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37 侯爵の罪を暴く

 リルメア王女がセドリック侯爵の爵位と職務の停止を言い渡したことで、あたりは緊張に包まれた。

 

「リルメア様。

 何の理由があって、私の地位を脅かすのですか」


 セドリック侯爵は怒りの表情を浮かべているが、口汚く王女を罵るのは憚られたのであろう。

 ここ、闘技場には民衆の眼がある。

 後見人として、王女を超えた権勢をふるうセドリック侯爵であるが、闘技場に詰めかけた民衆の敬意は、依然として王家にある。


「あなたが他人の領地に人狼を送り込む卑劣漢だからです」

「な、なにをでたらめを……」


 セドリック侯爵は狼狽していた。


「そして、魔導士を使い、私を暗殺しようと吸血鬼を送り込みました」

「で、でたらめです!

 王女は頭がいかれました、でたらめを言っています!」


 王女は袖から手紙を取り出した。


「これがその証拠です」

「な、何を出たらめを……」

「この印は、セドリック家のものですよね、そして……どなたかセドリック侯爵と文を交わした方はいらっしゃいますか?」


 王女は手紙を振って見せた。


「でたらめです!」


 遠目にも、印が本物だとわかったのだろう、セドリックは王女の手紙を奪おうと走り寄った。


「リルメア様に近づくな!」


 王女が衛兵を連れていないので、新米姫騎士が守るしかない。

 オレはセドリック侯爵と王女の間に剣を構えて立つ。


「レオン。

 私に剣を向ける気ですか、ただでは済ましませんよ」

「それ以上、近づかないでください。

 セドリック侯爵、たとえあなたであっても、王女に危害を加えたら無事ではすみませんよ」


 にじり寄るセドリック侯爵と距離を開けながら王女を守る。


「これは、確かにセドリックの字だな」


 舞台上に降りてきたファーガス様が、王女から手紙を受け取り筆跡の確認を行っていた。


「ファーガス」


 苦虫をかみつぶしたような顔で、セドリック侯爵は名前を読んだ。


「おう、久しいな。

 セドリックよ。

 久方ぶりに会ったが、お前さんが外道に落ちとるとはな」

「何がです」

「空間魔術師モリス・バロウズなんて稀代の極悪魔法使いと主従契約などよく結べるな。

 『セドリックは月に金100をモリスに与える、代わりに、モリスはセドリックに服従する』……動かぬ証拠というやつだな」

「ば、馬鹿な!

 インチキだ!

 ニセモノだ!」


 セドリックは喚き散らした。


「おいおい、セドリック。

 家印が押してあり、お前の筆跡がある。

 これ以上の証拠はねえぞ」

「黙りなさい、ただモリスと契約しただけでしょう?」


 ファーガスはこの期に及んでも弁解を続けている。


「ここに、モリスが吸血鬼と交わした手紙もありますよ?

 人狼にするために獣人とやり取りした手紙だってほら、ここに。

 しっかりと、モリスの印が押してあります」


 王女は、袖からたくさんの手紙を取り出した。

 ファーガス様がそれを王女から受け取り内容を確認していく。


「……そんなものはでたらめですよ、リルメア王女。

 こんな小さな証拠で宰相たる私を排斥するんですか、

 王女自ら盗賊の真似をして、手に入れた書類だとでもいうのですか?」


 余裕を見せるセドリックであるが、観客席からは非難の大合唱。


「黙りなさい、愚民ども!

 あなたたち、やっておしまいなさい!」


 セドリックの合図で部下の魔法使いたちが観客席に火矢を放つ。


「「うわああああああ」」


 あくまで人のいないところを狙ったようだが、観客席はざわめきたった。


「あなたが私に疑いを向けていることはわかりました。

 そのことも含め、後は王宮で話し合いましょう。

 なあに話し合えば分かり合えるはずです。

 あなたの気の迷いを晴らしてあげますよ、リルメア様」


 セドリックは部下と共に舞台を去ろうと背を向けた。


「……王宮はあなたの庭ですものね」


 王女はつぶやいた。


「何が言いたいのですか、リルメア様」


 セドリックは歩みを止めて振り返った。


「筆頭将軍を手なずけて、文官、武官をあなたは掌握しました。

 お父様が亡くなってからというもの、私と弟、未成年の王族に代わり、あなたが今王宮を治めています。

 でも、あなたにとって気に入らないことが一つだけ」


 皆、王女の話に聞き入っていた。


「お飾りだった私が、もうじき成人すること。

 あなたが権勢をふるえていたのは、王族の空位によるものです。

 私が成人して弟の後見につけば、あなたの全権は私に返さなければならなくなるでしょう。

 だから、あなたは私を殺したかった。

 私が死ねば、弟が成人するまで、またあなたの天下ですからね。

 私は、弟を守ります」

「……どうぞ、ご勝手に。

 できるのであればね」

「ええ、では、そのようにさせてもらいます」


 王女は大きな声で宣言した。


「たった今、セドリック侯爵を王女の後見人たる地位を解きます!」

「は、何を言ってるんです?

