幽霊とのファーストコンタクト
楽しんで戴けたら幸いです。
「相変わらず隆一朗はいい曲書くよなあ
ギターのリフもカッコいいし」
八重草蘭は大助の部屋の絨毯に体育座りをしてステレオを見詰め言った。
「八重草、音なんか気にして聴いてるんだ
てっきり隆一朗の顔に惚れて聴いてるんだと思ってた」
大助は机の椅子の背凭れに腕を組み、顔を載せて言った。
「それ、偏見な」
蘭は大助を軽く睨んだ。
「女がみんなミーハーとかって決めつけるな」
「八重草と話してると女と話してる気がしない」
「どうせ、アタシは女っぽく無いよ」
ベリーショートにTシャツとジーンズ。
パッと見、蘭は確かにちょっと華奢な男の子に見え、話し方もお世辞にも女の子らしいとは言えない。
蘭のスマホが鳴った。
「あ…………電話来たみたいだ」
蘭はジーンズのポケットからスマホを取り出すと画面を見た。
「悪い……………」
蘭は一端部屋を出て行った。
「ねっ、ねっ、今の素敵な人誰! 」
突然現れた清友は大助の背後から、大助の肩を抱き締め言った。
「急に抱き付くな、寒い! 」
大助は眉間に皺を寄せた。
清友は大助の肩を掴んで揺すった。
「ねえ、ねえ、誰え?
誰なのお? 」
「霊気飛ばすなって! 」
清友は仕方なく大助の隣に降り立ち、大助は両手で二の腕を擦った。
「言っとくがあれ、女だぞ」
「女性……………………? 」
清友は小首を傾げた。
「女性……………………
でも、この胸のときめき………………………
ひ・と・目・惚・れ…………………? 」
清友は蘭を脳裏に思い浮かべると顔を赤らめ、大助の首を掴んで揺すった。
当然、大助の頭はブンブン揺れた。
「どうしよう大助!
ボク初めて女性に恋しちゃったん! 」
「解った、解ったから離せ! 」
大助は眼が回ってふらついた。
清友は両手の指を組んで嬉々として言った。
「今日から忙しくなるなあ
片時も離れないでお守りするんだあ
うふっ、使用済みのストローとかコレクションしちゃったりして
大助、今まで有り難う
ボク、ここを出て行くね」
「ちょっと待て!
それ職権乱用のストーカーだって!
羨ましいじゃ無くて、まずいだろ! 」
「幽霊って職業なの? 」
清友は小首を傾げた。
「いや、だから…………………
お前男だろ!
そんな女々しいことしないで、オレが一肌脱いでやるから、潔く体当たりしろって」
「ダメだよ、大助
ボク彼女の為に清い身体でいようって決めたばかりなんだから」
大助はこけた。
「そで無くて
だいたい身体無いだろ
オレが紹介してやるからコクってみろって言ってるんだ! 」
清友は戦慄した。
「大助、ボクに二度も自殺しろって言うの? 」
「おうよ、二度死ねるなら死んでみろ!
これがクリアできなかったら、もう二度と布団に入れてやらん」
「ええっ、そんなあ…………………」
「オレが呼ぶから、お前、そこのドアから入って来い」
「解ったよ、やればいいんでしょ
やれば…………………」
清友が消えると同時に蘭が戻って来た。
「何をやればいいって? 」
「何でも無い………………」
大助は苦笑いしてごまかした。
「実はさあ。
逢って貰いたい奴が居るんだけど」
「逢って貰いたい奴? 」
蘭は眼を丸くして大助を見詰めた。
大助はドアに向かって言った。
「清友、入って来い! 」
二人はドアに注目した。
ドアは開く事無く、清友は浮き上がったままドアを通り抜けて来た。
じっと蘭を見詰め何か言おうと口を開けるが言葉が出ない。
「あ………………あの……………………………」
清友の顔が見る見る赤く染まって行く。
「無理!
やっぱりボクできない! 」
清友は消えた。
大助は蘭を振り返り何とかこの場を取り繕おうと言った。
「八重草、今のは不可抗力だ!
いや、事故だ!
気にするな!
あ…………………………」
しかし時既に遅く、蘭はその場にぶっ倒れていた。
「清友おおおおっ!!
ドア通り抜けて、宙に浮いて、消えちまって、どう収拾つけんだよっ!! 」
清友は泣きっ面で現れ喚いた。
「そんな事言ったって、暫くドアなんて開けた事無かったし、歩くなんて考え付きもしなかったし、彼女見たら胸がドキドキして恥ずかしくなっちったんだもん! 」
倒れている蘭の横に座り込んで大助は言った。
「どーすんだよ、完全に眼回してるぞ」
清友もその場に座り込んだ。
「お願い!
