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35 王宮剣術大会 ~決勝~

≪さあ、剣術大会いよいよ決勝、両者とも、気合十分だろうな!

 おい、観客ども!

 名勝負、瞬き一つせず見る覚悟はできてんだろうな!≫


「「おお!」」


 ファーガス様の実況解説が、客の心を燃え上がらせる。

 やはり勝負事だから、実況だって熱い方がいい。


 オレも密かに情熱をたぎらせながら、試合開始を待つ。


≪皆の者知っているだろうが、この戦いの勝者が姫護衛プリンセスガードとなる。

 一代限りの最大の栄誉だ。

 剣でも魔術でも、王女を守れるだけの力を示せ!

 両名、入場せよ!≫


 オレ達とエイデンは舞台へ向かって歩みを進めた。

 正面から歩んでくるエイデンは、何回見たって気に食わない顔だった。


「エイデン、頑張ってね!」


 ああ、よく聞いた声、よく見た笑顔だ。

 ビビアンは相手への好意を前面に出した、声と表情をする。

 それが愛おしくもあったが、その好意は今となっては違う男に向けられているんだ。


 思わず右手に力が入った。

 

 オレとエイデンは舞台中央に立つ。


≪炎魔術師エイデン・ラッセル!≫


 客席が沸き上がり、エイデンは声援にこたえて手を振っていた。

 それを受けて客席はさらに沸いた。


≪死霊術師レオン・スチュワート!≫


 同じく客席が沸き上がったが、オレは手を上げる気にはならなかった。

 何もしないのも、落ち着かなかったので舞台と客席に頭を下げた。

 黒ずくめの騎士と死霊術師が頭を下げたのが妙にユーモラスだったようで、客席からは笑いが起こった。

 

「はは、いかにも道化らしい所作だな、レオン」


 返事をする気にもならなったので、剣を構えた。


≪気合は十分だな、両者とも。

 それでは……≫


「ちょっと待ってくれ!

 ファーガス様、せっかくの決勝なんだ。

 口上を述べさせてくれ、いいか?」


 エイデンが手を上げると、観客は好意的な声援を送った。


≪ワシの一存じゃ、決められん!

 王女殿下、いかがでございましょうか≫


 慌てて魔導士が王女の元へ走り、風魔法で王女の声を増幅した。


「エイデン、申し出は聞き届けました。

 試合の前ですので、対戦相手が了承するのであれば、私は構いません」


≪どうだ、レオン。エイデンの申し出に了承するか?≫


 別に構わない、吠えたきゃ今のうちに吠えたらいい。

 

≪ふむ、黒騎士の兜が動いた。

 頷いたということだな。

 王女殿下、よろしいでしょうか≫


「エイデン、あなたに口上を述べる権利を差し上げます」


 エイデンは恭しく臣下の礼をとった。


「リルメア殿下。

 私は今から、レオン・スチュワートを倒してごらんに入れます。

 今回の大戦で、私が敵指揮官を倒して金星を挙げたと自負しております。

 この場においても、一番の武勇を持つものはエイデン・ラッセル、私だと自負しております」


 エイデンはくくくと笑った。


≪王女殿下の御前であるぞ、何がおかしい!≫


「失敬、あまりにもレオンが哀れでねえ。

 自分の力が足りないものだから、地味で陰鬱な死霊術師などやっていやがる。

 戦うって言ったって自分の剣でも魔法でもない。

 結局優秀な白骨騎士スケルトンに全部任せてるもんな。

 よお、レオン。

 お前に力がないからって親父殿まで白骨騎士スケルトンにしたんだってなあ。

 ククク、何から何まで親父におんぶにだっこかよ、情けねえ。

 すべてにおいて、オレの方が上なんだと証明してやるよ!

 見てろよ、みんな!

 オレがレオンをぶっ倒すからなあ!」


 そう叫んだエイデンは拳を突き上ると、観客は大いに沸いた。

 幾分、品位のない向上であるが、観客としては面白ければそれでいいのであろう。


≪レオン、言いたい放題言わせていいのか?

