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二年前からの恋心

 狐面の少年と話してから、儚たちは縁日にいる人物に話しかけてみた。

 殆どの人が縁日を楽しんでいるようなコメントを残す中、さっきの火男の男の子のように頼み事をしてくる人が現れる。

 儚たちは、その人物たちの頼み事を快諾し、それらを叶えるために奮起していた。

 ある時は、昔のミステリーなどで出てくるような暗号を解いたり、射的の景品になっていた欠けらを取ったり……色んなことをやった。

 驚いたのは、かき氷機の中に欠けらが落ちていた時だ。

「まさか、こんなに欠けら集めが大変やとは思わんかったわ〜〜」

「本当だぜ。おかげでこっちはヘトヘトだっつーの。ふわあ〜〜」

 文句を漏らしつつ、隆盛が大きな欠伸をしている。

 それにつられる様に紅葉も欠伸を掻いている。

「眠いかもしれねぇーが、この欠けら集めも残り一つ、もう人踏ん張りだ」

 眠気に襲われる三人に魁が喝を入れる。

「魁は眠くなったりせんの?」

 目を擦りながら、儚が魁に訊ねる。すると、魁が少し困った様に眉を顰めさせてきた。

「眠くないって言ったら……嘘になるな。けど、儚たちが頑張ってるのに俺が寝るわけにはいかねぇーだろ?」

「そうなん? 全然眠そうに見えへんかったわ」

「あたしも、そう思ってました。体力の違いかなぁ〜とか思ってたんですけど」

 儚と紅葉がそう言いながら笑っていると、隆盛が小さく肩を竦めてきた。

「そいつが俺らと一緒の体力なわけねぇーだろ。むしろ、本当にこの中の事、何も知らねぇーんだな」

 隆盛が片目を眇めながら、魁を見る。

「最初の時に言っただろ? どんなに俺たちが場数を踏んでたって、分からない時は分からないからな。むしろ、人の人生なんて、そんなもんだろ?」

「偉そうに説教を垂れるなよ」

「説教じゃない。教訓だ」

「似た様なもんだよ」

 隆盛の言葉に魁が楽しそうな笑い声を上げて返している。和やかな空気だ。

 こんな空気を感じていると、ここに来る前に敵対していたとは思えない。

むしろ、時々……自分たちが敵対していた事を忘れるくらいだ。

 がさつでまだまだ精神的な甘さもあるが、やはり悪い人間ではないのだろう。

 それを考えると、何故あそこまで鬼絵巻に固執しているのかが分からなくなる。隆盛たちは強くなるため、と言っていたが本当は、もっと別の理由があるんじゃないか?

