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その③

"カラス"の誠はよくエナジーラインの柱にとまっていた。

地上を歩いていると「カラスのくせに」と"人間"に虐げられるからだ。


同種間ではコミュニケーションをとることが許されたので、数羽でエナジーラインの柱に止まっては情報交換をしていた。


ただ、人語を話すことは固く禁じられていたので「かーかかっかかっかかーかか」という風にモールス信号を使って話していた。



皆、ほうぼうを回っているので色々な情報が集まった。


それを聞くだに、"人間"の横暴は酷かった。


加齢で見た目の悪くなった"ペット"を捨ててしまう飼い主が続出した。

そんなペットが家に戻ってくると殴りつけてまた家の外に追い出す。

そうしてまた若く見た目のよい"ペット"を買うのだ。


ある家庭の娘は庭に果物を置いて、集まった"小鳥類"や"昆虫類"を片っ端から捕まえては手足を刃物でもぎ取り、身体を細かく分解して遊んでいた。

それも何十人も。


近隣住民からの通報で"警察"が来たが少し説教をされただけでおとがめなしだった。

まあ殺されたのが"小動物"なのだから仕方ないのだが。


付近の"オス猫"を集めては局部を切り取り"去勢"を施す主婦もいた。

顔のよい"オス猫"を好んで施術していたようだ。


あるヤンチャな男の子は"アリ"の巣に水を流し込み、中の"アリ"数百人を殺してしまった。

その男の子は母親から「生き物を殺しちゃだめでしょ!」と叱られて泣いてしまい父親に抱きついて不貞腐れた。

父親は「まあまあ、男の子なんだから」と笑って済ませてしまった。



誠は不思議であった。

そもそも、より多くの人命を救うために作られた"動物枠"ではなかったのか?

命を救うどころか粗末にしているではないか。


一度そんな疑問をカラス仲間に投げかけたことがあった。


そのカラス曰く


「昔、ある大学で被験者を看守役と囚人役にわけて牢獄体験をさせる心理実験をしたことがあるんだがな。看守役は指示されたわけでもないのに次第に囚人役に罰則を与えたり虐めたりするようになったんだと。もともとは皆、おとなしい善良な市民だったのにな。つまりな、役割が人格を作ってしまうということさね。あまりに"人間"役に徹する余り動物を手酷く扱ってしまうんだろうなぁ。」


ということであった。


なるほど、そんなもんか。

とその時はなんとなく納得してしまった。

役割に忠実に従うあまり、彼らには我々が同じ人間には見えなくなってしまっているのだな。

であれば、また役割を解いて皆同じ人間に戻ることはできないのであろうか。

誰か良識のある人間がそんな問題を提唱しないものだろうか。


誠はぼんやりとそんなことを期待していた。



そんなある日、誠がゴミステーションで人骨をついばんでいると、近くを脂ぎった"人間"の中年男性とリードをつけられた可愛い"メス犬"と見た目の良い"オス犬"が通りかかった。


もうそんな光景にもすっかり慣れてしまっていたのだが、この中年男はずいぶんと"メス犬"の身体を撫でまわしていた。

乳房に尻たぶ、口に指も入れて"メス犬"の身体を玩んだ。

股間をパンパンに腫らせながら。


"オス犬"はその様子をつまらなさそうに見ていた。


この2匹、どこかで見たことがあると思ったらオシドリ夫婦として有名であった俳優カップルではないか。


"オス犬"はやがて飼い主の服の裾を噛んで制止しようとした。


すると中年男は激昂し持っていた杖で"オス犬"を殴りながらこう叫んだ。


「貴様ら劣等人種が誰のお陰で暮らせているのだ!」


誠はこれを聞いて違和感を覚えた。

人種?この2匹は犬であるはずなのに。

それにこの男、明らかに"メス犬"に欲情している。

誠が人間だった頃も「獣姦」などという忌まわしい話は聞いたが…



その後も誠は"人間"が"動物"をある意味で人間扱いする場面に出くわした。

とある家庭のメス犬などは飼い主の子供を孕んでしまい奥方の怒りを買い、腹を裂かれて胎児もろとも鍋で煮込まれ殺されてしまった。


"人間"が"犬"を孕ませるだろうか?

嫉妬をするだろうか?


またある家庭では"食糧人"を好んで食していたのだが、やれこの男の肉は固いからきっと頭の悪い肉体労働者だったに違いないとか、やれこの女は顔が良いからきっとふしだらで肉も甘くて旨いはずだとか、とかく食材を人間として捉えて食したがった。


"人間"が肉や野菜などの食材について、その性格や経歴などを気にするだろうか?


誠は"人間"連中のおぞましさを認識するようになった。

奴等は同じ人間だとはっきり意識して、この残虐行為を楽しんでいると。

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