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30 剣術大会の知らせ

 リルが王都へ帰ってから数日たった頃、筆頭執事グラファーが喜色満面で執政室へやってきた。


「レオン様、これを」

「どうした、父が亡くなってからというもの、グラファーの笑顔などしばらく見てなかった気がするが」

「レオン様も早くお読みになってください、少なくとも失望するような結果ではないかと」


 差し出された手紙に目を通す。


「王宮剣術大会……半月後に王宮剣術大会が行われるだと?」

「ええ、王侯貴族が各地から集まり、優勝者には多大なる栄誉が与えられるという……」

「優勝すれば栄誉なことではある。

 それこそ、父の名が一躍有名になったのも、王宮剣術大会で優勝したからであったな」

「ええ。

 先代の雄姿はこのグラファーの眼に焼き付いております」

「ただ、それこそ近日中に爵位を格下げされる零細領主としては、名誉よりも銭金の方が気になって、夜も寝られぬ思いをしているのだがな」


 自嘲するオレに対してグラファーは不敵な笑みを浮かべた。

 およそ、従僕らしからぬ振る舞いに思わず眉をしかめた。


「失礼しました。

 ですが、忠実な家臣であるこの私が思わず微笑むような出来事が、この文には、二つ記載してございます」

「自分で忠実な家臣だなんて言うなよな」

「村祭りなど夜遊びを繰り返す主人のため、立派にこの城を守り抜いた執事は、忠臣以外の何物でもないと思いますが」

「ぐ……お前に無断で村の祭りに行ったのは悪かったと思ってるよ」

「大変だったんですから、各所からの問い合わせや訪問対応など……」


 グラファーの小言が止まらない。

 軽くからかったら何倍にも小言を返されたぞ。

 仕方がないので、自分で手紙を読み進める。


「何!

 差出人が王女だと!」

 

 思わず立ち上がり叫んだ。


「行方不明ではなかったのか。

 だからこそ、セドリック公爵が代理で論功行賞を急ぎ行ったのではなかったのか」

「集めた情報から察するに、行方不明だったのは間違いありません。

 しかし、この手紙には王女の印が押してあるのです」


 急ぎ手紙の印を確認する。


「間違いない、王家の紋章が刻まれた、王族の印だ。

 この印は今、王女リルメア様がお持ちであると公表されているはずだ」


 オレとて、貴族の一角だ。

 王族の文様や、印の形は当然の知識として、父から教えられている。


「はい、今の印の持ち主はリルメア王女。

 それは、間違いありません」

「では、行方不明となり、また戻ったということか」

「なにやらきな臭いものを感じますが、そう解釈するのが自然かと」

 セドリック公爵に睨まれた我らがすがるものと言えば……」

「もはや王族しかない……今であれば、リルメア王女。

 ふん、笑わせる。

 我がスチュワート家の行く末を、年端もいかぬ少女にすがる他ないとは……」


 オレは頭を抱えてしまう。


「どうやって、弱小貴族が王女とコンタクトを取るというのだ。

 面会をする方法すら、思いつかんぞ」

「それを可能にする方法すら、この手紙には書かれてあるのです」


 グラファーに指し示された箇所を読んだ。


「王宮剣術大会に優勝した暁には、その者に姫護衛プリンセスガードとなる資格を与える……」


 さすがに呆気に取られてしまった。


「おい、この国の建国神話の役職が書いてあるんだが……

 父王を不敬なる大臣に殺害された姫は、若き騎士を姫護衛に命じ、その騎士の働きによって滅亡した祖国を見事復興して見せた……だったっけ?

 この国のものなら、みな軽くそらんじるはずのおとぎ話だ」

「いえ、空位ではありましたが、姫護衛はこの国に位階として存在します」

「位階としては存在するなら、なるほど、優勝さえすれば王女とのつながりはできるわけか。

 護衛が、その対象と話さないはずがない」

「はい……さらに言えば姫護衛という、なかば伝説となっている役職を持ち出して来た王女の心が気になりますね」

「そうか。

 姫護衛という言葉は今大臣に任ぜられているものにとっては面白くない。

 お前は不敬だと言われているようなものだからな。

 それにも関わらずその言葉を使ったということは……」


 グラファーは頷いた。


「リルメア王女は聡明だと噂されております。

 姫護衛という名の意味に気づいてないはずがありません。

 これは、奸臣滅ぶべしという王女からのメッセージなのです!」

「はは、それは飛躍過ぎな気がするけどな。

 ただ、王家とその周りの貴族たちがうまく行ってない可能性は高い」

「ええ」


 目の前が真っ暗だと思っていたが、少しだけ光明が見えてきた気がするな。


「分かった、剣術大会には私が出場しよう。

 ちなみに条件はどうなってる?

 武器や、火器、魔法の試合についてはどうだ?

 なんせ、王宮剣術大会は、父が若い時開かれたきりだったはずだ。

 決まりがどうなっているのか」

「剣術、槍術、弓術、魔術、すべて使用可能とあります。

 ただし、身に帯びることができないものは不可とありますね。

 例として、馬や大砲があがっております」

「規則として、真っ当だな。

 オレは剣術も魔術も使えるが、大砲使っていいなら、初手は大砲撃つからな」


 かなり、わくわくするルールだな。

 この国で誰が一番強いのか。

 剣術大会開催の知らせに、身が震えるほど高揚しているのを感じた。


 父が守った爵位を守りたい気持ちもある。

 けれど、オレはビビアンを見返したいんだ。

 おそらく、炎魔術師エイデン・ラッセルも王宮剣術大会に出場する。

 エイデンを完膚なきまでに叩きのめして……ビビアン、お前の目が曇っていたことを証明してやるからな。

 やると決まれば、話は早い。

 一分一秒無駄にせず、剣術大会優勝のために、剣術、魔術を磨き上げるとしよう。


「この国で一番の強さを手に入れるため、父上にもご活躍いただくほかないな」

「わかりました。

 今日の夜、地下室に作業員を集めておきます」


 ★☆


 その日の夜。

 集めた部下たちとともに、ランタンの灯りだけを頼りに地下室へ向かい、親父の死骸と向き合った。

 水分を抜き、腐敗防止には気を付けてあるから、死臭は最低限に抑えられている。


 親父、スチュワート家当主の最後の仕事を頼むぞ。

 オレが思い浮かぶ限り、一番強いのはアンタだったんだ。

 これから半月、オレを目いっぱい鍛えてくれよ。


 手を灰で洗ったオレと部下たちは、骸骨剣士を作り上げるのに心血を注ぎ、仕上がった時には夜が明けていた。

 ……オレが作った中で、史上最強の一体だ。


 今までのスチュワート家当主がそうしてきたように、父上も骸骨剣士スケルトンとして、スチュワート家の礎となり、当主であるオレを守り、そして鍛えてくれるだろう。

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