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きな粉

作者: 道ノ瀬カイ

あいうえお順に沿ってタイトルを付けた46作品の短いお話しを投稿してます。

7つ目「き」です。

 私の曾祖母は、御年96歳。足腰は丈夫で肌もぴちぴち。近所でもちょこっと有名な、元気いっぱいのご長寿さんだ。そんな私にとって自慢の曾祖母の、若さと健康の秘密を聞いてみた。


「ひぃおばあちゃんって、どうしてそんなに元気で若々しいの?」

「おやまあ、どうしたの急に。嬉しいことを言ってくれるじゃないの」


 にっこりといつもと変わらない優しい笑顔を私に向けてから「そうねぇ……」と少し考えて、はっと顔を上げた。


「魔法の粉を毎日食べていることかしらねえ」


 粉。魔法の粉。曾祖母から出た言葉に、戸惑いを隠せなかった。この間、学校の授業で薬物乱用防止講座に参加したばかりだからだ。まさか、だいすきなひぃおばあちゃんが。

 私は曾祖母と同居しているわけではない。叔父の家に住んでいる曾祖母が、普段どんな食生活を送っているのかを、私は知らない。可能性としてはゼロだと言い切れないのだ。胸に浮かび上がった不安が、どんどん大きくなっていくのを感じた。


「ま、魔法の粉って、どんなの?」


 不安を払拭するためには聞かなければならない。もし魔法の粉の正体が私の想像しているものだとしたら、私は曾祖母を庇うことはできない。どんなにだいすきでも、法律には抗えないのだから。

 曾祖母はいつも持ち歩く巾着袋から、小さなチャック付きのポリ袋に入った黄色い粉を取り出した。


「これよ、これ。これは黄色だけれど、ウグイス色なんかもあってねぇ。おいしいし、体にもいいのよ。毎日スプーン一杯くらいかしら。何かに混ぜて食べてもいいのよ。食べてみる?」


 薬物乱用防止講座では、若い人でもお菓子感覚で手を出せるようにとか、写真で映えるようにとかの理由でカラフルなものもあると言っていたのを思い出した。まさかにまさかが重なっていく。私は目の前にある得体の知れない粉に少し、いや、かなりの恐怖があったので曾祖母の誘いを断った。曾祖母は「気が向いたらいつでも言ってね」と、優しい笑顔だった。


「これ、どこかで売ってるの?」


 まだ、諦めるわけにはいかない。危ない方の粉は、密に取引されることが多いと講座では言っていた。市販されているのなら、きっと大丈夫だ。市販品であってほしいという願いを込めて、曾祖母に聞いた。


「お友だちのさっちゃんが作ってくれてね。それをくれるのよ」


 もう私には曾祖母を止めることはできないと確信した。あとで叔父に相談してみよう。


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