 お前も王女殿下に許しを請い、口上を述べることも可能かもしれぬぞ?≫


「……」


 返事の代わりに、剣を突き上げる。

 これはこれで、観客は沸いた。


≪ふ。

 言葉はいらない、剣で語る、か。

 それも結構!

 エイデン、お前も用意はいいな?≫


「はは、レオンのローブと仮面をはいで、黒焦げにしてやるよ!

 かかってきやがれ!」


 エイデンも剣を構えた。


≪王宮剣術大会、決勝。

 いざ尋常に、はじめ!≫


「ははッ、黒焦げだ!」


≪おっと、エイデン、いきなり≪火球ファイアーボール≫で黒いローブの死霊術師レオン本体を攻撃だ!

 レオン、さてどうする?

 おっと、黒騎士があっという間にレオンの前に出て、≪火球ファイアーボール≫をつかんで……投げ返した!≫


 ≪火球ファイアーボール≫がエイデン目掛けて飛んでいく。


≪何ということだ!

 鎧を装備しているとはいえ、白骨騎士スケルトンは火が苦手なはず……どうなっとる!≫


「くそが!」


 エイデンは自分目掛けて飛んできた≪火球ファイアーボール≫にあわてて≪火球ファイアーボール≫をぶつけ、相殺。


≪おっと、黒騎士手を緩めない!

 ≪火球ファイアーボール≫の処理に手間取ったエイデンに猛然と突撃、跳躍して斬りかかった!≫


「ふざけんなあ!」


 態勢を崩しながらも袈裟切りを回避したエイデンに追撃。


≪返す刀で、斬りかかる黒騎士!

 たまらず、しゃがんだ態勢のまま、なんとか剣を合わせ、防いだエイデン。

 つばぜり合いをするが、エイデンは態勢が崩れて、持ちこたえられない!≫


 バキィイイン


≪エイデンの剣が折れて飛んで行った!≫


「ちくしょおお!」


≪エイデン、しゃがんだまま炎魔法を唱えようとするが、前進した黒騎士に蹴っ飛ばされた!≫


「ぐううう……て、てめえ……」


 エイデンは何とか場外に吹き飛ばされる前に踏みとどまったが、内臓に衝撃を受けたのか、血を吐いた。


≪おっと、エイデンここまでか。

 まだ立てるなら剣を握れ。そうでなければ、降参しろ≫


「……誰が、降参なんぞするかよ」


 エイデンは立ち上がり、口を拭って、剣を握った。

 観客は大いに盛り上がっている。


「……たださ、汚ねえよ。

 汚ねえ。

 確かにその白骨騎士スケルトンは強いよ、たださ。

 王女様に危険があった時に、戦場で優雅に白骨騎士スケルトンなんて召喚してられるかよ、そうだろ!」


 会場の幾分かは、エイデンの主張に納得したらしい。

 もちろん全員ではないだろうが、会場から拍手が巻き起こった。


「ははは、会場はオレの意見に賛同したみたいだぜ。

 おい止めろ止めろ、試合はいったん中止だ!」


≪バカ者が!

 負けそうになったからって中止を求めるなんて武芸者にあるまじきことだぞ!

 試合はそう簡単には止められん!≫


 ファーガス様から本気の怒号が飛ぶ。


「でもよお。

 戦ってるのは、レオンじゃないだろ。

 あの黒騎士っていうか、親父の白骨騎士スケルトンだろ?

 危機が訪れた時、姫護衛として準備なしに召喚できるのか?

 オレだって知ってるぜ。

 ずっと召喚し続けることはできないんだ。

 死霊術師は、不死生物アンデッドを動かし続けている間、ずっと魔力を消費しちまうんだ。

 なあ、みんな、そう思うだろ?

 自分は何もせずに優勝なんてずるいよなあ、死霊術師はずるいよなあ」


 観客席からは、拍手が起こった。


「すぐに王女を助けられなくて何が姫護衛だよ……おい、レオン。

 何とか言ったらどうだ!」

「……」

「ははは、図星過ぎて言い返せねえってか?

