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28 領地と爵位

「失礼します、レオン様!」


 メイドが慌てて走ってきた。

 

「何だ、今はそれどころじゃ……」

「マクマナス子爵がお見えになりました!」

「何だと?」


 必死で走ってきたと見えるメイドは髪がぐちゃぐちゃになってしまっている。


「ありがとう、必死で走ってきてくれて」


 オレはメイドに声をかけると、マクマナス子爵を迎え入れる用意をするよう命じた。


 マクマナス子爵が何を考えているがわからないが、少なくともオレにとっていい話であるはずがない。


★☆


「すまないね、急に」

「いえ、子爵の来訪以上に勝るようなどございません」


 マクマナス子爵に会釈し、応接間を案内する。


 正直、うまく表情を取り繕えている自信はない。

 ただ、儀礼を欠いた者が貴族社会で受け入れられるものではない、たとえオレからすれば、殺したいほど憎い相手であってもだ。


「どうぞ、うちの領地で作られた熟成物のワインです」

「ははは、長居するつもりはないが……私が親代わりを務めているレオンの頼みだからね、軽くいただくとしようか」


 メイドがマクマナス子爵のグラスにたっぷりとワインを注ぐ。



「ほう……美味しいよ。

 ブドウがいいのか、熟成がいいのか。

 これほどのワインに会えると嬉しいものだね」


 上機嫌に笑う子爵の笑顔を信じられなくなったのは、オレのせいではないはずだ。


「ところで、王都からの手紙が届いていたと思う」

「……ええ、とんでもない内容が届いていました」


 オレは吐き捨てるように答えた。


「レオン。

 君からすれば、到底納得しえないことだとは思うが……私もこのことは聞いてなかったのだ。

 爵位の格下げ、親代わりとして不憫に思うよ」

「……みんな、みんなでたらめです。

 王女を危険にさらしたことも、領地の管理に不備があったことも、私に何のとががあるというのです!」


 マクマナス子爵はにこやかに頷いた。


「王女の件は、戦場でのこと、何が真実かはわからぬ。

 これは極秘の話だが、今、王女が行方不明となっているらしいのだ」

「何ですって?」

「王女は行方知れず、王子はまだ幼い少年だ。

 大臣であるセドリック侯爵が、いまはすべて取り仕切っているようだ。

 だから、すべての沙汰はセドリック侯爵の掌の上だ。

レオン。

 もしキミが不服なら、私がセドリック侯爵に口をきいてやってもいい。

 私は、それなりにセドリック侯爵とは面識があるからね」

「……お願いします」


 子爵の位は、父から譲り受けたものだ。

 平民上がりの父からすれば、一代で届く限りの最大級の栄誉であるはずだ。

 私の代で簡単に奪われていいはずがない。

 恥を忍んで、ここはマクマナス子爵を頼るべきだ。


「わかったよ、レオン。

 私が、セドリック侯爵に口を利いておこう。

 君の思いのたけを、侯爵に伝えるといい」


 マクマナス子爵はそう言い終えると、ぐっとワインを一口に飲み干し、席を立った。


「さて、もう帰るよ、遅くなるとビビアンが心配するのでね」

「……はい、お気をつけて」


 オレは、帰路に就く子爵を城門まで案内した。


「美味しいワインだったよ、レオン」

「……ありがとうございます」


 オレを裏切ったマクマナス子爵に頭を下げるなんてこと、したくはない。

 だけど、これが父の爵位を守る最後の手段なんだ。

 オレは、マクマナス子爵に首を垂れた。


「わかったよ。

 ああ、レオン言い忘れた」


 帰ろうと足を踏み出したマクマナス子爵が振り返った。


「私は抵抗したんだけどね……侯爵様がね。

 男爵に任すには、スチュワート領は広すぎるってさ。

 それで、君の領地を私が預かるようになったよ」

「何ですって?」

「……ああ、伝わりづらかったかな。

 じゃあ、率直に言うよ」


 マクマナス子爵はクスリと笑った。


「レオン。

 スチュワート家の男爵降格に伴い、キミの領地を没収する。

 キミの領地の管理は、エイデンに預けることにするよ」

「ふざけるな!」


 オレは声を張り上げた。

 子爵は動じずにじいっとオレを見据えた。


「私は君の親代わりを務めている、だから、王領として召し上げられるのを断固として止めて、私の領地として預からせてもらったんだよ。

 そうすれば、キミが成人として認められた暁には、キミに領地を返せるかもしれないからね」


 親を失ったオレは、成人として認められるのに保護者の同意が必要だ。

 子爵としてはオレを成人として認めずに引き延ばす方法もある。


「そうそう、レオン。

 君は魔法が得意だったね。

 もう少ししたら隣国に留学に行ってもらう、魔法修習生として。

 そうだね、5年くらい修行してくるといい。

 それまでに、私がもっと出世して、キミを迎えに行くからね」


 オレの領地は、すぐにはマクマナス家においそれと靡かないであろう。

 しかし、それも5年もたてば別だ。

 その間に、ビビアンはエイデンと結婚し、魔法を修めたオレはマクマナス家の魔法学者として、マクマナス家の繁栄に一役買う……


 シナリオはそんなところか、マクマナス。


「そうか、セドリック侯爵に領地召し上げを提案したのは、お前だな、マクマナス」

「はははは、面白い冗談だね、レオン。

 君はちょっと誤解しているようだ。

 君の領地の不手際を、何とかうやむやにすることに私も一役買っているのだよ」

「何ですか、一役って……」

「ははは、しらばっくれるのがうまいね。

 夜の眷属とでも言えば伝わるのかな?」


 夜の眷属だと、何を言ってるんだ……まさか。

 うちの領地の人狼の話がなぜ、子爵の耳に入るんだ。


「その表情、ふふふ君の秘密に思い当たったのかな?」

「……」

「じゃあ、失礼するよ。

 君の秘密を握りつぶした私に感謝の一つでも欲しいところだがね」


 マクマナス子爵はゆったりと帰路に就いた。


 ……情報が早すぎる。

 人狼とつながっていた魔導士とマクマナス子爵はつながっていると考えるしかない。

 そうすると……マクマナス子爵と近しいセドリック侯爵もオレの敵に回ったと考えるしかないのか。


 つい、オレの手が剣の柄にかかる。

 いや、やけを起こすな。

 でも、宰相たる侯爵が敵に回ったのであれば、もうどうすればいいか、俺にはわからない。


 今や全権を握る、侯爵に対抗できる手立てなど……


 回らない頭を抱えながら、ふらりと夜風にあたりに城を抜けでた。

 自然と、オレの足は森の中の小屋に向かっていた。

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