブとジルコニアも予想外の事に目を丸くした。
ただ一人、オウキだけは「フッ」と軽く笑っていた。
「黄金級機の設計図と神蒼玉。二つを齎した勇者達に、ぜひ黄金級機に乗ってこの国の守護神となって貰いたかったのにのう‥‥」
王は露骨に落ち込んで溜息をまたつく。
「待遇に不満があったのかも」
ぼそりとリュウラが呟く。
それを耳ざとく聞きつけながら、王は「いやいや」と首をふった。
「そんな話さえロクにせんかったんじゃが。領地や爵位や金ぐらいなら用意できるだけするつもりではあったがなぁ‥‥」
「なあ、どうするんだ? 鬼甲戦隊に会えないみたいだけど」
レイシェルに小声で訊くエリカ。
だがレイシェルが何か言うより前に、王は期待をこめた目を向けてくる。
「クイン家の子女、レイシェル殿。大賢者トカマァクの弟子、ノブ殿。二人が黄金級機の操縦者となってはくれんのか?」
顔を見合わせるレイシェルとノブ。
だがレイシェルは再び王へと振り向き、訊ねる。
「鬼甲戦隊が得た神蒼玉と設計図はどうなっていますか?」
「宙ぶらりんじゃ。本人達がおらんのに誰が乗るんじゃという話で、意見が全然まとまらん」
弱った顔で王が答えた。
今度はノブが訊ねる。
「鬼甲戦隊に戻ってきてもらえないのですか?」
「連れ戻すと言って向かった者達はおるんじゃが、まだ戻らん」
肩を落とす王。
この件に関して、彼が困り果てている事は一行によくわかった。
意を決するレイシェル。
「わかりました。我々も鬼甲戦隊の所へ向かいますわ」
言葉もその眼差しも力強い。
王も少し元気づけられたようだ。
「ふむ‥‥そなた達が持って来てくれた神蒼玉でだけでも、黄金級機を造って乗ってもらいたい所じゃが」
彼は一応、そうもちかけてはくる。
だがレイシェルは――
「事はこの国だけでなく、魔王軍との戦いの行方に関わるもの。より慎重になりたいのです」
「うむ。そう言われると反論はできんな」
そう言いつつも、王の目には期待が籠っていた。
スイデン国に黄金級機の操縦者が生まれる事への期待が。
そんな王へレイシェルはさらに訴える。
「ただ、今回の我々の功績は認めていただきたく思います」
「うむ。クイン公爵家の子女レイシェルの偉業は公式に記録させよう。家の名誉も完全に回復された。現国王がそれを認める」
王は側近に何かを命じた。
――翌日、早くからクラゲ艦Cウォーオーは首都を出た――
ブリッジにて。
「良く知らんが、その勲章は言うほどの物なのか」
オウキがレイシェルの胸に輝く、菱形の星座を模った勲章を見て呟く。
頷くノブ。
「騎士ダイザックも貰ったという天霊勲章だな。スイデン国が公式に造る物では最大最高の物だ。これの持ち主を侮辱する時は不敬罪で首を刎ねられる覚悟が必要になる。裁判をとばしてその場で斬り捨て御免にしても、十中八九、レイシェルの言い分が通るだろうな」
「事実上、やりたい放題ね‥‥」
操艦しながら少し呆れたようなリュウラ。
「スイデンの歴史上でも贈られた者は少ない。賜った者が二人もいる家系はクイン家だけだろう」
そのノブの説明で、えらく有難い物だという事はブリッジの皆にわかったが。
だがレイシェルには腑に落ちない事があった。
「ウチで見た覚えがありませんわ‥‥」
それほど貴重な物なら保管してあるのでは、と彼女は思う。飾っているのではなく仕舞ってあるのだろうか。
だがどこに?
その答えもノブが教えてくれた。
「貰った本人がすぐそこらに置きっぱなしにして無くしかけるので、宝箱に入れて地下の倉庫にしまってあるそうだ。魔法トラップを直々に仕掛けた我が師が言っていた」
それを聞いてレイシェルは額を抑える。
(ご先祖らしいと言えばそうなのでしょうけどね‥‥)
そんなレイシェルにエリカが訊く。
「ところで、鬼甲戦隊に会ってどうする気だ?」
レイシェルは少し考えながら答えた。
「報酬は望みのまま、という立場からなぜ逃げるように出て行ったのか‥‥ちょっと気になるだけですわ」
首を傾げるエリカ。
「何か裏があるかもしれないって事か? あの王様は悪い人にはみえなかったけどなー」
「王様以外の人が何か企んでいたかもしれない。どんな陰謀が巡らされていても、おかしくない状況ではある」
そう言うのはリュウラだ。
「けれど鬼甲戦隊の人達がそこらへんを正直に教えてくれるかどうかは怪しい。私達とはある意味商売敵みたいな物だし」
彼女がそう言った時、モニターに格納庫のドリルライガーが映った。
『真に勇者といえる人達なら、我々とわかりあってくれると思いたいものです』
そんな会話を横で聞きながら、オウキは腕組みして「フッ」と笑う。
「まぁ裏をどうこう考えても仕方ない連中だ。実際に会ってみるのがいいだろう」
その頭上へジルコニアが飛んでいった。
「お前、鬼甲戦隊の事になると物知り顔だよな」
「かもな」
オウキはあくまで笑っていた。何やら楽しそうである。
艦の行く手には荒野が広がっている。
メインモニターで前方を眺めながらノブは呟いた。
「鬼が出るか、蛇が出るか。そう言ったところか」
その隣で「ふふ」とほほ笑むレイシェル。
「何が出ても別に怖くありませんわ。地上最強の霊能者がどこまでも一緒にいてくれるんですものね」
くすり、とノブは笑った。
「僕の口上を取られるのは困るな」
「あーあ。バカップルになっちまった。困るのはこっちだよな」
メイン座席の脇で肩を竦めるジルコニア。
操艦しているリュウラを見下ろすが――
「知らない」
彼女は膨れ面でそう言い捨てた。
第二部・完。
ここまでのお付き合い、誠にありがとうございました。
続いて第三部に入ります‥‥が、実は現時点でプロットが未完成で、まだ書き始めておれません。
よってしばらく休止期間となります。
書くつもりはありますので、再開した時はまたよろしくお願い申し上げます。




