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27 懲罰

「だいぶ遠くまで来てしまったな」


 魔導士と人狼を片付けたオレたちは、貴族の居城を後にした。

 手紙にざっと目を通した結果、オレたちがとある侯爵家へ侵入したことが分かった。

 が、侯爵が高位の魔導士を使ってうちの領地に人狼を送った背景を探るには、だいぶ時間がかかるだろう。

 少なくとも、侯爵の屋敷に忍び込んでる間には無理だろう。


「ここからだと、レオン様の領地より私の家の方が近いですね」


 空間魔法が書かれた魔法陣を利用して移動してきたが、オレの領地からは遠く離れてしまった。

 王都からほど近いところにまで来てしまっている。


「そうか、近くまで送るよ」


 オレは地面から骸骨馬を召喚した。


「いえ、ここからならまっすぐですので、一人で帰ります」

「いや、夜だから危ないってば」

「いえ、大丈夫です。

 そろそろ帰らないと死んだことにされてしまいます」

「何だ、その冗談は」


 リルは左手にはまった指輪を見せてきた。


「すぐに戻りますから」

「ああ、わかった……いや、別にオレはリルに側にいて欲しいわけじゃない」


 何だよ、オレが寂しそうな顔をしたみたいに言いやがって。

 リルはくすくすと笑った。


「いてほしくなければ、指輪を使えばいいのですよ。

 そうすれば、もうレオン様の側には行けませんから」

「違うぞ、オレがいてほしいわけじゃない。

 リルの体を心配してるから言ってるんだ」


 今度はリルが寂しそうな顔をした。


「すぐ、戻ります」

「……ああ」


 リルは片手に箱を持ち、空中に魔法陣を描くと風魔法で体を加速させ帰っていった。


 オレは骸骨馬に乗って街道をひた走り、数時間かかってクレトの村に戻った。


 ★☆


 骸骨馬を土くれに戻し、クレトの村へ入った。


「申し訳ありません!」


 オレの顔を見つけた途端、エドワードは土下座した。

 その大声で村長が飛び跳ねるようにオレの側へ来て土下座をした。

 さらに、周りの村人もわらわらと集まって来て村長に習い、土下座をした。


「ただ事ではないな、何があった?」

「それは……」


 村長が体を震わせ話し出せずにいたが、エドワードが立ち上がり話をつづけた。


「申しわけありません、人狼の母親と兄弟を逃がしてしまいました!」

「何だと?」

「私の落ち度です、処罰は如何様にでも……レオン様、申し訳ありません」


 オレの領地で人狼を出したと、王都や他の領主に知れた場合、家督取り潰しとなるのが通例だ。

 それを恐れて、領主はその村ごと消す。


 この村には父が健在だったころから、オレはよく来ていた。

 オレが酒を村人にふるまったのだって、言ってみれば父の真似事だ。

 子どものころから知ってるこの村の獣人たちを皆殺しにする、それが領主の選択として最善手かもしれない……


 オレは剣を抜き、村長の首筋へ突き立てた。

 

「レ、レオン様。

 どうか、どうかお許しを……」

「「レオン様!」」


 獣人たちが反抗することがあってはいけないと、エドワードはオレの側に控えた。


「人狼の家を焼き払え。

 あの一家は存在しなかった、いいな!」

「「はい!」」


 樽一杯の油をかけて、人狼の家とその被害者の体を焼く。

 

「逃げた者たちはどうしましょうか」


 村長がおそるおそるオレに聞いて来た。


「追うな。

 今追っ手を放てばそれこそが好奇の的となる。

 レオン領で何かがあったんだ、とな」

「わかりました」


 村長は頷いた。


「顔をあげろ、エドワード」

「……レオン様」


 エドワードの鎧には血がついていた。


「戦ったのだな」

「はい」

「返り血を浴びていながら逃がしたということは、足でも傷つけ殺さずに捕まえようとしたな」

「すみません、お察しの通りで返す言葉もありません。

 足首と、手首に斬撃を入れましたが……」

「獣人を甘く見るな。

 獣人や魔族と渡り合うため、人は魔法や武器を磨き上げたんだ」


 ……このあたりの判断は、どれだけ異種族と渡り合ったかの経験がものを言う。

 エドワードを責めることはできないな。

 手負いの母親と子どもを、若い騎士が取り逃がすとは想像できなかったのだろう。


「さあ、帰るぞ。

 そろそろ、領主の道楽もおしまいにしないとグラファーに怒られる」

「どうか、処罰を……」


 エドワードは割と頑固だな。


「そうだな、では、人狼のことを他言しないことが処罰だ。

 この村から人狼が出たこと、これはオレの胸で収めるべきものだ。

 お前にも墓場まで持って行ってもらう。

 そうしなければ、レオン領か、この村、どちらかが滅びることとなる」

「わかりました、肝に銘じます」


 ★☆


 居城に戻ったオレに、筆頭執事のグラファーが真っ青な顔をして報告をしてきた。


「落ち着いて聞いてください、何かの間違いだとは思いますが……」

「前置きはいい、報告を頼む」

「こちらを」


 グラファーは手紙を渡してきた。


「大戦中に周りを顧みず、王女を危険にさらした罪、及び領地の管理に不備があったことの咎により、スチュワート家を男爵とする……

 な、何だと!

 でたらめだ!

 それに戦争中の論功行賞はみなを集めて行われるはず。

 さらに、爵位を格下げするだと?

 弁明の機会も付与せず、爵位を格下げするなどあってなるものか!」


 あまりのことに激昂したオレは、手紙を床にたたきつけた。

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