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36 奪われたものを取り返す

 観客席は騒然としていた。

 死霊術師と思っていたのが、ただの白骨騎士スケルトンで、白骨騎士スケルトンと思っていた黒騎士が死霊術師本人だったからだ。


 当然、そう思うように仕向けていたんだけどな。

 ファーガス様の眼も欺けたようで助かった。

 

≪いつ、入れ替わった?

 そんな暇はなかったと思ったが……≫


「ええ、もちろん、そんな暇はありませんでした」


≪では、何があったというのか……≫


「簡単なことです。

 私は、初戦からずっと黒い甲冑を装備し,て戦ってきました。

 そして、ローブをかぶって死霊術師のフリをしていたのが、白骨騎士スケルトンだったということです」


 客席はおおいに騒ぎ立てた。


≪なんと、では先ほどから黒騎士として剣を振るっていたのは、レオン殿。

 お主だったのだな≫


「ええ、ファーガス様に父と誤解していただいたこと、恐悦至極にございます」


≪ううむ、いや、見事な剣であった。

 皆のもの、見事な剣術をみせてくれたレオン殿に拍手を!≫


 客席は、温かい拍手で迎えてくれた。


≪いやはや、しかし、なぜわざわざ人を欺くような真似をした?≫


「それは……」


 オレはちらりとセドリック侯爵に目をやった。


「死霊術師は、言われのない中傷を受けます。

 自分で戦え、卑怯だ、などなど。

 難癖をつけられて優勝をうやむやにされたくありませんでした。

 現に、エイデンは私の戦闘方法に難癖をつけてきたわけですから。

 それに、この王宮剣術大会に参加することが、敵陣へ一人参加するようなものだったからでございます」


 観客席はざわめいている。


≪ほう、

 それはどういうことだ?≫


 さて、衆人の眼はオレに集まっている。

 ここからの立ち回りで、スチュワート家の復興如何が決まるのだ。

 覚悟を決めて、話はじめた。


「はい。

 ただ、今この場は、観客の皆さまにお見せする場でございます。

 敗れたエイデンのように自分の思いばかり語って、退屈な話をお聞かせする場合ではございません」


 観客席はどっと沸いた。

 いいぞ、観客はエイデンでなくてオレを見てくれているようだ。


≪では、どうするというのだ≫


「私がここで語るのは、この間の大戦の戦記にございます」


 この場に緊張が走った。

 ファーガス様はにやりと笑った。


≪ほう、どう語るのいうのだ?≫


「退屈な話にはいたしません。

 演者はすべて私が用意いたしましょう」


 甲冑を脱ぎ、中に仕込んでいた骨をばらまいた。


 呪文を詠唱し、小瓶の中から精霊たちを取り出す。


 五色に輝く精霊たちを纏った、白骨騎士スケルトンのお出ましだ。


 精霊の鮮やかな色に拍手が巻き起こった。


「今から、私がこの前の戦記の一部を皆様にお見せいたしましょう。

 封印されし戦記を、今これからお目に掛けます」


「ふ、ふざけるなああああ!」


 セドリック侯爵が立ち上がり叫んだ。

 

「戦記は、論功行賞のためのものだろう。

 今更、語って何の意味がある!」


≪それは、戦記を確認した上で、論功行賞を行った場合のことだな≫


 観客席がざわめいた。

 戦記を確認せずに論功行賞を行ったなど、市民には伝わっていないからだ。

 というより、今の反応を見るに侯爵以下、数人にしか伝わっていないのではないか。


≪語られない戦記があるのなら、剣術大会の優勝者が望むのならそれも一興かと思いますが。

 王女殿下、如何お考えでしょうか≫


「聞きましょう、あの大戦で語られなかった戦記を。

 もし、観客の皆さまが望むのであれば」


 観客からは拍手が巻き起こった。


「ならんぞ!