 儚の中で疑問が生まれてくる。

 しかし、その疑問は自分の隣にやってきた紅葉からの言葉で掻き消された。

「あの、儚さんはどうして蓮条君の事を好きになったんですか?」

「ど、どうしたん? いきなり?」

 紅葉から突然持ち出された恋愛話に儚が少し慌てて訊き返す。

 しかも訊ねられているのは、自分が蓮条に恋をした時の気持ちだ。

「何か、儚さんみたいな人がどんな風に恋しちゃったのか気になって……あんまり、こういう話はしたくないですか?」

 紅葉が心配そうに自分の顔を見てきた。儚が首を横に振る。

「嫌やないよ。ただ、少し驚いてな……それに少し恥ずかしくて」

 照れながら、儚が両手を頬に添える。

 あかん。絶対に顔が赤くなっとる……。

 ちょっとのことでも顔を赤らめている自分に情けなさを感じながら、儚は自分の話を期待する紅葉へと口を開いた。

「アレは丁度、二年前くらいの時かな……」


 中学二年生の夏。

 儚はとある悩みを抱えていた。

 自分自身では分からないが、儚はとある日から友達に無視される様になったのだ。正直、どうして自分が無視されるのか分からない。

 無視が始まるその日の前まで、儚は普通に二人の仲の良い友達と話していたのだ。

 二人を怒らせる様な事をした身に覚えもないにも関わらずだ。

 過去のやり取りを見返しても、気分を害すような事はしていなかった。けれど、その無視は、クラスや部活内にまで広がった。

 儚が話し掛けると、相手が気まずそうにしてすぐに自分の元から立ち去ってしまう。

 そんな儚の状態に、大人たちは気づかない。いや、気づかないで良かった。

 気づかれて、親にでも言われたら最悪だ。

 自分が学校でイジメられてるかもしれないなんて、死んでも思われたくなかったからだ。

 無視される以外で、何かされる訳でもない。

 だったら、自分はこのまま周りの事など気にせず生活していよう。そう思った。

 しかし、それはただの強がりだ。

 どんなに気丈に独りでいる事を肯定しようとしても、そんな自分自身に悲しくなって、勝手に目から涙が落ちてくる。

 泣きたいわけじゃない。同情されたいわけでもない。

 そう思うのに、どんどん自分が惨めで可哀想な子になって行くのが辛かった。

 無視をされ始めて、一ヶ月くらいが過ぎた頃……元々、仲良かった友人の一人が体育の時間に怪我をした。

 皆んなが騒然とする中、一人の男子がやや茶化す様な口調でこういった。

『䰠宮って人の事を呪えるんだろ? アイツの事を腹癒せに呪ったんじゃね?』

 その男子からすると、悪ふざけの一環で本気の言葉ではなかっただろう。

 しかし、その一言で別の誰かが口を開いた。

『確か、幽霊とか見えるんやろ?』

『嘘? 怖っ……』

『アホ、流石にそれは無理があるやろ?』

 どれもこれも、苦笑混じりの言葉で本気には思っていない。けれど小さな悪意が混じっているのも事実だ。

 そんな悪意に儚は耐えきれなかった。

 気づけば、クラス中の視線が集まる中で儚は泣いてしまっていた。

 恥ずかしさと悔しさで涙は止まらない。

 儚が泣き出したことで、茶化していたクラスメイトにも焦りの色が浮かび始めた。

 自分は完全に腫れ物になってしまったのだ。

 その日から儚は、学校を休む様になった。

 あんな見世物になって、学校に行く勇気が持てなかった。でも、学校を休んだ所で気持ちが明るくなる訳でもない。

 逆に虚しさが儚の中で膨れ上がる。自分が休んだ所で、誰の痛みになるというのだろう?

 きっと、誰の痛みにもならなくて、気にも止まらない。

 そう思うと悲しくて、もう何度目かの涙が目から溢れ出た。

 すると、そんな自分の元に蓮条がやってきた。この日は偶々、蓮条の両親が儚の家に用事があって、付いて来たらしい。

 蓮条の家とは、以前から定期的に会う間柄だ。

 そんな蓮条に部屋で泣いている所を見られて、儚は内心で動揺していた。

 今の自分の姿なんて、誰にも見られたくない。年が近い親戚の子(蓮条)なら尚更だ。

『悪いけど、部屋から出て行ってくれへん? 今、誰かと会いたい気分ちゃうんよ』

 目を合わせず、儚が蓮条にそう言う。

 凄く感じが悪かったと思う。しかし、それを弁解する気力も気持ちも持てない。

 すると、部屋の入り口の所に立っていた蓮条がそっと口を開いた。

『行かれへんよ』

『……何で? 別に蓮条はウチに用なんてあらへんやろ?』

『ないな。けど……儚が泣いてはったら放っておけへんやん』

『別にええよ。むしろ、放っておいて』

 同情なんて要らない。そんな事をされたらまた悲しくなる。

 けれど、蓮条がそんな自分の言葉に首を振ってきた。

『無理。だって俺が気になるもん。正直、今の儚の気持ちは分からへん。けど、俺が気になるし、儚が泣いてはるのに、無視なんて出来へん』

 顔を険しくさせた蓮条の言葉に、儚は目を見張った。

 それと同時に……小さく見えた自分の存在が救い上げられた様な気にもなった。

 確かに自分は学校という囲いの中で無視されていて、小さい存在なのかもしれない。けれど、自分を無視できない、大きな存在だと見てくれている人もいる。

 儚は言葉を喉に詰まらせて、涙を流した。

『えっ、儚……ちょっ、泣かへんで! 俺、別に儚に意地悪を言うてるんやなくて……』

 再び泣き出した自分に蓮条が慌ててきた。

 心底、慌てた様子の蓮条の姿が無性に可笑しくて、口元に笑みが浮かんでしまう。

 泣いているのに笑うなんて……さらに蓮条の混乱を大きくさせてしまっただろう。

 早く弁解せなな。

 そう思うのに、儚から最初に出た言葉は、

『蓮条、ありがとう』

 という少年をさらに混乱させてしまうお礼の言葉だった。

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