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26 暗殺~代償を払わせろ~

 部屋を出て血の匂いをたどり、廊下を進んでいく。


「ちょっと鎧がうるさいな」


 銀の鎧を着こんでいるリルは、歩く度にカチャカチャと金属音がしていた。


「あ、そうですか……これでも足運びには気を付けていたのですが」

「鎧の音は足運びでなんとかなるものじゃないからな。

 あ、そうだ。

 リルは風魔法使えるんじゃなかったっけ?」

「使えますけど……」


 リルはきょとんとしていた。

 ……風魔法を使えるだけで、詳しくないようだな。


「止まって」


 足を止めて、リルの鎧に手を当てて呪文を詠唱、≪風の泡(ウインドバブル)≫をかけてやる。


「これでよし、進むぞ」

「はい」


 少し進んだところで、リルが耳打ちしてきた。


「音が消えました」

「風魔法だ。

リルも使えるだろうから、今度、教えてやる」

「はい!」

「声が大きいってば」

「……あ、すいません」


 リルは今まで、夜に紛れて活動したことなんかないんだろう。

 死霊術師のオレとは違う。

 吸血鬼になど嚙まれていなければ、光差す道をリルはずっと歩いていたはずなんだ。

 いや、今はそんなことを考えてる余裕はない。

 ……血の匂いはこの扉について消えた。

 風の精霊の小瓶を開け、呪文を詠唱、扉から侵入させる。

 頃合いを見て、彼らが好む蜂蜜を小瓶に垂らす。

 すると、すぐに精霊は小瓶に舞い戻り、2回、つむじ風を発生させた。

 二人か。

 魔導士と、人狼だな。


「……ここで待ってろ」

「はい」


 持ってきた骨片を床に置き、音もなくスケルトンをくみ上げる。

 苦戦したときの後詰めも用意出来たな。

 よし、殺るか。

 腰に下げた剣を抜き放ち、息をひそめた。


 ゆっくりとドアノブを回すと、扉が開いた。

 オレが可愛がっている風の精霊は部屋に向かわせると人数を偵察し、鍵を開けてくれるのだ。


 キィ……

 

 なるべくゆっくりと扉をあけたが、古い扉がきしむのはどうしようもない。


 足音に気を付け、血の匂いを頼りに人影に近づくと容赦なく剣を振り下ろした。


「ぐぁああ」


 聞き覚えのある悲鳴、こっちの人影は人狼だな。


「な、何者だ!」


 悲鳴を聞き、もう一つの人影が起き上がった。

 …助かったよ、血の匂いがしないから正確に位置がわからなかったが、起き上がってくれたおかげで、どこにいたか分かったからな。

 質問に答えず、その人影の胸を貫く。


「か……は……」


 人影は血を流し、倒れ込んだ。

 まだ、人狼はうめいているがもう頃合いだな。

 カーテンを閉め、ランタンに火をつけた。


「リル、入ってこい」

「はい……う……」


 リルは飛び散った血の匂いに思わず手を鼻にあてた。


「夜の眷属と戦う場合、殺したと思っても確実に心臓を潰し、脳髄をかき回しておく」


 オレは二人の体の心臓を剣で潰し、脳髄をかきまぜた。

 すると、うめき声は聞こえなくなった。


「とりあえず、ひと安心だな。

 お偉い貴族の館だろうが、お抱えの魔法使いへの警備は少なくて助かったよ。

 貴族本人を狙うのであればこんなに簡単にいかないだろうからな」

「……貴族本人はどうするのですか?

 殺しますか?」

「リル、どうした?

 好戦的だな。

 オレの領地を侵した代償は、魔法使いに払わせた。

 人狼もつぶしたしな。

 雇い主である貴族の意向もあったとは思うが……雇い主の貴族本人を殺るには、簡単にはできないだろうな。

 少なくともオレは全力で、死霊魔術師の力を駆使しなくてはならない」


 リルは聡明だ。

 オレの言いたいことをくみ取ってくれたようだ。


「死霊術師が忍び込んだとなれば、まず疑われるのはレオン様。

 疑われるのは避けねばなりません。

 ……すみません、この館の持ち主には貸しがあるものですから」

「貸し……どんな貸しだ?」


 オレはリルに話しかけながら魔導士の机をあさり、手紙の類をざらざらと箱に詰めた。


「何をしているのですか、レオン様」

「……魔術師の手紙を持ち帰り、この事件の背景を洗おうと思ってな。

 隣国との戦闘の中で、随分汚い仕事をさせられたからな。

 奪えるものは、奪っておくと教えられた。

 軽蔑するならしていい。

 オレとて立派な行いだとは思っていないからな」


 オレは魔術師の言い訳も聞かず暗殺したうえ、盗みを働いている。

 吸血鬼や人狼のせん滅、闇夜での暗殺……死霊術師として、血なまぐさいことばかり得意になってしまった。

 ……血の匂いに気分が悪くなる。

 オレがその血を流させたというのに。

 ははは、こんな汚れた手じゃ、ビビアンをつなぎとめることはできないか。

 あいつは綺麗なものが好きだったから。


「死霊術師はどうしたって手から血の匂いがする。

 弟子入りをやめるなら今のうちだぞ、リル」

「下を向かないでください、レオン様」


 リルがオレの手を両手で握った。


「領民を守るため、心で涙を流しながらレオン様は手を汚されています。

 私は、この手に守られました。

 だから、レオン様。

 そんな顔しないで」


 リルはオレの手を首筋へ導いた。

 ドクン、ドクンと首筋の傷跡は大きく脈動していた。


「また、傷の動きが強くなってるな」

「レオン様。

 私はレオン様と出会わなければ、人狼と同じように殺されていたのでしょう。

 それだけでなく、見境なく人を襲い、殺していたかもしれません」


 吸血鬼になりかけていたリルが助かったのはある意味奇跡に近い。

 

「だから、私はレオン様に胸を張って笑っていて欲しいのです。

 時折、すごく寂しそうな顔をしていますから」

「……これ以上話している暇はない、早く帰らないとな」


 オレはリルの手を払い、帰り支度を始めた。


「あ、はい。

 手伝います。

 私、手紙を箱に詰めますね」


 リルに魔導士の机を任せ、オレは人狼と魔導士を丁寧にばらし、箱に詰めた。


「丁寧に解体するんですね」

「こんな上物が手に入ることないからな」

「ま、まさか……彼らを使うのですか?」

骸骨魔導師リッチ骸骨狼ボーンウルフなんて、久々だぞ。

 いい死体を手に入れられたな」

「私、レオン様に笑っていて欲しいと言いましたが、このタイミングで満面の笑みは……ちょっと外道ですよ?」

「仕方ないだろ、剣士だっていい剣が手に入ると嬉しいだろ?

 死霊術師のオレの場合、いい死体が手に入ると嬉しいんだ」


 いや、これ字面でみるとやっぱり外道な気がするな。

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