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4話 「覚悟決めろ」

 


「どーよ調子は?」


 目を開くと神がいた。


「……俺はまた死んだのか?」


「いいや。君はまだ死んでないよ。魔力の使いすぎでぶっ倒れてはいるけれど」


「……そうか」


 ひとまずは安心だろう。来たる兄上との熱い夜を超えずに死ぬなど、あまりにもむご過ぎる。


 それにしても、魔力の使い過ぎで倒れるなど、我ながら軟弱である。


 …………ん?


「まて、神よ。俺の聞き間違いか? 俺が魔力を使いすぎて倒れたと、今お前はそう言ったのか?」


「ん? その通りだけど?」


 何を当たり前な、と言わんばかりの呆れた表情をする神。

 それが余計に俺を混乱させた。


「待て神よ。自慢じゃないがこの俺、ベル・ベートは品性下劣にして魔力どころか何の才も持っていない無能である筈だ」


「それで?」


「……俺は魔力を持っていない。したがって俺が魔力を使いすぎて倒れたという事実は無い」


 俺は時間と共にふつふつと沸く自信を糧にしてそう言い切った。


 魔力――その存在は勉学に不真面目だった俺ですら正しく理解できている。


 選ばれし者のみがその身に宿す力。それが俺の知っている魔力というものだ。


「いやいや、それはぁ大間違いだよベルゥ」


 ニヤニヤと笑いながらねこなで声で俺を馬鹿にする神。


 はっきり言ってしまうとクソむかつくが、それと同時に目の前の存在が本当に神様なのだという事を俺は再認識させられていた。


「心が読めるのか?」


「あったり前だろ? 僕は神だぜ? そんなの朝飯前さ」


「だが、それでは勝負にケチがつくぞ? 俺はお前の考えている事を知る手段が無い。はっきり言ってしまえばそれはズルっこだ」


「ズルっこって君……不貞腐れると精神年齢が下がる特質でもあるのかい? 加えて訂正しよう。僕が今使ってるのは《神様》限定の力なんかじゃないよ? 所謂、《スキル》ってやつさ」


「スキル?」


「ああ、スキルさ。僕たち神から、軟弱な君たちへの贈り物」


 スキル……か。聞いた事は確かにあった。だがそれも魔力と同じカテゴリーに属する選ばれし者のみが使える力だった筈だ。


「まぁ、半分正解かな。スキルの認識はそれでおおむね合ってるよ」


「と、いうことは、魔力はそうでは無いと?」


「ああ。全然違うね。まぁ、これは君が間違ってるって訳じゃなくて、そもそも君の世界の教え方が悪い。なぜなら大前提として魔力っていうのは生きとし生ける全ての生き物が持っているからだ」


「なんだと?」


「本当だぜ? 事実として君も持ってるし、君が女風呂を覗く時、いつも穴場スポットで出くわしていた爺さんだって持ってる」


「なに? あの爺さんもだと?」


 不本意だったこれまでの人生の内で、それでも輝いていたと確信できる瞬間の一つ、その光景が浮かんでくる。

 そういえば最近会っていないが元気だろうか?


「ああ。皆持ってるのさ。なのに君たちときたら……選ばれしものぉぉとか。英雄の末裔ぃぃぃとか、恥ずかしくないの?」


「…………」


 恥ずかしい。


 だが、それが事実だとしても、どうも俺にはピンとこなかった。


「だが、事実として魔力を使える者……つまり魔法を扱える者は限られていた。それは何故だ?」


 俺の記憶では魔力を持っているのは全人口の1割にも満たない数の筈だ。

 そして兄上はその1割に含まれている。あと姉も。


「まぁ、そっからが才能によるところが大きいんだよねぇ。魔力ってのは、ただ持ってるだけじゃ意味が無い。君がさっき言ったように《魔力》を変化させて《魔法》にする必要があるんだ。君の元居た世界でいうと、うーんそうだなぁ、魔力はガソリンみたいなものだと思ってくれていい」


「なるほど……」


 ……悔しいが分かりやすいな。


「でねぇ?(ニタニタ)」


 なるほど。どうやら掘られたいらしい。


「魔力はガソリンであります!」


「ああ。で?」


「ごほん……それでね、君たちの認識だと魔力ってのは限られた者しか持ちえない力であって、だからこそ魔法を使えるのは魔力を持っている者だけだ、ってのが通説だけど、実際はそうじゃないんだ。正確には《魔法》を発現するには最低限必要な《魔力》が決まっていて、その最低限の魔力を持っているのが一握りの者だけ。これが正解だ」


