23 人狼を暴き出せ
酒樽が準備できたオレたちは、焚火の元へ。
重いので、酒樽運びは骸骨剣士にお任せだ。
「便利ですね」
「死霊術師の基本は骸骨剣士だ、さっき書いた魔法陣を覚えておくように」
「はい!」
リルは返事がよいので、教えるオレとしても気持ちがいい。
焚火の近くには、すでに村の獣人たちが集まっていた。思い思いのものを食べ、語らい、楽器を弾きならす……
これは、オレが守りたかった領民の姿だ。
だから、領主たるオレは非常な決断をしなければならない。
「リル、これからオレがすることは、死霊術師というよりは、領主の仕事だ」
「領主の仕事、ですか」
「ああ。
領民を裁く仕事だ。
場合によっては、血も流れる。
だから、少しオレから離れて祭りを楽しんでくるといい」
「……私は、そう言った仕事から、ほど遠いところにいました。
ですが、レオン様が許してくれるのであれば、ご同行させていただきたいのです」
リルは真剣な目をしている。
「私は、そういったことから遠ざけられています。
ですが、何も知らないのは嫌ですから」
「……じゃあ、ついて来るといい。
死霊術師としてはためになるはずだ。
ただし、自分の身は自分で守れ。
いいな」
「はい!」
リルは覚悟を決めたようだ。
「エドワード」
「は!」
オレを見つけて近くに控えていたエドワードが、返事をした。
「オレは守らなくていい。
だから、誰か傷つけられそうになったら、守ってやれ」
「誰かですか、リル様ではなく?」
「リル、お前は自分で身を守れるな、でなければ倉庫で待ってろ」
「自分の身は守れます。
私、ある程度は魔法も使えますから」
「……わかりました」
「誰かというのは、村人すべてだ。
オレのそばにいて、戦闘が発生したらオレとリル以外を守れ。
オレも骸骨剣士を使って守るつもりだが、どうしても召喚する手間分遅れるからな。
臨機応変な対応はお前が頼りだ」
「はッ!
わかりました!」
エドワードは任務を任されて、高揚しているようだ。
信頼しているのが伝わってくれたようだな。
「……じゃあ、行くぞ」
オレはリルとエドワードを連れて、村長の元へ。
村長と目が合ったので、目くばせをした。
村長とは打合せ済みだ。
今から、始めるぞ。
「皆の者。
楽しく歌い踊り、語らっているであろうが、しばし耳を貸してくれ」
村長の語りかけで、村人は静かになってゆく。
「ありがとう。
みなが歌い踊り、語っていけるのも、すべてレオン様のおかげだ」
村長の語りに皆が拍手で答えた。
「本日は、レオン様から酒樽の支給があった」
「「おおおおおおおお!」」
村の獣人は、酒が飲めるとはしゃいでいる。
オレは村長の隣に行き、
「クレト村からは、いつも年代物を頂いている。
とっても美味しいからな、10歳のころから飲んでいた」
酔ってるのもあって村人は笑ってくれた。
オレは、冗談は苦手だが、領主としてこういうスピーチでは多少の冗談くらいは言う。
「とっても、おいしいからな。
ふふふ、10年ものだ。
来年、うちでいただくことになっていたものをみなにふるまおうと思う」
「「おおおおおおお!」」
「皆に行きわたるよう、十分な量がある。
おかわりは早い者勝ちだが、乾杯くらいはみんなでしようじゃないか」
オレと村長、エドワードは皆のグラスに酒を注いで回った。
みな、酒を注がれると楽しそうにしていた。
リルには、子どもたちに果実水を注いでもらった。
「ふふふ、皆うれしそうですね」
「まあ、美味しいからな。
クレト村の酒は熟成すると、癖が取れてまろやかに飲みやすくなるんだ」
エドワード、村長も注ぎ終わったようだ。
「全員に行きわたったか?」
「村長、エドワード気になる者はいたか?」
村長と、エドワードは互いの顔を確認していた。
……自分の発言で、他人の命すら奪いかねないことを二人はよく理解している様子だった。
「……お前たちに、注がせた意味わかってるよな?