 侯爵たるセドリックが命じる、話してはならん!」


 観客席からは大いに不満の声が届けられた。


「民の声を権威で潰すなど、おごり高ぶりが過ぎますよ、セドリック」


 王女は冷静にセドリックをたしなめた。


「あなたが権力を傘に民の声を潰すのであれば、私もそうせざるを得ませんね」


 王女は立ち上がった。


「王女が姫護衛プリンセスガードたるレオン・スチュワートに命じる。

 封印されし、戦記を物語れ!」

「ありがたきお言葉にございます、リルメア様。

 一席演じて見せましょう」


 呪文を呟くと、白骨騎士たちが行進を始めた。


「これから、戦記を上演いたします。

 そうですね、タイトルは……二人の英雄、とでもしましょうか」


 演者としての白骨騎士スケルトン以外にも、音響担当や照明担当の白骨騎士スケルトンを召喚、闘技場を音と光で包み込む。


 観客がその光と音に興じているうちに、倒れたエイデンを回復、白骨騎士にくくりつけ操り人形に仕立てる。


「舞台に上がれ、エイデン・ラッセル!」


 そう叫ぶと、円型の白光がエイデンを照らし出す。


「く、何だ。

 オレは縛られているのか!」

「お目覚めだな、エイデン。

 お前の役はお前自身にやってもらう」

「何だと?」

「なあに、お前はただ、ここにいればいい、簡単だろ?」

「ふ、ふざけやがって!」


 エイデンが叫ぶと、オレにも光が当たった。


「私はレオン・スチュワート。

 あの大戦で、光栄にも王女の護衛を任されておりました」


 ティアラを被り、ドレスを纏った白骨騎士が登場。

 若干笑いが起こった。

 まあ、本物の王女にこんな茶番はさせられないからしかたない。


「もっとも、こんな大任、私一人で受け持ちたくともできるわけがありません。

 有能な、炎魔術師エイデン・ラッセルと一緒に任にあたりました」


 エイデンにのみ光が当たる。


「な、なんだ!」


 周りから声がする、とはいってもオレが魔法で仕込んだものだが。


「エイデンは、遠目に相手の将軍を見つけました。

 そして、それを私に告げるまでもなく、部下を率いて討伐に向かったのです」


 白骨騎士にくくられたエイデンは無理やり動かされる。

 妙なおかしみがあって、観客席からは笑いが起こった。


「わ、笑うなあ!」

「初めは戦線を気にしていたエイデンですが、今見たとおり、エイデンは短気な性格です。

 敵将の挑発に乗せられ、王女の警備を放って飛び出してしまいました」


 くくりつけられた白骨騎士が無理やり、エイデンを連れていく。

 先ほどの白骨騎士スケルトンとは、違う服を着た敵軍の白骨騎士スケルトンが現れた。


「敵襲です。

 エイデンは、王女を襲うためにわざとつり出されたのです。

 エイデンの抜けた戦線から、敵軍が突撃してきました!」


 敵軍が、自軍の白骨騎士スケルトンをなぎ倒し、王女に迫った。

 観客席からは悲鳴が上がる。


 キィィィィィン!


 オレはティアラをした王女役の白骨騎士スケルトンをかばい、他の白骨騎士をなぎ倒した。

 観客席からは歓声が上がった。


「戦線が崩壊している!

 お怪我はありませんか、リルメア様!」


 オレが近づくと王女役の白骨騎士スケルトンが扇で顔を隠した。

 その所作が面白かったのか、観客席からはドッと笑いが起こった。


「側近が全滅していますね。

 護衛が私と白骨騎士スケルトンでは不足かもしれませんが……しばらく持ちこたえて見せますから」


 オレは、王女の周りに白骨騎士スケルトンを呼び出した。


「崩壊した戦線を、守るべく必死で白骨騎士スケルトンを呼び出し、剣でも王女の周りを斬り払い、私は奮戦しました」


 あたりを斬り払うと、白骨騎士スケルトンは倒れ、静かになった。


「あたりを片付けた私に、王女が命令を下しました。

 包囲されたエイデンを救ってくれと。

 白骨騎士スケルトンをありったけ召喚し、王女の元に残した上で、エイデンの救助に向かいました。

 囲まれたエイデンは、私が突撃した際、一瞬狼狽した相手方の隙をつき、炎をまとわせた刃で、敵将の首を落としました」


 オレが剣を振ると、白骨騎士スケルトンはすべてただの骨に戻った。


「これが、二人の英雄の全てです。

 私が演じた事象に、戦記と食い違いはございますか?

