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38 王女の正体

 無数の火矢がリルメア様と、ファーガス様に向けて放たれた。


「まずい、見たことない魔法だ!」


 エイデンは倒れたまま、魔力を込めていたのだろう。


「へ、死んじまえよ」


 エイデンは起き上がり、セドリック侯爵のそばに行った。


「結界が耐えられそうにない!」


 オレは慌てて骸骨魔導士リッチの骨を放り投げ、骸骨魔導士が組みあがる間に、自分で魔法陣を描き上げた。


「オレは空間魔法は使えないが、空間魔術の魔法陣は知ってる。

 見たことあるからな。

 頼んだぞ、空間魔術師モリス・バロウズ!

 生きてるときに使えた魔法は、骸骨魔導士リッチになっても使えるだろ!」


 骸骨魔導士リッチは右手を開き、空間魔法を発動。

 リルメア様とファーガス様をオレのすぐ後ろに転移させた。


「え?」

「な、何が起こった?」

「はは、良かった。

 空間魔術を使える骸骨魔導士リッチがいたから、ぶっつけで使ってみたけど……間に合いました」

「空間魔術……レオン殿、お主とんでもないな」


 ファーガス様は唖然としていた。


「あの時の空間魔術師の骸骨魔導士リッチですか」


 王女は興味津々と言った声色だ。

 あの時って、オレが侯爵家に侵入したときの話知ってるわけないよな?


「ば、馬鹿な!

 なぜあの魔法に耐えられるんだ!」


 エイデンは頭を抱えて叫んでいた。


「耐えられないから、空間魔術で逃がした。

 ちょうどいい空間魔術師の骸骨魔導士リッチがいたんでね」

「空間魔術師の骸骨魔導士リッチだと……」


 セドリックは怒りをむき出しにしてオレを睨みつけた。


「我が屋敷に忍び込み、モリスを殺したネズミはあなたでしたか、レオン」

「……ということは、うちの領内にちょっかいをかけてきた侯爵はお前だな、セドリック」

「許しませんよ、私に歯向かったこと、後悔しなさい!

 エイデン、やってしまいなさい!」

「……言われなくても、やってやる」


 セドリックはエイデンの影に隠れた。


「レオン、お前とオレの違いを教えてやる。

 オレは持ってる、お前は持ってない。

 だからオレがすべて手に入れる。

 お前は、地べたを這いつくばれよ!」


 エイデンは魔法剣を生成し、オレに斬りかかってきた。

 だが、傷ついたエイデンは動くのがやっとという様子だ。


「お前のしぶとさには、尊敬してるよ。

 ただな、オレの甘さのせいでリルメア様への攻撃を許した。

 完全に潰すから、覚悟しろ」


 やっとの思いで近づいてきたエイデンの上段斬りを跳ね上げ、態勢を崩したエイデンを斬り伏せた。


「ち、ちくしょう……」

「エイデン!」


 観客席にいたビビアンの叫び声を聞きながら、エイデンの両肘を全力で踏みつぶす。


「あぐ……ああああああ!」


 両肘を壊されたエイデンはピクピクと体を震わせていた。


「さすがにこれなら魔法は使えないだろ」

「レオン、なにもそこまで」

「王女を攻撃したってことは、殺されたとしても文句の言えない大罪だ。

 むしろ一刀にて斬り捨てなかったことに感謝してほしいくらいだが……」

「ああ……エイデン、エイデン……」


 ビビアンはむせび泣いていた。


「さて、お前以外は片付いたぞ。

 セドリック」


 セドリックは周りを見渡し、観念したように両手を上げた。


「……はははは、殺さないでください」

「やけに大人しくなったな」

「……うるさいですよ。

 王女が人目を利用した以上、私だって利用する権利がある」


 セドリックはぼそぼそとオレだけに聞こえるようにつぶやいた。


「完全に降参したものを斬殺することは、王女はできないでしょう。

 私は、王宮での裁判を経て権力の座に返り咲いて見せます。

 その際には、レオン。

 この借りは必ず返しますよ」

「よし、レオン殿よくやったぞ」


 ファーガス様がリルメア様と部下を連れてやって来て、セドリックを縄で拘束した。


「リルメア殿下、セドリックは私が牢につなぎます」


 無骨なファーガス将軍であるが、王女には深々と礼をした。


「ええ、よろしくお願いします。

 ファーガス様」

「それと……ワシはこの場にいるセドリック子飼いの者どもを抑える。

 このままでは黙っておらんだろう。

 ここで、少しでも抑えれば抵抗勢力が減るからの」

「レオン!」


 マクマナス子爵が部下と共に、にこにこ笑顔を振りまいて、オレの近くにやってきた。

 

