その⑤
誠もとうとう死期を迎えた。
脚は言うことをきかず食事もとれない。
熱は下がらず体の節々が痛くだるい。
もう何日食事をとっていないだろう。
そんな時に彼らは現れた。
見慣れぬ装備を身にまとい、聞きなれぬ言葉を口にした。
しかしどうやら同じ人間らしい。
誠はモールス信号のカラス語で話しかけてはみたものの、こちらの言葉もわからぬようである。
ただ彼らは慈悲深い眼差しで誠を見つめ、その最後を看取ってくれた。
______________________
「隊長、彼が最後の生き残りのようです。もはや他に生命反応は見られません。」
「そうか…。」
「この船はあの伝説の…?」
「どうだろうな。まさか実在していたとは考えたくもないが。」
「支配層を騙して宇宙に放り出したなんて…寝覚めの悪い話ですからね。」
「いくら強欲とはいえ同じ人間なのにな。それが真実だとしたら我々の祖先は罪深いことをした。そのおかげで我々が平和に暮らせているのだとしても。」
「最後は食糧が尽きて共食い、そして餓死で絶滅ですかね…可哀想に。この船はどうします?地球まで曳航しますか?」
「…………。いや…。これは祖先の闇だ。このまま宇宙を泳がせよう。時には明らかにならないほうが良いこともある。闇は闇に。光は光に。」
彼らは誠の身体に書いてある"カラス"の刻印の意味を理解することができなかった。
彼らの住む地球には誠の身体に刻まれたどの言語ももはや存在していなかったためだ。
しかし、恐らく理解できなくてよかったのだ。
二人の商船隊員は誠の死を悼む祈りを捧げると、方舟を離れ本船に戻り地球への旅を再開した。
母なる平和の惑星の情景を想いつつ。
生きるもののいなくなった方舟も宇宙の果てに向かっての旅を続けた。
光の速さを保ちつつ。地球よりずっとゆっくり流れる時間の中で。
ご精読頂きありがとうございました。
書きはじめ当初はほのぼのコメディにするつもりだったのですが、すっかりダークな話になってしまいました。