 後見人への任命は、筆頭将軍と宰相の同意が必要です、もちろん、後見人の解除も同じです」

「ええ、さすがよくご存じでいらっしゃいますね。

 ですが、解除の場合は少し違います」


 王女は観客のみなにもわかるようゆっくり話し出した。


「一つ目、後見人が信頼できないしっかりとした証拠があること」


 王女は指を一本立てた。


「二つ目、後見人の任命に同意した筆頭将軍と宰相二人から、解除の同意を得ること」


 王女はもう一本指を立てた。


「ただし、後見人自体が、同意した宰相か筆頭将軍である場合、その者の同意は必要ない。

 これは当然ですね、悪い後見人自身が同意するわけありませんから。

 そして、今二つの条件を満たしました」

「何を言っている、筆頭将軍は私の味方だ。

 同意するはずがない」


 王女は首を振った。


「理解していないようですね。

 私は、『任命に同意した筆頭将軍と宰相の、解除の同意を得ること』と言いましたよ。

 この場合の筆頭将軍とは、現筆頭将軍ではなく……」

「ワシじゃの」


 フアーガス様は、歯を見せて笑った。


「そう、ファーガス元将軍です。

 任命したのはファーガス元将軍が筆頭将軍だった頃の話ですから」

「なんだと……」


 ファーガス将軍は王女に書類を渡した。


「署名したぞ、ワシはセドリックを王女の後見人から解除することに同意する」

「ば、馬鹿なことを!」

「そして、政治的空白を防ぐため、次の後見人を任命する間は、たとえ未成年であっても、王族が王権を支配します。

 王女リルメアへの暗殺未遂の手紙を証拠に、ファーガス元将軍の同意を得て、セドリック。

 あなたを王女の後見人から解除し、爵位を取り上げ、すべての職務を停止します。

 そして……」


 セドリックは王女を睨みつけていた。


「セドリック、王女殺害未遂の疑いであなたを捕えます。

 大人しく、連行されなさい」

「ははははは」

「何がおかしいのです!」

「やはり、私は間違っていなかった。

 リルメア様、あなたは優秀です。

 だからこそ、お飾りになれないあなたが邪魔だったのですよ」


 セドリックは抜刀した。


「正気か、セドリック!」


 ファーガス様がセドリックを睨みつけた。


「王女に吸血鬼を刺客として送り込んだ時から、こうなることは覚悟していました。

 さあ、皆のもの、王女とファーガスを殺しなさい。

 魔法を使えるものは、王女の手にした書類を焼きなさい。

 書類さえ焼けば、後は私がなんとかします!」


 セドリックが連れてきた騎士たちは一斉に王女に斬りかかった。


「ハアアアア!」


 横薙ぎで騎士たちをぶっ飛ばす。


「リルメア様、私の後ろへ」

「お願いします」


 セドリックと王女の間に、骨をばらまき手早く白骨騎士スケルトンを召喚。

 数で部下たちを抑え込む。


「必ず、守りますから」

「また、助けてくれました。

 これからも、お願いしますね」


 王女の表情は扇で見えないが、笑っているように感じた。

 そして、この声どこかで聞いたことあるような……


「リルメア様。

 何だか、楽しんでません?」

「だって、久しぶりで嬉しくて」

「……えっと、光栄ですが……」


 今はそんな場合じゃないと思うんだけど……

 闘技場には剣戟の音が響き渡っており、白骨騎士がなんとか抑えてくれている。

 魔法使いが詠唱の準備を行っているのが見えた。


「ファーガス様、王女を!」

「分かった!」


 近くに来ていたファーガス様に王女を託す。


「念のため、水魔法で結界をかけておきますね」

 

 小瓶を開けて、水の精霊の入った水を地面に叩きつける。


「並みの魔法ならはね返せます。

 書類を焼かれないようにしたつもりです。

 では、行ってきます」


 オレは、白骨騎士が抑えてくれている前線へ駆け戻った。


「この青い霧が、水の精霊か」


 魔法の使えないファーガス様は物珍しそうに青い霧を眺めていた。


「はい……そうです。

 水の精霊は、歌が好きなんですよ」


 王女が歌を歌い始めた。

 王女の歌に合わせて会場も歌い始めた。

 水の精霊は喜び、フワフワと青いもやが空中を楽しそうに漂っていた。


 いいぞ、これなら結界の効果が上がる。

 しかし、リルが歌っていた歌、リルメア様が歌うなんてよほど流行っているんだな。


 騎士たちは白骨騎士が抑えてくれているため、魔導士を狙う。

 リルメア様の方へ魔法が向かわないよう、真正面に立ちながら魔導士たちに近づく。


「くそ、近づいて来る!≪火球ファイアーボール≫!」


 さっきのエイデンとの戦いを見てなかったのか?

 魔導士たちが放った≪火球ファイアーボール≫をつかみ、魔導士へ投げ返す。


「ぎゃあああああ」


 まとめて魔導士たちを倒せたので、騎士たちを振り返ると、一人の白骨騎士スケルトンが騎士たちをすでに倒してしまっていた。


「さすが父上だな」


 召喚師の振りをさせた白骨騎士スケルトンは父のものではなく、ここで使わせてもらった。


「あ……あ……」


 セドリックは腰を抜かして座り込んだ。


「あとは、あなただけです。

セドリック侯爵」


九十九の火矢ナインティナイン・ファイアアロウズ


 倒れていたエイデンが突如、リルメア様に向かって炎魔法を放った。

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