「やあ、レオン。

 姫護衛プリンセスガードになることが出来たんだってね、父として嬉しいよ。

 やはり、私の見る目は間違ってなかった。

 エイデンなんかより、ビビアンは君と結ばれるべきだ」

「は?」

「だから、レオンとビビアンの結婚を認めるということだよ。

 すまないね、君への試練のつもりだった。

 乗り越えてくれて嬉しいよ」


 何を言ってるんだ、この人は。

 自分で婚約を破棄しておいて、まったくそれを忘れたような物言いをする。


「あなたが婚約を破棄したんです。

 あなたへも、ビビアンにも、私の信用はありません」


 一瞬眉毛がピクンと反応したが、どうやら怒りをこらえて表情を取り繕うのに成功したらしい。


「まあまあ、水に流そうじゃないか、レオン。

 スチュワート家と、マクマナス家、力を合わせて盛り上げていこう。

 な?」

「……スチュワート家の領地に夜の眷属が出ました。

 あなたはそれでも、スチュワート家と仲良くしてくださるのですか?」

「ああ、人狼のことか。

 そんなもの関係ない、私と君とビビアンでこれから一緒に暮らしていこう、なあ、レオン」


 オレの領地人狼のことについて、なぜマクマナス子爵が知っているのか。

 答えはセドリック侯爵とつながっているからに違いない。

 むしろ、オレの領地を召し上げてエイデンに渡すことで得をするのはマクマナス子爵だけ……そうか、父と懇意のあなたがこの絵を描いたのか。


「フアーガス様、マクマナス家はセドリック家と大いに関係があります。

 ぜひ、ファーガス様と牢屋で信仰を深めていただければ」

「何を言うんだ、レオン!」


 ファーガス様がやって来て、マクマナス子爵の肩を抱いた。


「おお、セドリックと仲がいいなら、ワシと牢屋で語り合う必要があるな」


 マクマナスの部下が槍を握ったのをファーガス様は見逃さなかった。


「無礼者が!」


 その部下たちを鉄拳で制裁し、大人しくさせたファーガス様は、肩にマクマナス子爵を担ぎ、右手の縄でセドリック侯爵を引き連れながら闘技場を後にした。

 どうやら、ファーガス様は準備の良いことに、闘技場の外に私兵を控えさせていたらしい。

 

 あちらこちらでファーガス様の部下たちがセドリックと近しい文官たちの身柄を抑えて連行していた。


 観客席は一連の流れに呆然としていたが、やがて舞台にオレとリルメア様だけが残っているのに気づいて拍手を送ってくれた。


 リルメア様は観客席に手を振っていたが、やがてバランスを崩し、扇を落とした。


「どうされました」


 急いで抱き寄せ何とか体を支えるが、王女の身体が異常な熱を持っているのに気づいた。


「そうか、空間魔術の対象となると疲労に襲われるというからな」


 便利な魔法であるが、空間を超越するにはリスクを伴う。

 移動者の体力を大きく奪ってしまうことがあるらしい。

 疲労がたたって発熱したのだろうか。


「……医務室に連れていきます」

「お願いします」


 いつもは扇で隠している王女の顔を初めて見た。


 銀色の長い髪をサイドで二つにまとめ、整った顔は熱を帯びているのか紅潮し、大きな碧い瞳がじっとオレを見つめていた。


 その眼に吸い込まれるようにオレはじっとリルメア様を見つめていた。

 こんなに綺麗な人は見たことがない。

 いや、どこかで会ったことがある気がするぞ……

 ふと、リルメア様の首に目が留まった。


 銀色のチョーカー。


 ……え、どういうことだ。


「リル……」

「はい、何ですか、レオン様」


 え、さっきまで王女を抱きしめていたはずだが……ちょっと待ってくれ、頭の整理が追いつかない。


「えっと、お前リルだよな?」

「はい」


 リルはきょとんとしている。


「王女はどこだ?」

「ここですよ?」


 リルは頬を指さした。


「どういうことだ?」

「あの、まさか本当に気づいていなかったんですか?

 レオン様」


 頭が混乱したオレは、とりあえず今一番すべきことに集中しよう。


「……体が熱いから、とりあえず医務室に行くぞ。

 いや、医務室に行きますよ」


「敬語じゃなくていいですよ?」


 誰が、王女に向かってため口で話すものか。

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