早く何とかしてあげて! 」
「そんな事言ったって、どうすればいいんだよ! 」
大助は困り果てた。
清友はボソリと言った。
「人口呼吸……………………」
大助は清友に振り向いて言った。
「人口呼吸なんてお前できんの? 」
「ボク幽霊だよ
人口呼吸なんてできる訳無いでしょ」
「じゃ、誰がすんだよ! 」
清友は穴が開きそうなほど大助の顔をじーっと見詰めた。
大助はたじろぎながらも突っ込んだ。
「オレだっててきるかよ!
人口呼吸なんて保健体育の時間にお人形さん相手にしただけなんだぞっ!! 」
「でも今は緊急事態なんだよ!
エマージェンシーだよ!
大助なら許すから早く! 」
清友は両手で拳を作って激しく訴えた。
「緊急事態にした張本人は誰だよっ!
だいたい何でオレが清友の尻拭いしなきゃなんないんだっ!! 」
清友はいつになく必死になって叫んだ。
「そんな事言わないで、早く何とかしてあげてよっ! 」
清友の剣幕に押されて大助は納得しないまま蘭に向き直った。
「何でオレが…………………………。
本当にいいんだな!
後で責任取れって言っても知らないからな! 」
大助はハタと気が付いて言った。
「あのさ、ただ気絶してるだけだろ
人口呼吸いらなくね? 」
「あ……………………………」
蘭は眼を開け言った。
「アタシは構わないよ
山口なら」
「え? 」
大助は蘭を振り返った。
大助と蘭は暫く無言で見詰め合った。
そのサマを見た清友は頭をハンマーで殴られたような衝撃を受け呆然となった。
蘭は起き上がって大助の眼を見詰め言った。
「山口が音楽好きだから、アタシも好きになったんだ
どうせ気付いて無いだろうけど」
その台詞を聞いて清友は堰を切った様に激しく泣き出した。
「びええええええっ!
責任取ってよおおおおぉ! 」
「泣くなああああっ!!
そっちの責任はとれねえしっ! 」
しかし大助の叫びも虚しく、清友は泣き続けた。
「あ~あ、完全な幽霊モードに入っちまった
あいつ一度泣き出すと五時間は泣き止まないんだ」
大助は深い溜め息をついた。
「は~ぁ、今夜は一晩中幽霊のすすり泣きと一緒だよぉ」
困り果てている大助の顔を蘭は覗き見て、清友を見た。
蘭は清友に近付くと言った。
「アンタ、ほんとにアタシに一目惚れしたのか? 」
「………………………うん」
清友は咽びながら頷いた。
「でもアタシは山口が好きだよ
だから、山口を振り向かせる努力しようと思う」
清友の眼から滝の様に涙が溢れ出した。
「八重草、追い打ち掛けてどうすんだよっ! 」
大助は照れて顔を真っ赤にした。
蘭は構わず続けた。
「アンタも男ならアタシを振り向かせる努力したらどうなんだよ」
蘭の言葉は清友の心中に響いた。
清友は蘭に振り向いて言った。
「じゃあ、ボクとデートしてくれる? 」
「デートぉ? 」
蘭は眼を丸くした。
「だって、アナタは毎日学校で大助に逢えるけど、ボクはアナタに逢えないんだよ」
「一理あるな」
大助は他人事の様に言った。
「ただボク、霊力弱いから誰かに取り憑かないと昼間は大助に姿見せるだけで精一杯」
大助は眼を丸くした。
「それじゃ、どーやってデートすんだよ? 」
清友は穴が開きそうなほど大助をじーっと見詰めた。
「ぶぁっかか、おのれはあっ!!
オレは言わば恋敵だろうがっ!!
つか、何でオレが人のデートに参加しなきゃなんないんだっ!! 」
大助の余りの剣幕に清友は泣き出した。
清友は泣きながら言った。
「だってえ、他に頼める人なんて居ないし、知らない人に取り憑くなんて、そんな怖い事、ボクできないよ」
「普通は取り憑かれる方が怖いんだっ! 」
「アタシは構わないけど
要するに中身で勝負するって事だろ?
別にアタシ、山口の容姿に惚れた訳じゃ無いし」
蘭はツラッと言った。
「八重草、お前っ!
それが惚れた男に言う台詞かよっ!
オレの立場が無いだろっ! 」
「そう云う立場はアタシに惚れてから言えよな」
大助は赤面して肩を縮こめた。
「どうせ、たいした容姿じゃ無いよ」
……………………と、言う訳で甚だ奇妙、且つややこしいデートの話はまとまってしまった。
読んで戴き有り難うございます!
ラプンツェルの接吻から始まり、この作品で六作目になりました。
投稿も随分慣れて、更新の度に四苦八苦してたのが嘘のようです。
この作品を期に活動報告もできるよになりました。
いつも読んで下さる皆様、そうで無い皆様も今後とも宜しくお願いします。