32 王宮剣術大会
王都ファラミアの円形闘技場は大盛況だ。
突如開催が周知されたにも関わらず、王宮剣術大会は諸侯から傭兵たちまで参加し、盛大なものとなった。
闘技場の周りには、露店が立ち並び、果実や炒め物の匂いが立ち込めている。
誘惑に負けそうになるが、試合の前に重いものを食べると頭が鈍るから今回は遠慮しておこう。
露店の前を足早に通り過ぎると、張り紙に剣術大会に出場する選手たちの名前が大きく書かれ、それぞれの名前の下には数字が書かれていた。
「はいはい、兄さん、姉さん、だれが勝つと思う?」
ワイワイ集まってみんなで金を出して名前が書かれた石板を買っていた。
「はい、一番人気は剣聖シラノ。
どうだい、やってくだろ?」
なるほど、あの数字は倍率か。
こいつら、剣術大会を餌にして賭博やってやがるな。
「2番人気は炎魔術師エイデン、最近世に出てきた新星だ。
剣と炎魔法でかなり攻撃的だぜ。
ありがとう。お目が高いね」
エイデンの石板が飛ぶように売れていた。
「その次は、死霊術師レオン。
かの黒騎士を父に持つ、戦闘一家の跡継ぎだ」
オレの名が書かれた石板も多少売れてはいるが、賭博で人気があろうとなかろうと別に構わないが、エイデンより人気がないのは腹が立つな。
闘技場入口の受付へ急ぎ、手続きを済ませて選手控室に入った。
壁に貼られた試合の表を確認する。
オレはいきなり第一試合からだな。
決勝までエイデンと当たらないのか。
チッ。
壁の近くの椅子に今一番会いたくない二人がいて、楽しそうに談笑していた。
「任せろって、絶対優勝してやるからな」
「あは。
頼もしいよ、エイデン」
「へへへ、レオンなんてぶっ飛ばしてやるからな」
「おねがーい」
「……ははは、よお」
見つけられたか。
こんな奴らと会話をしたくない。
エイデンとビビアンの前を無言で通り過ぎようとした。
「待てよ」
エイデンがオレの前に立ちはだかった。
「そこをどけ」
「レオン、いじけてんじゃねえよ。
爵位が下がったからってオレのせいじゃねえんだから怒るなよ」
「レオン、お父様が何とかしてくれるわよ。
お父さんだってレオンが頭をさげれば、ご飯くらいは食べさせてくれるわよ」
「そこをどけ」
エイデンを振り払って前へ進む。
「ま、今はまだ許してやるが、来月にはお前は子爵から男爵に格下げだ。
そうなったら、ちゃんと敬語を使えよ?
マクマナス子爵の子分ってことは、オレの子分でもあるんだからな」
「そうよ、レオン。
エイデンにも今のうちに頭を下げてた方がいいよ?」
誰が、こいつらに頭を下げてまで貴族でありたいものか。
「エイデン」
「お、なんだ?
謝る気になったか?
いいぜ、オレは寛大だからよ?
今のなめた態度は許してやるよ」
「オレと戦うまで負けるなよ、潰してやるから」
「なんだ、てめえ!」
殴りかかってきたエイデンの拳を交わし、剣の柄を腹部にめり込ませる。
「ぐああああ」
エイデンは痛みにその場に座り込んだ。
「エイデン!」
ビビアンは駆け寄ってオレを睨んだ。
「レオン、何をするの!」
「かわしたら、そいつが勝手に柄にぶつかったんだろ」
「てめえ、なめた真似しやがって……」
「そうか。
このままだと言い訳されそうだな」
オレはエイデンに向かって骨を投げつけた。
「うわあああ」
慌てるエイデンの目の前で、手早く呪文を唱えると投げつけた骨が組みあがり、あっというまに骸骨魔導師になった。
骸骨魔導師の骨ばった左手から回復魔法が放たれ、エイデンを癒した。
「な、なんだよ」
「負けた時の言い訳をしてほしくないからな。
しっかり回復しておいたぞ。
お前、回復呪文使えないらしいからな」
「余計なお世話だ!」
もう一度、呪文を唱え、骸骨魔導師を元の骨に戻し、しまい込む。
こいつは、侯爵家お抱えの魔導士から作った骸骨魔導師。
魔力が高く、かなり有能な骸骨魔導師だ。
「レオン、この借りは試合で返すからな」
「お前から、すべて奪い返す。
首を洗って待ってろ」
エイデンの成果は偽りのものだ。
王女を危険に晒したお前がなぜ評価され、危機を救ったオレがすべて奪われなければならない。
爵位、領地、ビビアン。
すべてお前が手にしていいものじゃないんだ。
虚飾を剥いで、仮初めの栄誉を叩き潰してやる。
何か叫んでいるエイデンを無視し、更衣室に入る。
甲冑や防具を準備し、死霊術師としての戦闘の準備に入る。
父から譲り受けた黒の甲冑と、死霊術師の黒のローブ。
今日の試合ではその両方を使う。
片方は、父の白骨騎士、もう一方はオレが着よう。
全身黒づくめの騎士と、仮面をつけたローブ姿の死霊術師。
≪まもなく、第一試合を開始します≫
魔力で増幅された声が闘技場に響き渡った。
よし、父と共に出陣だ。
黒騎士と死霊術師が並び立って、闘技場の試合会場へ進んだ。




