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13 弟子入り希望

 仮面をつけた紳士淑女が会場を埋め尽くしていた。

 中央で一人踊る赤毛の少女がいた。

 目元を隠した白いマスクをかぶった少女は会場の注目を一身に浴びて一人踊り続けていた。


「お相手よろしいでしょうか」


 一人の紳士がひざまづいて少女とのダンスを請うていた。


「ええ、一人遊びも飽きた頃ですから」


 妖艶な唇から鼻にかかった甘ったるい声で少女は紳士に返事をする。

 少女のスッと伸ばした手をひざまづいたまま紳士は握って嬉しそうに微笑んで立ち上がる。


「キミと踊るのは何度目かな?」

「3回目でしたっけ」

「ふふ、5回目だよ」


 二人は他のものなどまるでいないかのように二人で踊りだした。

 やめろ、やめてくれ。

 仮面をつけていたってオレはお前が誰かわかるんだ。

 

「ビビアン!」


 オレは叫びながら仮面の少女に駆け寄って抱きとめようとしたが、オレの手はフッと空を切った。


「あら、風かしらね」


 パキンと仮面が割れ、オレの幼馴染で婚約者ビビアンが素顔を衆目にさらした。


「オレたちを祝福してくれる風だろう?」


 紳士は仮面をはぎ取り、ビビアンの薬指から指輪を外した。


「何をするの?」

「もっと大きなものをアンタにあげるよ」


 エイデンは懐からオレが上げたものより大きな宝石のついた指輪を取り出してビビアンにはめた。


「なにこれ!

 レオンのよりおっきい!」


 大きな宝石のついたビビアンは子どものような笑顔を見せた。


「知り合い中に頭を下げて、金を借りた。

 いわばその宝石の大きさはオレのコネクションだな」


 ククっとエイデンは笑っていた。


「ビビアン、オレとお前の結婚式ではレオンの出発で打ち上げた花火より数倍おっきくてキレイなものを見せてやるぞ」


 エイデンは右手の指から5色の炎を発して見せた。


「エイデンの炎は綺麗だよね」

「レオンがくれるモノより大きくてキレイなものをオレがお前に見せてやるよ」

「……エイデン」


 エイデンは右手の炎を消すとビビアンの頬に手を当てた。


「わ、私。私……」

「迷うなら、この手を払えよ」


 泣きじゃくるビビアンはその手を払わず、エイデンはビビアンに顔を近づけていく……


「や、やめろおおおおおおおおおお!」


 ビビアンに向かって伸ばした手は、ビビアンの身体を通り抜けオレはそのまま体を地面に打ち付けていた……


 ★☆


――目を覚ましたオレは宙に向かって手を伸ばしていた。


 ……夢か。

 それにしても気分は最悪だ。

 葡萄酒を飲み干したせいもあるだろうが、一番の原因はこの少女に血液を渡してしまったせいだろうか。


「……大丈夫ですか」


 オレの枕元に少女が立っていた。


「……また、あなたに命を救われたのですね」


 少女がオレに水筒を渡した。

 叫んだこともあり、喉が渇いていた。

 礼も言わず受け取り水筒の中の水を飲んだ。


「ずっとうなされていました」


 少女がオレを心配そうにのぞき込む。

 いつの間にやらオレはベッドで寝ており、傍らに少女が座っていた。


「大丈夫ですか、顔色が悪いようですが……」

「ああ、寝てればよくなるだろ」


 この少女は、昨夜吸血鬼となったとは思えないほどに健康そうな顔色をしていた。


「アンタは元気そうだな」

「おかげさまで。

 また朝日を浴びることが出来て嬉しいです」


 少女は小屋の窓際に立ち、カーテンを開け放った。

 陽光がさんさんと少女に降り注ぐが、少女は灰にはならなかった。

 窓から入り込む風が少女の銀色の髪に吹き付けていた。

 銀の甲冑を脱ぎ、白シャツと黒のスカート姿の少女は何が嬉しいのか笑顔でオレを見つめていた。

 オレは朝日がまぶしくて目をひそめた。


「昨日、気を失うまでのことを私は覚えています。

 牙が伸びてあなたを襲ったことも、血抜きをされて異常に喉が渇き、血を求め続けていたことも」


 少女はオレの側に座ると、顔を近づけて話し続けた。

 ニコニコと笑う少女の顔にどうしてか、ビビアンの笑顔を思い出してしまい頭痛が増した。


「吸血鬼と化した私をどのような方法で人間に戻すことが出来たのですか?」


 身を乗り出したオレに顔を近づけてくる。

 蒼い大きな目を持ち、とても整った顔をした少女が吐息のかかる距離にいるのだ。

 オレも男だから普段であれば好ましいことだろうが、少女が放つ香りすら今のオレには腹立たしかった。


「オレは死霊魔術師でな。

 お前にも見せたと思うが、光の精霊を死霊として使役した。

 オレはお前が生き残るなんて思わなかった。

 まだ、身体が吸血鬼になりきっていなかったんだろうな」

「そうですか、光の精霊ですか……今、光の魔術の血統は途絶えたと聞きます」

「人間ではな。

 血統魔術持ちの貴族同士がお家騒動を起こして死に絶えたと聞いた」


 少女はコクリと頷いた。


「とすると……吸血鬼から人間に戻せる可能性を持つ人間は黒騎士様、あなた一人ということでしょうか」


 少女は目を輝かせてさらにオレに近づいてきた。


「……さあな。

 エルフや魔族の類ならいてもおかしくないだろ」

 元気なら帰ってくれ。

 オレは疲れてるんだ」


 少女が渡してくれた水筒を飲み干し、オレはベッドに体を横たえた。


「黒騎士様、私を弟子にしていただけないでしょうか」

「あのさ、オレ疲れてるって言ってるよな?

 一人にして欲しいんだよ」


 さっきから少女は興奮していてオレの話をちっとも聞いていないようだ。


「どうしても、私は吸血鬼になるわけには行かないのです。

 そのためにある吸血鬼を追っています」

「……吸血鬼に噛まれた人間が呪縛から解かれるには、その元凶を殺すしかないんだったな」

「はい」


 少女はコクリと頷いた。

 オレだって吸血鬼くらいの有名な魔族であればそれにまつわる伝承くらい知っているが、そもそも噛まれて吸血鬼化を逃れることが稀なのだ。

 噛まれたものは吸血鬼になってしまうか、吸血鬼の血に体が拒否反応を示し異形と化して死んでしまうらしい。


「黒騎士様、どうかお願いします。

 私を吸血鬼から人間に戻してくれたあなたにしか頼めないことなのです」

「その黒騎士ってのはやめてくれないか、オレは黒騎士って呼ばれるほどの人間ではないらしいから」


 マクマナス子爵にとって父には遠く及ないオレは、炎の魔術師エイデンよりも取るに足らない人物らしいからな。


「わかりました、レオン・スチュワート様。

 これからはレオン様とお呼びいたしますね」


 少女は笑顔で寝転んだオレを見下ろしていた。

 少女は心配そうにオレの顔を覗き込んでいるが、何だこの少女はヒトとの距離感を知らないのか?

 吐息がかかる距離に顔を置くなよ。

 女の匂いなんて今は嗅ぎたくないんだ。

 少女の銀色の髪からは焚き込めたローズの香りが漂っていた。

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