 なるほどわからん。


「どっちにしろ、魔法を使えるだけの魔力を持たない者は、魔力が無いのと同じだと言っているように聞こえるが?」


 長々と話を聞いてはみたが、結局の所、結論は同じだ。


 結論――魔法を使えるのは選ばれし者だけ。


「まぁまぁ、話は最後まで聞きなよ。そういえば君は前世で過剰な筋トレに取り組んでいたみたいだけど、腕立て伏せは何回くらいできたんだい?」


 いきなり何を言い出すんだコイツは……。


「回数はあまり重要視していなかった。だが、そうだな……少なくとも正しい姿勢でやったと仮定して1分間で100回程はできただろうな」


「へぇ、正直それがすごいのかはよく分からないけど、ベル君は今、それができるかい?」


「いや……それは……」


 恐らく、できない。それどころか1分間も腕立て伏せを続けられるかも怪しいところだ。


「だよね? できないよね? じゃあ、聞くけど、1年後にやれって言ったら君はできるかい?」


 ……1年後か、微妙な所だが、細かくトレーニングの計画を立てれば少なくとも近づける気はする。少なくとも今よりは――。


『――その通り』


 いつの間にか目の前にいた神が俺の耳元でそう囁く。


 互いの呼吸音が聞こえてきそうな距離で、神の曇りのない瞳が俺を掴んで離さない。


「答え、出たよね? 今は無理でも1年後ならできるかもしれない、そう思ったんだろう?」


 酷く幼い筈の顔に妖艶な笑みを浮かべた神はゆっくりと言霊を紡ぐ。

 俺はその度に動く口元に釘付けだった。


「つまり、だ。魔力ってのは筋肉みたいなものなんだ。鍛えれば鍛える程強くなれる。そんな単純な事を知っている人間が君の世界には少なすぎるんだ」


「魔力は……筋肉……鍛えれば……強くなる……」


「ザッツライ! その通りさ! 魔力は心の筋肉だ!」


「魔力は……心の……筋肉……」


「イエス! イエス!」


 白い歯を見せながら両手の親指を立て交互に突き出し叫ぶ神。

 その姿を見てようやっと俺は金縛りのようなふわふわとした感覚から逃れる事ができた。


「つまり、誰であっても魔法を使えるようになると?」


「うん。極論そーゆー事さ。無論その先に進むには才能が大きく関わってくるけどね。君の兄や姉なんかはそれこそ化け物みたいな可能性を秘めているよ」


 そうか。そうだろうな。


 今にして思い返してみると、兄上は勿論の事、ティナもよく泣きそうな顔で必死に魔法の練習をしていたのを俺は見てきた。今の兄上やティナは自分自身で高みへと上り詰めたのだ。


 兄上は歴史上5人目の《剣聖》に。


 そして姉は若干14歳の最年少で魔術師の最高位《聖魔導士》となった。


「……」


 ……悔しいな。


 前世の記憶の有無なぞ、大した問題では無い。


 ――俺は、何もしてこなかった。何一つ苦労することなく、生を謳歌してきた。


 あれだけ優れた家族が近くにいたのに……俺は――。


「神よ。一つ聞きたい」


「ん? 何かな?」


 もう。神には筒抜けなのだろうな。この気持ちも、思いも、全て。


 それでも俺は聞かずにはいられない。


「俺に……才能はあるか?」


 神はその問いに答える。



「あるよ。君には才能がある」


 そう言って聖母マリヤもかくやという笑顔を俺に見せたのだ。


「僕は言った筈さ。魔力は誰でも持っている。けれど、スキルは違う」


 そう言って神は俺の元へとくると優しく俺を抱きしめた。


「誰もがスキルを持てるわけじゃない。勿論努力すれば手に入るものもあるけれど、そんなものは量産品さ。けれど君が持っているものはそんな生半可な物じゃない」


 そうか……やはり、あの不可解な現象は、スキルの一端だったか。


「ふふ。本当は気づいていたんだろう? けれど君は否定し続けてきた。自分なんかが持てる筈が無いとか言ってさ」


「……」


「君はスキルを発現している。それも僕が直接君に送った一級品さ。その力があれば君は英雄にだってなれる」


「……いいのか? 敵に塩を送るような事をして。英雄になったら俺は男を選び放題だぞ」


「無論そこらへんはよく考えて選んださ。付け加えて言うと、逆に僕にとっても有利な条件になっている」


 □男を泣かせろ 達成

 ■女の子とお友達になろう NEW


 目の端に浮かび上がる文を見て、神が何故自分に有利といったのかを理解した。


「なるほど……たしかにこれはバランスのとれた内容だな」


「だろ?」


 俺は笑う。


 神が笑うのも同時だった。


 ――おもしろい。この勝負、勝ってやろうじゃないか。


 相手は全知全能神。だが、もはやそんな事は関係ない。


「そういえば聞いていなかったな。神よ、お前の名は?」


「名前かぁ……僕、自分の名前が嫌いなんだ。だから少し変えて、これからはアロエと名乗る事にするよ」


「アロエか、おいしそうな名だな」


 俺は想像の中で滅茶苦茶な妄想をしながらアロエを見つめる。


「うげぇ、やっぱ変えようかな……なんてね。言ったろ? 君の考えなんてお見通しなのさ」


「そういえばそうだったな」


 だが、その力がスキルなのであれば――。


『回答、スキルによる精神干渉を確認、抵抗(レジスト)しますか?』


 勿論選択は――イエスだ。


「ベルーー! 起きて! 死んじゃだめ!」


 姉が俺を呼んでいる。


 とうとう俺の目覚めも近いらしい。


「……あれ? 心読めなくなっちゃった。ちぇ」


 言葉とは裏腹に嬉しそうなアロエの顔を見て俺は改めて覚悟を決める。


「……退屈はさせないさ。そこでみていろ。元愛の神とやら。俺の想いは固く揺るがない」


「楽しみにしてるよベル。どうか僕を退屈させないでね」


 これまでの俺は酷く怠惰だった。


 だが、これまでは変えられなくても、これからを変える事はできる。


 ひとまずは、兄上であるクラウスとの一戦に備えて、鍛えなければ。




 ――俺はやるぞ。必ずだ。



「いってらーー」


 神の底抜けに適当な声を聞きながら、俺は再びその意識を闇へと沈めた。





今日の夜もう一話あげるかも

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