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Possessed by love  作者: 楓海
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事故物件に越して来ました。

 楽しんで読んで戴けたら倖いです。

『オレの部屋に超変な幽霊が居る』


「ねえ、大助

 雨って雲から降って来るだろう?

 って事はあ、雨の匂いって雲の匂いなのかなあ」


 と、普通に乙女チックな事を言っているのが大助の部屋の同居人、幽霊の清友である。



「絶対何か出る!」と大助は力の限り抗議したが、「俺はそんなもんは信じん!!」と云う父、山口孝雄の鶴の一声で買ってしまった、破格の庭付き一戸建て中古住宅。


 越して来た時から近所の住人の見る眼が、


「えーーっ!

 ここに住んじゃうのーっ! 」


 と言っていた。


 毎晩、幽霊の(すす)り泣きが聞こえる様な家に越して来れば好奇な眼で見られるのは当然である。


 越して来たその日の夜、布団で寝ている大助の腕を誰かがつんつんする。


 大助が眼を開けると、大きな瞳が印象的な癖っ毛の、可愛い顔の少年が大助の顔を覗き込んでいた。


 それが清友だった。


「出たーーーーーーーーーっ!! 」


 大助はずざざざざあっと後退りし壁に貼り付き、清友は大助を追い掛け回しダイレクトに大助に抱き付き声をあげてわんわん泣き出した。


「淋しかったよおおおおっ!

 恐かったよおおおおっ! 」


「やめろおおおおおおっ!!

 とりつくなああああああっ!!

 きえろおおおおっ!! 」


「辛かったよおおおおっ! 」


「恐いよおおおおおっ!! 」


 清友はおんおん泣き、大助は叫んだ。


「大助!!

 夜中に騒ぐんじゃありません!!

 近所迷惑でしょ!! 」


 母親の洋子が階段の下から怒鳴った。


「この状況で近所迷惑気にしてられるかあっ!!

 母ちゃん!

 助けてええええっ!! 」


 大助は清友から逃れようと身体を(よじ)ってドアに手を伸ばすが、清友ががっちりしがみついて離れない。


「はなせええええっ!! 」


「ふざけるんじゃありません!! 」


「親なら助けろおおっ!! 」


 しーん。


「行っちまったのかよっ!! 」


 大助は部屋の(すみ)にこんもりと盛り上げておいた盛り塩を見た。


 盛り塩は黒くなるどころか、暗闇の中でキレイな白さを主張していた。


「効かねえのかよっ!

 盛り塩っ!! 」


 大助は眼をかっぴろげ清友を見た。


 清友は大助の胴にがっちり腕を回し、いつの間にか泣き止み、不思議そうに大助の顔を見詰めていた。


「お前、幽霊の癖に何でガッツリ触れるんだよ! 」


 清友は小首を(かし)げて言った。


「ねえ、お布団に入れてくれる? 」


「入んなくていいから出て行け! 」


 清友は大助から離れると布団に(もぐ)り込んだ。


「いっぱい泣いたから疲れちゃった

 おやすみなさい」


「居付くなあ! 」


 清友は大助を振り返ると言った。


「あ、豆電気点けてね

 ボク、真っ暗なの嫌いなんだ

 嬉しい、お布団久し振り」


 清友は微笑んだ。


「幽霊が何で豆電気要求すんだよ!

 つか幽霊なんだから暗闇平気だろ! 」


 しーん。


「もう、寝たのかよ! 」


 大助は慌てて電気を点けて壁に貼り付いた。


 清友は静かな寝息を立て大助の布団で眠っている。


「電気点けたら消えろっ! 」


 こうこうと光る蛍光灯の下、静寂の中に幽霊の寝息だけが流れる。


 大助は清友を見たままその場に胡座(あぐら)をかいて座り込み、清友が家族に危害を加えないか見張った。


 引っ越しの片付けで疲れていた大助は睡魔と闘うが(あらが)うことができず、幽霊に布団を占領されたまま朝まで壁に(もた)れて眠りこけてしまった。


「ふぁーぶしっ! 」


 事故物件にくしゃみが響き渡る。





 乙羽清友享年十五歳、幽霊になるだけあって、哀しい過去がある。


 病弱だった清友十五歳の夏。


 両親の旅行中に家庭教師をしていたホモの大学生にカマを掘られ、余りのショックにその夜、この世を儚んで首吊り自殺した。


 清友の両親は、清友を失った事を嘆き哀しみ、二人では余りに広過ぎる空間に耐え兼ねて出て行ってしまった。


 独り取り残された、幽霊の清友は淋しさと怖さで夜な夜な泣いて過ごし、この家は大助たちが越して来るまで、噂に尾ひれが付いて有名な心霊スポットとして名を()せていた。



 意気地が無く甘ったれでボケ(まく)る清友に悪意の欠片(かけら)も持てないのは、二、三日も一緒に過ごせば大助にも、嫌でも理解できた。


 大助はめでたく清友に(なつ)かれ捲り、幸運な事に霊障も無く今日(こんにち)に至っている。


 小雨そぼ降る夜、清友は窓を開け、頬杖をついて外を眺めていた。


 こんなポーズで(うれ)いの表情を浮かべると絵になりそうなほど清友は美少年なのだが、いかんせん幽霊なので、見える人には心霊フィルターが掛かって、世にも恐ろしい光景に見える。


