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21 村中を走る噂話

「起きてください、レオン様

 到着しましたよ」


 ん……その声はエドワードか。


「ほら、リル様も」


 どうやら、クレト村へ向かう馬車の中で眠ってしまったようだ。

 右を向けば、リルがオレの腕の中で寝ていた。

馬車の揺れで飛ばされまいと、しっかりと抱き寄せていたまま眠ってしまったようだ。


「ははは、誰かが見たら誤解されそうだな」


 エドワードは手を頭に当てていた。


「いえ、もう遅いかと……」


 起き上がって馬車を見渡すと、村の大人は遠巻きに、子どもは馬車のふちにべったりとしがみつきながら、オレとリルが乗った馬車を見ていたようだ。

 もっとも、大人はオレと目が合うと一瞬で目をそらしたが。


 はあ……誤解されてしまっているな。

 クレト村の獣人たちの目が、好奇に満ちているのが見て取れた。

 弁解するにも、同じ毛布で身を寄せ合っていたとなると、信じてくれないだろうけど。


「リル、起きろ」

「ふぁ……あ、はい」


 寝ぼけまなこのリルを手を引いて起こす。


「レオン様……私、寝てしまったようですね」


 馬車の中で起き上がったリルに皆の注目が集まる。

 皆の視線に気づくと、リルは姿勢を正し、丁寧に頭を下げた。

 

「村長はいるか」

「ええ、ここにおります」


 奥から杖をついた獣人が現れた。

 さすがに村長は領主の寝込みを覗くのは遠慮が働いたようだな。


「領主レオン・スチュワートは、ミグイから招待を受けた。

 ぜひとも、歓待にあずかりたいと思ってな」

「ありがとうございます!

 おい、みなレオン様用の酒と料理をいますぐ準備しろ!

 全員で走れ!」

「おおおおお!」」

 

 みなは元気よく散り散りに走っていった。

 

「ふう、これでちょっと仕切り直しだな」


 今の空気のまま、接待されるのはちょっと気まずかったからな。


「レオン様、ミグイを救ってくださってありがとうございました」


 村長はしっかりと頭を下げた。


「顔を上げてくれ。

 領民の安全のことだ、当然のことをしたまでだ」

「近隣にも同族が居住しておりまして連絡をとるのですが、スチュアート領だけでございます。領主様自ら、いの一番にモンスター退治に来てくれるのは」

「たまたま近くにいたからな。

 それに、一番初めにミグイを助けようとしてくれたのは、ここにいるリルだ」


 リルは村長に会釈をした。


「リル様、ありがとうございます!

 なんとお礼を申したらよいか……」

「私も、たまたまです。

 私だけでは、吸血鬼に歯が立たなかったでしょうし……レオン様の武勇には私も感服いたしました」

「たまたま……ですか」


 村長が一瞬いぶかしむような表情をした。


「それはそうと、村長。

 領主の寝姿を覗き見るのはあまりいい趣味とは言えないと思うが」

「ああ、すいません。

 きっとみな、レオン様とリル様に興味津々だったのです」


 村長は、頭をかきながら弁明をした。


「領主たるオレはわからんでもないが、何でリルのことが……」

「吸血鬼に襲われたミグイが、レオン様とリル様に助けられたことを、村中に言ふらしておりまして」

「あいつ……」


 わからないでもないが。

 吸血鬼に襲われてなおかつ生き残った奴ってのはほとんど聞いたことがないからな。


「その話を聞いた大人たちが、どうして二人はそんな夜の森にいたのか。

 たまたま出会うはずがない。

 きっと、二人は夜の森で待ち合わせていたのだと」


 本当にたまたま会ったんだけどな。


「道ならぬ恋に落ちた二人。

 二人は屋敷を抜け出して、片時の逢瀬を……」

「おいおい、ちょっと待て。

 オレとリルはそんな関係じゃない」


 オレは笑いながら否定した。


「私もそう思っておりました。

 今日、ここにレオン様とリル様が現れるまでは」


 村長は覚悟を決めた目で、オレにひざまづいた。


「ミグイを助けてくれたレオン様に忠誠をつくします。

 ……この先何があろうとも」


 ん? 反応がおかしいな……ああ、オレがビビアンに婚約破棄されたことを、知らないのか。

 うちの領民だから、お触れを出さなきゃ知りようがないもんな。


「ビビアンのことは……」

「わかっております。

 ビビアン様のお耳に入れることは、この私の命にかけてもありません。

 私しか、顔をご存じないので大丈夫かと思いますが……

 ……レオン様を選んでいただ、ありがとうございます。

 都から遠路はるばるありがとうございます、リル……」

「わ、わああああああああ!」


 リルが急に大声を出して立ち上がった。


「リル、どうしたんだよ」

「……いえ、目の前に虫がいまして……」

「そうか、急に虫が来ると驚くのはわかるけど……そんなに大声出すなよ」

「す、すいません……」

「まあ、いいや。

 でも、リルは都に住んでたんだな。

 ん? 前は町に住んでるって言ってなかったか?」

「え?

 あ……ええ、都でした。

 間違えました。

 私、そそっかしいですね」


 リルの目が泳いでいる。

 村長はオレの顔をじっと見続けていた。


「あのさ、オレの顔なんかついてるか?

 ぱぱっと着替えてきたからな……」

「レオン様、まさか気づいてらっしゃらないのですか?」

「何をだよ?」

「リル様の……」

「あ、私、ミグイさんに大切なようがあったんでした。

いますぐ行かなくては……」


 リルは村長の話を遮って、村長の前に立った。


「ご案内していただけますか?」


 丁寧だが、有無を言わさないリルの勢いにつられ、村長はただうなずいた。


「……こちらです」


 そそくさと二人が歩いて行ったので、オレは一人きりになってしまった。


「おい、宴会に来たのに領主がひとりぼっちになってるぞ……」


 あたりにはどうやら誰もいないらしい。

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