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24 裁かれる人狼

 皆の腹の中の青い光が消え、一筋の赤い光だけが満月の夜に煌々と光っていた。

 

 エドワードが気にかかるといってた、口を抑えた獣人の若い男。

 その獣人の腹の中が赤く光っている。

 


「人狼よ。

 口を塞いで胃から上がってくる血の匂いを抑えたとて、食い殺した女の魔素は隠しきれないようだな」


 オレは抜刀し、その獣人へ近づいていく。


「く、くそ……ぐ、ぐああああああ!」


 腹から立ち上る赤い光を見てもう隠しきれないと悟ったのか、獣人は夜空へ咆哮した。

 体内に抑えていた獣性を解放し、魔力を全身へ張り巡らせる。

 目を赤く光らせ、夜の眷属と呼ばれる「人狼」の本性を表そうとしていた。


「させるかよ」


 前もって準備していた魔法陣へ抜刀した剣を突き刺し、その人狼の足元から槍を突き出す。


「ぐは……」


 人狼の腹へ風穴を開けた槍を持って骸骨剣士スケルトンが起き上がる。


「ふ、ふざけんなあああ!」


 腹に槍を突き刺された状態でも人狼は動き回り、骸骨剣士スケルトンを引き寄せ、頭突きを食らわせた。

 頭突き一発で頭蓋骨半分が砕け散った。

 もちろん、骸骨剣士スケルトンだから、槍を持っている手を緩めたりはしないが。


「しつこい奴だな」


 一体だけでは抑えきれないと判断し、10体ほど骸骨剣士スケルトンを召喚、数にものを言わせて遠距離から矢で制圧する。


「ぐあああああああ!」


 放たれた数十の矢が人狼の体を突き刺した。


「くそ、殺す殺す、殺してやるからなあ!」


 全身から血を吹き出しながらも、突き刺さった槍を抜こうと人狼は暴れ続けていた。

 ……さすが、夜の眷属と呼ばれる者たちの中でも一番の武闘派と呼ばれるだけのことはあるな。

 他の領主たちは人狼を生んだ獣人の村を根こそぎ滅ぼしてきたが、それに値する力は持っているようだ。


 突き刺した魔法陣へ追加の文様を加え、骸骨剣士スケルトンに鞭を使わせる。


 パシーン、パシーン


 両手、両足を鞭で縛り上げ、人狼の自由を奪う。


「これぐらい、クソがあああ!」


 それでも、暴れようとする人狼の魔力抜きを行うため、両手、両足の腱を斬りつける。


「ぎ、ぎああああああああ!」


 ほとばしる鮮血に、たまらず人狼も叫び声をあげた。


「やめて、やめてください!」


 先ほどのオオカミ族の女が飛び出してきた。

 村長の言では、母親ということだが。


「く、来るなあ!」


 人狼はその女が現れたことに狼狽し、叫び声をあげた。

 オレが指図するまでもなく、エドワードがその女を剣で制した。


「動くな」

「……ひぃ……」


 その場に女はへたり込む。


「この人狼の母親か」

「……う……」


 我が子が血を噴き上げているのを見て、思わず叫び、駆け出してしまったのであろう。

 だが、この場で母親だと告げるのに逡巡しているのだろう。

 母だと宣言することは、死を意味するから。


「無言か。

 では、オレの質問に答えてもらおう」


 オレは人狼の首筋に剣を突きつけながら、その女に質問をした。


「人狼になる方法を知っているか」

「……」

「知らないわけがない。

 もし、この村の獣人の大人で、人狼のなり方を知らないというものが一人でもいた時には、オレがこの村を地図から消す」


 これはただの脅しではなく、そうせねばならない。

 獣人が人狼となった場合、連座してそのもの出身地を潰す。

 それが領主の一般的な対応だ。

 今回の人狼騒ぎが、万が一オレの領地の外にでも漏れたりしたら、オレとてその決断をせねばなるまい。

 だからこそ、オレは自分の領地の獣人居住区には口を酸っぱくして人狼にならないよう伝えてきた。

 