日ごろから皆と暮らしている村長と、平民あがりのエドワードだからこそ、任せたことだ」
二人は、体を震わせていた。
「……この村の獣人たちを一人残らず、殺されたいのか」
村の者に聞かせるわけにはいけないセリフをあえて使った。
「……いつも陽気なオオカミ族の、女が私の眼を見ようとしませんでした」
村長が、ゆっくりとオレに話してくれた。
「エドワード、お前は?」
「……私の思い違いかもしれませんが、しきりに口元を気にしている獣人の若い男がいました」
「わかった。
村長、その女に子供はいるか」
「はい、二人ほどいたかと思います」
「エドワード、村長とオレにその獣人の男がどこにいるか教えてくれ」
「はい!」
エドワードが教えてくれた男を村長と二人で確認する。
「……ああ、なんてことだ……」
村長はその男を見て、がっくりと膝を落とした。
「先ほど気になったという女の息子だな」
「はい……」
「わかった」
オレは村の皆の前へ行く。
「皆の者、大変待たせたな。
今から、乾杯と行こうじゃないか」
「「うおおおおおおお!」」
村の者はようやく飲めるんだと、歓喜に満ち、歌い踊りだした。
「クレト村の未来に……乾杯!」
「「カンパーイ!」」
村人たちは、待ってましたとばかりに、酒をぐっと一気に飲み干した。
「……ははは、いい飲みっぷりだぞ。
お前たち。
私も一杯頂くとしよう」
オレは手に持ったグラスを一気にあおると、皆へ向けて話し始めた。
「今日は、気分がいい。
今から、土の精の踊りをお見せしよう」
オレは、手に持っていた小瓶を開け、土の精を皆に見せる。
「リル、土の精に『月夜の二人』歌ってやれ」
「え、ええ?……わ、わかりました」
リルが小瓶の近くに行き、小瓶からあふれる土の精へ向けて歌を歌う。
土の精は嬉しそうに明滅し、あちらこちら動き回り、村人の眼を楽しませた。
「エドワード、オレの側を離れず、ついてこい」
「はっ!」
オレは皆の眼が土の精へ向いている間に、準備を始める。
「あの男だな」
「はい」
エドワードに先ほどの口元を気にしていた獣人を確認させる。
銀色の体毛に覆われたまだ青年と言った目元の獣人だ。
位置を確認したところで、村長の近くへ戻った。
「皆の者、酒は楽しんだか?」
「おおおおおおおお!」
皆は拍手と喝采で答えてくれた。
「ははは、そうか」
オレは、皆が拍手をくれたその間に大きな魔法陣を書いた。
「では、私がこの祭りを締めさせてもらうぞ。
火を消せ!」
村長と打ち合わせをした通りに、村中の火を消させた。
「水の精霊よ」
オレがそう言うと、皆の体の中に入った水の精霊が光りだした。
「こ、これは……」
皆、体の中から入る青い光に戸惑っていた。
「皆に祝福を。
そして……闇に潜む人狼を暴き出せ!」
オレがそう叫ぶと、一瞬で青い光は消えた。
代わりに、一筋の赤い光が見えた。
エドワードが酒を注ぐ際、口元を抑えていたと言っていた若い獣人。
オレはその獣人を睨みつけた。
「……先ほど、この村の女の死体が発見された。
殺したのは、人狼、お前だな」
読んでくれてありがとうございます!
ここまで、少しでも面白いと思っていただけた方はブックマーク、そして下の☆☆☆☆☆をポチっと評価頂けますと、モチベーションがわいてきます。
お手数お掛けしますが、ご協力頂けると幸いです。
次回更新、
10月17日予定です。




