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10 ウィル・オ・ウィスプ

「このまま朝を待つのですか?」


 少女はキラキラとした瞳でオレを見つめている。

 少し酔っぱらっていたオレはこの少女にド派手な方法で吸血鬼を退治して見せてやることにした。

 ……ビビアンに死霊魔術師は地味だってバカにされたからな。


「父からあまり力をひけらかすなと言われているんだが……別にオレ達死霊術士は骸骨剣士スケルトンや腐った死体しか使役できないわけじゃない。

 死体と、魔物から取り出した魔石さえあれば理論的にはなんでも使役できる」


 オレはローブの内側にずらりとぶら下げた魔石を少女に見せた。


「……ローブの中にこれほどまでの魔石を……」


 少女はオレに近づき食いいるように魔石を見ていた。


「割と地味だと言われるんだよな。

 死霊魔術師って。

 でも、実は結構派手だし、かっこいいんだ!」


 少女が輝いた眼でオレの話を聞いてくれるので、酔いも手伝ってオレはだいぶ調子に乗っていたんだと思う。


「失われたという光の魔術だって、オレは使えるんだ」


 ローブから魔石と小瓶を取り出す。


「そ、それは何なのですか?

 白色に光っています!」


 少女が吐息のかかる距離でオレの手元を見つめていた。


「……今から、光の魔術を見せてやるぞ」


 オレは小瓶を地面に叩きつけて割り、魔石を握りしめた。


「光の精霊、ウィル・オ・ウィスプ!

 死してなお、輝きを放ち吸血鬼を殲滅せよ!」


 実は、オレの死霊魔術には詠唱など必要ないんだ。

 ウィル・オ・ウィスプの死骸を詰めた小瓶には術式が精緻に書き込まれているし、魔石を握るだけで発動する。

 要は、オレはいちいちオレに驚いてくれる少女にカッコつけたかっただけだ。


 小瓶から飛び出した精霊の死骸にオレが握りこんだ魔石から飛び出した光体が宿り、生前の輝きを取り戻していた。

 光の精霊、ウィル・オ・ウィスプ。

 人間で光の魔術を使えるものはここ数十年現れていない。


「ひ、光?」


 吸血鬼はウィル・オ・ウィスプから放たれる光に身をよじっていた。


「このまま朝を迎えてもお前は灰になっちまうんだろうけどさ、オレは飲みすぎて眠いんだ。

 いますぐに消えてもらうぞ」


 オレの右手が吸血鬼を指さすと、ウィル・オ・ウィスプは吸血鬼の身体の中心に潜り込んだ。


「光源解放!」


 オレが叫ぶと同時にウィル・オ・ウィスプは太陽をしのぐほどの陽光を放ち、吸血鬼の身体を照らした。


「う、うわああああああああ!」


 吸血鬼は光魔法の渦に飲まれ断末魔の叫びをあげると朝日を待たず灰となった。


「す、すごいですね!

 光の魔術を使いこなすなんて……」


 少女は、吸血鬼が跡形もなく灰となったことに呆然としていた。

 はは、親父の言いつけを破ってやたら派手なものをこの少女に見せてしまった。


 炎魔術師エイデンが見せた5色の炎。

 ビビアンは綺麗なモノのが好きだったよな。

 オレだって5色の光くらい、お前が望むならいくらだって見せてやれたんだよ。


「黒騎士様、どうして涙を流しているのですか?」


 少女はオレの顔を覗き込んでいた。


「え?」


 オレがローブで顔を拭うと、袖が濡れていた。


「ははは、飲みすぎてしまったようだ」

「黒騎士様」


 少女はオレに近づくと、少しためらったのちオレの手を取った。


「辛いことは誰かに話すと楽になると聞きます。

 もし、私でよろしければお話聞かせてくれますか」


 あまりにも真剣な表情にオレは目を背けた。


「ははは、シャツが半分出たアンタに言われたくないよ」

「え?

 あ、本当ですね」


 少女は恥ずかしそうにはみ出たシャツをズボンの中に押し込めた。


「し、仕方ないじゃないですか。

 シャツもズボンも初めて着たのですから」

「あはははは、面白い冗談いう奴だな。

 シャツとズボンを初めて着るやつなんているわけないだろ。

 普段何を着てるんだよ」


 シャツのシワを伸ばしながら少女は答えた。


「普段はドレスを着ていますし、ドレスだってメイドに着せてもらっていますからシャツをうまく着れなくても仕方ないのです」

「ド、ドレス?

 あははは、冗談言うなよ。

 アンタ冒険者だろ?

 ドレスなんて着るわけないだろ」


 オレの言葉に少女はきょとんとしていた。


「あ、あの黒騎士様。

 私のことをご存じないのですか?」


 少女は少し寂しそうにしていた。

 オレのことを知っているのだから領民だろう。

 もしかすると、父と間違えているのかもしれないな。


「どこかで会ったかな。

 ごめん、覚えてないよ」

「そ、そうですか……」


 少し寂しそうにしていた少女だったが、急に元気になりオレの手を握った。


「でも、私のことを知らないのでしたらそれはそれで楽しいのかもしれません。

 みなはいつも遠慮していますが、黒騎士さまは私にちっとも遠慮していませんから」


 なぜか急に元気になった少女の手は温かかった。


「は、アンタ黒騎士をしってるってことはオレの領民だろ?

 遠慮することなんてないだろ。

 でも、オレは黒騎士じゃない。

 黒騎士の息子だよ。

 本当の黒騎士は年を取って死んでしまったからな」

「そうですか、お父さんを亡くされて悲しかったのですね。

 わかります!

 私も父を失った時は悲しみに暮れていましたから」


 少女はぎゅっとオレの手を握って身を乗り出してきた。


「でも、私にとっては黒騎士様はレオン様、あなたなのです。

 颯爽と私を救ってくれたレオン様のことを忘れたことはありませんでした」


 瞳を輝かせた少女に対して、覚えていない自分をふがいなく思った。


「ごめん、どこかの村が襲われた時に助けたのかな。

 覚えてないけど……」

「あ!

 いえ、今のは記憶違いです。

 助けられたことなどありません。

 忘れてください」


 少女は慌ててオレの手を離し、ぺこりとお辞儀をした。


「あ、そうなの?

 じゃあいいけど」


 なんだかよくわからない少女だな。

 助けられたことを記憶違いすることなんてないと思うけど。

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