 お前みたいな、白骨騎士スケルトン任せな奴に王女様を任せられるかよ。

 お前が優勝して姫護衛になってみろ、王女の危機を救えず、縛り首だぜ。

 自分の力で戦えよ、レオン。

 白骨騎士スケルトンまかせで恥ずかしくないのか、なあ!」


 観客席はエイデンの口上に沸いている。

 ある程度、会場の理解を得ているようだ。


「そうですよね、セドリック侯爵様!」


 王女とは離れた場所の特等席から見下ろしている宰相、セドリック侯爵にエイデンは話しかけた。

 セドリック侯爵はマクマナス子爵と近しく、エイデンとも懇意であるらしい。


「そうだな」


 セドリック侯爵は立ち上がり、王女に話しかけた。


「いかがでしょう、自分本体で何も動きはしない護衛など役に立たないかもしれません。

 ここは、エイデンの言い分にも一理あるのでは?」


 王女は扇で顔を隠し立ち上がった。


「なりません、姫護衛となるのはこの剣術大会の優勝者。

 優勝者を、恣意に歪めてはなりません。

 あくまで、姫護衛は優勝者に依頼します。

 死霊術は、剣や槍、その他魔術と同じ。

 正当なる能力です。

 セドリック侯爵、あなたの口添えがあったとしても、私は却下せざるを得ません」

「……わかりました、仰せの通りに」


 セドリック侯爵は一瞬、顔を歪めたように見えたが、すぐに表情を取り繕い、恭しく王女に礼をした。


≪エイデン、お前の申し出は認められない≫


「はは、そうかよ。

 でも残念だな、姫護衛になるのはオレだぜ」


 エイデンは服に隠し持っていたナイフに魔力を込め、勢いよく投射した。


「レオンは今、死んじまうんだからよお」


≪なんだと、お前、試合を止めろと言ってたではないか!

 急に魔法攻撃を行うなど……≫


「何言ってんだよ、ファーガスさん。

 アンタが、試合は止められないって言ったんだろ?」


≪ぐ……それはそうだが……

 いかん、レオン! 逃げろ!≫


「≪紅炎の刃プロミネンスブレイド≫、刃に込めた炎はそんじょそこらのもんじゃねえぞ。

 服の裏地に魔法陣を仕込んで、限界まで増幅した炎魔法を詰めてあるんだ……死ねや、レオン!」


 ドオオオオンン!


「はははは、死霊術師のローブも仮面も一瞬で溶けちまうような炎だ、ユノーの時とは違い、一切手加減してねえからな。

 ははは、炭になっちまえよ、レオン」


 その場に現れたのは、骸骨の顔。

 観客席からは、悲鳴と歓声が響き渡った。


「はははは、あっというまに骸骨になっちまったな、レオン。

 白骨騎士スケルトン頼りで自分の力で戦えねえ弱い奴だから、すぐ死んじまうんだよ」


 オレはコツコツと音を立てて、エイデンに近づいた。


「な、なんで黒騎士が動いている?

 白骨騎士スケルトンは、死霊術師が死ねば動かないはず……ま、まさか……」


 黒甲冑に包まれたオレは、黒い兜を取った。

 もちろん、火傷などあるはずもない。

 オレは魔法なんてくらってないのだから。


「お前は……レオン!」

「この剣術大会中、オレはずっと、オレの力だけで戦って来た」


 後ずさるエイデンを追いかけ、十字に斬った。


「ぎあああああああ!」

「これで満足だな、エイデン」


 服を斬られて、その場に突っ伏して倒れたエイデンを持ち上げ、勢いよく場外に叩きつけた。


「ファーガス様、舞台からエイデンが落ちたので私の勝ちだと思いますが」


 恭しく礼をして、ファーガス様に進言する。


≪……ああ、そうだな。

 王宮剣術大会、勝者はレオン・スチュワート!

 皆の者、盛大な拍手を!≫


 この日一番の歓声が、闘技場を埋め尽くした。

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