「清友、窓辺に座るの止めろ

 近所の人が恐がる」


 趣味のギターを(いじ)りながら大助は言った。


 心外とばかりに清友は振り返る。


「ボク恐い幽霊じゃ無いのにい」


「一般常識で幽霊は恐いんだ! 」


「じゃボク、一般常識嫌い」


『清友、うぜえ』


 大助はギターを置いて立ち上がった。


「何処行くの? 」


「はばかり」


 大助は部屋を出た。


「はばかり? 」


 清友は小首を傾げた。


 大助が階段を降りると父の孝雄が帰って来た。


「あ、おかえり」


「ただいま」


 そこに、乾いた洗濯物を持って母親の洋子がリビングから出て来たが、孝雄と眼すら合わさず無言で擦れ違った。


 大助はトイレに入り、ズボンを下げ腰掛けた。


『完璧な夫婦の倦怠期って奴だな。

 離婚の危機だったりして………………………』


 大助は考え込んだ。


「あっ、こんなとこに居た! 」


 声のする方に顔をあげると清友が壁からにゅうっと頭を出していた。


「おまっ!!

 節操無く何処にでも現れるな! 」


「ボク出掛けるからね

 心配しなくても直ぐ戻るから」


 そう言うと清友はパッと消えた。


「清友、うぜえ」


「お兄、電話」


 妹の里美がトイレのドアを少し開けて電話を差し入れて来た。


「おまっ、何処に電話持って来るんだよ! 」


「便所」


「男が入ってる便所に電話差し入れて、抵抗を感じると云う常識がお前には無いのか! 」


「無い」


 大助は電話を受け取り項垂(うなだ)れた。 


 里美は去って行った。


 大助は電話を見詰めた。


『なんで、フリチンで電話に出なきゃなんないんだよ! 』


 大助は気を取り直して電話に出た。


「もしもし? 」


「もしもし、アタシだけど解るか? 」


 電話の相手は同級生の八重草蘭だった。 


 見える訳でも無いのに大助は着ているTシャツの(すそ)を伸ばして下半身を隠した。


 人に見せられない、情け無い姿である。


「山口、バートリーの新譜買ったって今朝言ってたよな

 今からディスク持って行くから、やきまわし頼むよ」


「ちょっ、お前オレん家解っ…………………」


 電話は切れていた。


「なんつう気の早い奴。

 CDくらい貸すのに…………………」




 此処(ここ)では無い何処かに一軒の幽霊専門ゲイバーがある。


 その名も冥界雌雄(めいかいしゆう)


 何とも央行(おうぎょう)しい名前のゲイバーだが清友はここの常連である。


 清友がバーに入ると、線の細い三十代中盤の美人ママがカウンターから笑顔で出迎えた。


「あら………………

 いらっしゃい、清友君」


 (ちな)みにママと言ってもゲイなので勿論男である。


 雌雄のママは世話好きで、よく他の幽霊たちの相談に乗っている。


 清友は歳が若い事もあって雌雄のママには可愛がられ、清友も懐いていた。


 ママの(そば)に行こうとする清友の後ろから抱き付いてきたのは、二十代前半の巻き毛に金色のカチューシャがよく似合う美人幽霊、房子(ふさこ)である。


「ねえママ、いい男来てる? 」


 ママが言った。


「房子さんもいい男探すより生きてる人間の役に立って成仏する事考えたら?

 だいたいゲイバーに入り(びた)っていい男も無いでしょ」


 ママは清友の顔を覗き込んで言った。


「清友君はどう?

 生きてる人間の倖せの為に何かできそう? 」


「役に立ちたいとは思ってるけど、何が大助の倖せなのか解らないし、ボクこんなだから大助に世話掛けるばかりで」


 ママは清友の肩に手を置いて言った。


「そんな弱気にならないで、頑張ろ! 」


 清友はママの顔を見詰め弱々しく笑った。


「…………………うん」







 読んで下さり有り難うございます!

 初めてのコメディーで目茶苦茶苦労しました。

 初めて大助が清友に遭うシーンは活字中毒の娘に

ダメ出し4回も出され、4回書き直しました。笑

 ギャグの総てがダメで、突っ込みの難しさに悩みました。

 ギャグに笑って戴けたら嬉しいです。

 最後まで読んで戴けたら更に嬉しいです。

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