 ファーガス様」


≪いや、ない。

 すべて戦記の記載通りだ。

 エイデンが飛び出したことにより、王女を危機に陥れたこと。

 レオン殿が王女を救ったこと。

 危機に陥ったエイデンをレオンが救ったこと。

 エイデンが敵将の首を取ったこと

 これが実際に起こったことだ≫


「私は先の大戦の結果として爵位を下げられ、領地を奪われるという沙汰に会いました」


 ひざまずいて、観客に訴えた。


「沙汰については、私などが口をはさむ問題ではございません。

 ですが、私が王女を救ったのだということは、皆様にお伝えしたかったのです。

 その上での沙汰であれば、私は甘んじて受け入れます」


 観客席からは大きな歓声と鳴りやまない拍手をもらうことが出来た。 


「エイデンは表彰され、私は冷遇されました。

 結果をだしたのに冷遇されたということは、上の方に私を嫌っている人物がいるということ。

 私が皆さまを欺いたのはひとえにそういった理由です」


 オレには声援が飛んできているが、やがて、観客席からは冷たい視線がエイデンに向けられだした。


「な、なんだよ。

 その冷たい目は、オレは活躍したんだ!

 あいつはついてないんだ。

 敵将をやったのはオレだろうが!」

「答えなさい、エイデン」


 いつのまにか、舞台に降りていた王女の声が闘技場に響く。

 王女はいつものように顔を扇で隠していた。


「敵の部隊長の首と、王女である私の首。

 どっちの方がより価値があるのでしょうか。

 さあ!」

「リ、リルメア様……」

「それに、エイデン。

 あなたがレオンに言っていたことを覚えていますか?

 ≪王女の危機を救えなかったら、縛り首≫でしたっけ。

 今すぐ、そうしてあげてもよろしいのですよ」

「あ……あ……」


 エイデンは膝から崩れ落ちた。


「エイデン、あなたの領地と爵位はそのままにはしません、しかるべき罰を受けてもらいます」

「すいません、許して……許してください……」


 エイデンは床に頭をこすりつけたまま動かなくなった。 


「皆さま。

 今ご覧のとおり、姫護衛プリンセスガードたる力を示したのは死霊術師レオン・スチュワート。

 私は、レオン・スチュワートを姫護衛に任命します。

 そして、レオン・スチュワートの爵位を回復することを誓います!」


 観客席に歓声とともにどよめきが起こった。


「なんですとおおお!」


 セドリック侯爵が大声で叫び、舞台目指して駆け下りた。


「論功行賞のやり直しなど聞いたことがない、そんなことは認められません」


 慌てて駆け下りてきたセドリック侯爵は息を切らしながらも、王女に異を唱えた。

 周りには護衛の兵が数十名。

 いやに、護衛が多いな。


「仕方ありません、論功行賞の手続きに落ち度があったのですから」

「どこに落ち度があったというんです!」


 セドリック侯爵は王女を睨みつけるが、王女は全く意に介していないようだ。


 にらみ合う侯爵と王女であるが、王女はお供も連れず降りてきている。

 さすがに刃傷沙汰にはならないだろうが、念のため王女の前に立つ。

 これから、姫護衛をするわけだしな。


「決定した人が、誤っていました」

「どういうことですか!」

「セドリック侯爵、あなたの爵位及び職務をすべて停止します」

「何をおっしゃってるんですか!」


 オレの全く予想だにしていないことが起きようとしていた。

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