「獣人は、人間より体内に魔素を多く貯めることができる。

 それこそ、人間の致死量を超えるほどであってもだ。

 だが、その魔素こそが生物を強くすることができるエネルギーとなる。

 だからこそ、オレたち領主は魔石喰いを禁忌とし、お前たち獣人が過剰に魔素を蓄え過ぎないよう、目を光らせているのだ」


 女は、床に額をこすりつけ、人狼の命乞いをした。


「お許しを……どうか、その子の命だけは……」

「魔素を過剰に蓄え続けた獣人の、人狼になる最後のきっかけが――人間や獣人の心臓を食べることだ。

 そして、はじめに人狼が食うのは自分の種族以外だ。

 そして、血の味を覚えた人狼は我慢できずに見境なく食い荒らす。

 たとえ、それが自分の生まれた村の仲間であろうとも」

「ああ……ああ……」


 女は土下座の態勢のまま、おのれの息子の所業に涙を流した。


「村の外に、この村の女であろう死体があった」


 村の皆は騒然とした。

 まさか、人狼であろうとも、村の仲間を食うとは思っていなかったのであろう。


「人狼に満腹などないぞ。

 仲間を食った人狼は、それこそ歯止めがかからなくなる」

「わ、私、ついさっき、そいつに村の外で話そうって誘われた」


 若い女の獣人が震えた体で人狼を指さした。


「そうか。

 オレが振る舞い酒をすると、村の皆を集めたから助かったのか」


 若い女の獣人が頷いた。


「もう、この人狼に良心など残っていないぞ。

 血走った赤い目で、口先三寸で人を騙し、斬殺して新鮮な臓腑をむさぼり食すのだ……それでも、お前は息子を守るか」

「……」


 その女は土下座をしたまま、何の声も発さなくなった。


「エドワード、今からこの人狼に尋問をかける」

「すぐに殺さないのですか?」


 エドワードはその女に剣を向けたまま、オレの話に耳を傾けた。


「……魔石は高級品だ。

 金を持ってる上級貴族の坊っちゃんならいざ知らず、換金せずに食おうとするのは変だ。

 それこそ、高ランクの冒険者の獣人や、獣人の王族なんかが加減を間違えてなることが大半なんだ」

「……人狼になるよう仕向けたものがいる、ということですか」

「……おそらく。

 今から、人狼に尋問をかける間、この女を頼むぞ。

 変な動きがあれば、斬れ」

「は、はい……」


 エドワードはごくりと唾を飲み込んだ。


「なあ、人狼」

「……うううううあああああ!」


 くっ、大量に血を抜いたのにすぐに体力が回復しやがる。


「誰に魔石をもらった?」

「あ?

 知らねえ、知らねえよ」


 人狼はオレを睨みつけてそう言った。

 まだ、精神的に余裕があるみたいだな。


「母親の首が飛ぶのが見たいか」

「……そんな奴、オレの母親じゃねえ」

「は、知恵が回るな。

 そんな言い逃れ通用するとでも思ってるのか。

 私が領民を殺すことが出来ないとでも言うのか、オレが母親の首を飛ばすのを指をくわえてみてろ」


 オレは、その女に近づき、剣を振りあげた。


「やめろ、やめろ、言う!

 言うからッ!」


 オレの本気が伝わり、人狼は慌てて話し出した。

 わずかに残った母子の情か。

 それとも、この場を切り抜ける算段の中に、母親の利用価値があるのだろうか。


「手短に話せ」

「……わかったよ。

 王都に行ったとき、盗賊団とつながりがあってな。

 その際、黒いローブを着た魔導士に知り合った。

 たぶん、その時の魔導士だと思うんだが、紙で出来た鳥を飛ばしてきて……その鳥に魔石がくっついてあった。食うと強くなれるって……」

「黒いローブ、紙の鳥か」


 黒のローブは一般的な魔導士の装いだから、正直あまり手掛かりにはならないが、式神か。

 かなり高位の魔導士しか使えないと思うが……


「……手がかりにはなったか」

「じゃあ、助けてくれるのか?

 もうしない、もう殺さない……助けてくれよ、レオン様……」

「……グリン……」


 その女が人狼の名前であろう名を口にした。


「母さん、オレ……怖いよ。

 助けて……助けてよ、母さん……」

「ああ、グリン……グリン……」

「なあ、村長、助けてくれよ。

 もうしない、もうしないから……」


 人狼は嗚咽を漏らした。

 それはもう悲壮な声を上げて、思わず助けてあげてしまいたくなるほど――声、抑揚、表情……すべてが命乞いとして完璧だった。

 その完璧さが、オレにはうすら寒く感じる。

 人の情を理解し、それを自分の欲のために使いつぶすが、つゆほどの良心も人狼には存在しないのだ。

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