ある日の昼下がりの午後
僕はただ行く当てもなく自転車をこぎ続け、あたりを見回す。
ただ暇だったのだ。だからいつもの近所の図書館まで行く道のりの景色を眺めながら自転車を漕ぎ続けた。
夢を見ているような気分になり、いつの間にか自転車を漕ぐのをやめていた。人がいた。その人は夢に出てくるような綺麗な女の人だった。その人はまるで僕に微笑みかけるように見つめてきた。僕も気づけば意識を奪われるようにその人のことを見つめていた。
しばらく経って僕はさりげなく視線を逸らした。
人の視線が気になるお年頃なのだ。女の子に見つめられたのは勘違いだと、自分に言い聞かせた。
赤らんだ頬のまま、いつか自分にもあんな彼女ができるのかなぁなんてことを、ぼんやりと考えながらまた動き出す。そんな時だった。僕を含めあたりを包み込むような、そんな柔らかい風が吹いたのだ。そしてさっき眺めていた女の人が、何か呟く。それは風に乗るように僕の元まで届いた。その声は少しでもあたりからの雑音があれば、すぐにかき消えてしまうようなものだったが、その時は僕の中で彼女以外のまわりの時間が止まったかのように声がよく聞こえた。
「また…会えたね」それだけが僕の耳朶を震わせ脳内に響いた。
こんなことが僕の人生の中でもあるのかと、この時は本当に驚き、そしてなにより感動していた。初めてのことだった。頭の中で様々な問題が駆け巡り、今ある中の一番の最優先事項をなんとか探り当て僕はこう呟いた。「君は…誰?」
「えっと私は…」
彼女は戸惑いながらも教えてくれた。
「あなたの彼女です。」かと思ったら全然戸惑ってなかった。さっきまでの間がなんだったのかってくらい淀みなく流暢に一言一句違わず丁寧にそう申してきた。
このノスタルジック溢れるど田舎にこんな運命的な出会いがあるとは…人生捨てたもんじゃないなと僕はいろんな疑問点を全部すっ飛ばして心からそう思った。
だが一度冷静になる。…僕に彼女いたっけ。流石にこの疑問を無視することは一匹狼であるはずの僕にはできなかった。
僕は再び例の彼女に問いかける。
「君って本当に僕の彼女?僕彼女いない歴=年齢なんだけど…」
「はい!私は拓弥さんの正真正銘唯一無二の彼女ですよ!」
そう彼女はハキハキと答えてくれた。
どうしよう全く見に覚えがない。だから僕は今度は、別の視点からアプローチしてみることにした。
「今からデートしませんか?」
「はい!デートしましょう!」
彼女は僕の申し出を快く受け入れてくれた。
こういう反応いいねー待ってましたと僕は心の中で叫んでおいた。
ある夏休み中頃の出来事だった。