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緊急退場

「どうも、皆様。初めまして。私、東京から参りました立川夜鷹と申します」

「あら、いわゆる付きの凄くディープなお名前ね。私、䰠宮葵よ。以後お見知り置きを」

 お互い何かの波長を感じ取った二人が、微笑み合いながら握手を交わしている。

 櫻真はそんな光景に目を細めさせていた。

「あの……貴女は何方(どちら)の人ですか?」

 櫻真が恐る恐る夜鷹に素性を尋ねる。すると夜鷹が笑みを浮かべたまま、くるっと櫻真の方に顔を向けてきた。

「私、陰陽院に在籍している者です。私の子がこちらにいると風の噂で聞きまして……ふらり、ふらりとこちらに参ったのでございます」

「おほほ。敵さんのお目見えよ。でもね、葵……今とても不思議な気分だわ。櫻ちゃん、何故だか分かる?」

 夜鷹と同じように笑いながら櫻真へと向いてきた。

(確かに。この二人違うようで似とるかも……)

 しかし、この穏やかな笑みに騙されてはいけない。彼女は佳や隆盛たちと同じく、ここにある鬼絵巻を狙っているのだから。

「鬼絵巻を狙ってはるのは分かりましたけど、今はまだ回収できはりませんよ?」

 先手を打って櫻真がそう言うと、夜鷹が目を細めてきた。

「まぁまぁご親切に。ですが……その情報なら私たちも既に入手しておりますよ。なので、今は皆様と親睦を深めようと思いまして。それではここで皆様に一つ、確認事項です……この中で皆様は、恋をしておりますか?」

 柔和な微笑みを携えて、思春期ド真ん中の櫻真たちに爆弾を落としてきた。

 心当たりのある櫻真と儚が顔を真っ赤にし、桔梗が溜息を吐いている。

「素敵な反応すですね。では、その方をペアにする事は出来ますか?」

「えっ、ペアって何のですか?」

 顔を手で扇ぎながら、儚が夜鷹に訊ねる。

 すると目を細めた夜鷹が一言。

「勿論。髑髏本尊儀礼(どくろほんぞんぎれい)を行うにあたってのペアです」

 爽やかな微笑みを浮かべる女性。

 けれど、そんな女性の言葉に桔梗が険しく眉を顰め、葵が気分を一気に上げている。

(髑髏って聞こえたけど……何やろ?)

 宗教的な流派であることは、言葉並びで分かる。

 しかし、その実態までは分からない。けれど桔梗と葵……それから桜鬼たちの表情を見るにあまり良くない事だとは思う。

「なるほど。なるほど。貴女は陰陽院の一派であるのと同時に、そっち系の使者でもあるのね。どおりで波長が、地味に合うと思ったわ」

「そうですか。それはそれは……では、貴女も本尊を完成させた事がお有りなんですか?」

「いやん。本尊を完成させるまでのセ……ブッ」

 何かを言おうとした葵の口を、桔梗が砂遊びで使っていたスコップで塞ぐ。

「君、これ以上口を開けたらホンマに術使って、沖の方まで吹っ飛ばすからね」

「女性暴力反対ーー! むしろ、口を開けるなとか無理に決まってません?」

 口を尖らせて葵が反論すると、桔梗が徐に術式を唱え始める。

(桔梗さん、本気や……)

 本気で声聞力を上げている桔梗。だがその桔梗を止めたのは、自分たち以上に話を掴んでいない百合亜だ。

「桔梗ちゃん、あんまり葵ちゃんを虐めたらダメだよーー。葵ちゃん、いつも百合亜たちに面白い話をしてくれるんだから」

「……面白い話? どんな?」

 ピクッと眉を動かして、桔梗が百合亜の方へ視線を向ける。

 すると、百合亜が「んーー」と唸りながら藤へと助けを求め始める。

「藤、葵ちゃん……前、百合亜たちに何の話をしてくれたんだっけ?」

「……赤ちゃんを連れてくるコウノトリの話」

 藤の言葉で、夜鷹や葵以外の人間の背筋が凍りつく。

 話の概要を聞かずとも、葵が百合亜たちに何の話をしたのか察しはつく。

「姉さんっ! 百合亜たちに何を話とんねんっ!」

 顔を真っ赤にさせた蓮条が葵を怒鳴る。

「何をって……おほほ、大丈夫よ。百合亜たちには生々しいのは話してないわ。むしろ、話た所で楽しくないじゃない? それに、コウノトリって本当にいるの? って訊かれたから、葵は一大人として答えたまでよ」

「あらあら、まぁまぁ……こんな幼き時から教えを説くなんて、なんてご教養の高い方なんでしょう? 私、感涙しそうです」

「……百合亜、藤。この二人のお姉さんにお別れを。今すぐここから退場してもらいはるから」

 百合亜たちに害を為す二人の女を葬り去らんと、桔梗が術式を発動し始めている。

「やばっ。桔梗の奴……術式の詠唱を終わらせてんじゃん」

 頭を搔く瑠璃嬢がそう言った瞬間、桔梗の術式が発動する。

「木行の法の下、疾風よ、害を生み出す悪しきを断て。急急如律令!」

 桔梗が生み出した風が、葵と夜鷹の足元から渦のように巻き起こり、そのまま湖の沖まで運んでいく。

「狐めーー。葵を吹き飛ばしたって無駄だかんなーー」

「安心なさって下さいまし。すぐにまた会えますから」

 風に巻かれる女二人の言葉があっという間に遠ざかり、聞こえなくなる。

するとそんな風の渦を見送りながら、桔梗が溜息を吐いてきた。

「ああ言わはるって事は……また来るんやろうね。ホンマに嫌になるわ」

「葵姉さんって、地味に有言実行タイプですもんね」

 疲れたように肩を落とす桔梗と共に、櫻真も顔を引きつらせる。

「ホンマに、百合亜たちに近づけたくない。悪影響すぎて……」

 そう言って、桔梗が百合亜の頭を撫でている。その手つきはとても優しげだ。

 ふと、櫻真は我関せず焉の態度を取る浅葱の方に視線を向けた。浅葱は家の庭先にあるデッキの椅子でゆったりと過ごしている。

 小さい頃、櫻真もさっきの百合亜と同じ様に浅葱に頭を撫でられたのを思い出す。

(桔梗さんって、百合亜のお父さんみたいやな……)

「櫻真、どうかしたのかえ?」

 一瞬、思考の中に入っていた櫻真の顔を桜鬼が覗き込んできた。

「いや、少し昔の事を思い出してて……けど、大した事やないから気にせんでええよ」

 櫻真がそう言うと、桜鬼が納得したように頷いてきた。

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