22 死霊術師の仕事
少し経って、リルと村長が戻ってきた。
村長の案内で席に案内されると、机には豪華な料理が並んでいた。
村の広場の中央には焚火が組まれ、思い思いの楽器を手に即興で音楽を鳴らしていた。
若者はそれに合わせてステップを踏み、踊り始めた。
貴族の嗜みとしてのダンスではなく、踊りたいから踊っているというたぐいのものだ。
しかし、楽しみたいという気持ちのこもった村人たちの踊りは、見ていて小気味よいものだった。
夜店も出ていて、子どもたちは揚げ砂糖や冷やし飴を分け合いながら楽しんでいた。
食事をありがたく頂き終わると、ミグイを助けてくれたお礼だとのことで、村から花冠を受け取った。
「とても綺麗ですね」
リルは村人が自分のために作ってくれた花冠にご機嫌の様子だ。
オレも同じものを被っていて、さらに花の首飾りまでしている。
「お祭りにはちょうどいいな」
「はい……ふふふ、カラフルな黒騎士様ですね」
「何がそんなに面白いんだよ」
「だって……」
リルはオレの方を見てにやけている。
何が楽しいんだか。
「お気に召されたようでなによりです」
リルが喜んでいるのを見て、村長もほっとしてるようだ。
「そうだな、特にリルが気に入っているようだ」
「ふふ、とても気に入っています。
色とりどりの花がとてもきれいで……お花の冠なんてもらってことありませんもの」
「そうか、珍しいな。
オレだって子どものころ、母上に作ってやったものだ」
「まあ、それはお喜びになったでしょうね」
「ただ、オレは男の子だったから、かぶるのは今日が初めてだな」
「何だかレオン様が恥ずかしがっているのがおかしくて」
恥ずかしがっているオレを見て笑っていたのか。
「……祭りは初めてなんだろ?
揚げ砂糖でも、食べに行くか」
「はい!」
「は!」
リルとエドワードが返事をした。
エドワードはオレの後からついてきていたが、
「リル様、レオン様の警備任せますね。
自分急に踊りたくなりました」
突如踊りたくなったのか、急に走り出した。
「人間急に踊りたくなるものか?」
「……ありがとうございます、エドワードさん」
リルはなぜかエドワードにお礼を言っていた。
夜店からは、揚げたての甘い香りが漂っていた。
「レオン様、ほら、揚げたてですよ!」
急に走り出したリルが揚げ砂糖屋の前で手招きしている。
「そうだな、ホント匂いが強烈だな……結構な量食べたのに、まだ欲しくなるというか」
「甘いものは、匂いをかぐとダメですね。
特にこれは、揚げたてですからね」
「じゃあ、もらおうか」
オレが店主と話すと、ミグイを助けてもらったからお代はいいとか言い出して困った。
「おーい、今から揚げ砂糖ただらしいぞ」
オレは大きな声で子どもたちに向けて叫んだ。
「「え、何何?」」
「揚げ砂糖が今日はタダだってさ!」
「「やったー!!」」
獣人のこどもたちがわらわらとやってきた。
「ちょっとレオン様!」
店主が困惑しているので、銀貨を数枚手渡した。
「子どもたちの分もタダでいいって言うんなら構わないけど……もらっとけよ」
「あ……ありがとうございます!」
店主はぺこぺことオレに頭を下げていた。
「いいんですか、大盤振る舞いしちゃって」
リルは既に揚げ砂糖を手にしており、口の周りに茶色い粉がついている。
「いいんだよ、祭りなんだからさ。
それより、口の周りが茶色いぞ」
「……揚げ砂糖を口を汚さずに食べられる人なんていませんよ」
「じゃあ、口の周りを冷やし飴で流すか?」
「賛成です」
オレとリルがお祭り気分を楽しんでいた時、村長が血相を変えて走ってきた。
「……レオン様」
「何があった?」
「こちらへ」
村長に促されて、今は使われていない小屋へ。
村長の態度にただならぬものを感じたため、リルには外してもらった。
「……警備のものが、村の外で遺体を発見したもので」
「この村の者の遺体か」
「はい」
「それは確かか」
「……髪飾りが手作りのものでしたから」
なぜ髪飾りで判断する?
そうか、遺体の損傷が激しいのか。
「誰も名乗り出ていないんだな」
「……はい」
オレは空を見上げる。
「今日は満月か」
「……はい」
「領主たる私に知らせてくれたこと、感謝する。
ただ、人狼本人と、協力者についてはすべて極刑とする。
もちろん、わかっているだろうが……」
村長はひざまずいて首を垂れた。
「すべて領主レオン様の沙汰に従います。
ですから、どうかどうか、この村のことは……」
村長は体を震わせていた。
「わかった。
少し準備が必要だ。
そうだな、酒樽を一つ借りようか。
できれば村の者の犯行でなければいいが」
★☆
オレが振る舞い酒をするから10分後に全員焚火の近くに集まるよう村長に伝えた。
「な、何があったんですか?」
リルも村長の様子にただならぬものを感じたようで、そわそわしている。
リルを呼び寄せ、耳打ちした。
「領主としての仕事……というか、死霊術師の仕事だな」
「っ!」
「リル行くぞ。
エドワードもついてこい」
「「は、はい!」」
リルを連れて先ほどの小屋へ。
エドワードには小屋の入口へ立ってもらう。
一応、秘匿魔法だからな。
小屋に入ると、必要な道具を机の上に並べた。
「水の精霊の力を借りる」
「はい!」
リルの目は生き生きと輝いていた。
「まずは、酒樽を割る……頼めるか?」
「は、はい!」
リルは用意してあった大槌で酒樽を割った。
発酵した酒の匂い。
飲みやすさより強さを重視したような酒だな。
まあ、獣人は人間より酒に強いらしいからな。
「割と強烈だな」
「そ、そうですね」
「急ごうか。
早めにやらないと酔っぱらいそうだ」
「確かに……」
「じゃあ、行くぞ」
魔石を酒に溶かした液体を使って、酒樽を取り囲み魔法陣を書く。
リルはオレが書いた魔法陣を懸命に書き写していた。
「水の精霊の小瓶を開けて……呪文を唱える」
リルが羽ペンを取り出していた。
「メモなんて取るなよ」
「どうしてですか?」
「呪文の詠唱は、音程やリズムが大事なんだ。
言葉を書き写すくらいなら、音をしっかり聞いてくれ」
「は、はい」
オレはゆっくりと呪文の詠唱を始めた。
水の精霊の入った小瓶から青い霧が出てきて、オレの呪文に合わせて蠢きだした。
「よし、話を聞いてくれたな」
「え?
もういいんですか?」
「そうだな、呪文を聞いて小瓶から出てくれたからオレの話は伝わった。
少し遊んだら、酒樽の中に入ってくれるさ」
小瓶から、水の精霊の放つ魔力がとめどなく漂ってくる。
「んー、祭りだから楽器の音が聞こえて楽しいんだろうな。
よし、リル。
水の精霊に歌を歌ってやれ」
「え?
レオン様がさきほど唱えていた呪文ですか?」
「いや、何でもいい。
流行りの歌でも、伝統的な歌でも、子守歌でもなんでもいい。
ただ、リルが楽しんで歌うこと」
「わ、わかりました。
では、最近王都で流行っている歌でも歌いましょうか」
リルは、深呼吸をすると歌を歌い始めた。
水の精霊が喜んでいるようで、青い霧はリズムに合わせて収縮を繰り返していた。
やがて、曲が終わると水の精霊は満足したのか、青い霧が酒樽の中へなだれ込んだ。
「よくやったな。
オレの知らない曲だったが、いい歌だな」
「『月夜の二人』という歌です。
今度一緒に歌いましょうね」
「……オレ、歌は苦手なんだけどな」
「そうですか……」
残念そうにするなよ。
「また、今度な」
「は、はい!」
リルは嬉しそうに返事をした。
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次回更新、
10月12日予定です。




