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式鬼神と従鬼

 昼食後から始まった稽古を終えた、夕方。

 櫻真は蓮条と共に、桔梗と菖蒲に先ほどの件を話していた。


「なるほどね。僕の所にはまだ来てへんけど……。菖蒲ちゃんの所には来はったん?」


 桔梗が横目で菖蒲に訊ねる。思わず、櫻真と蓮条が息を飲む。

 問われた菖蒲の表情に変化はない。

 ただ少しばかし思案するように黙ってから、口を開いた。


「いや、僕の所にも来てへんな。ただ……そこで気になるんは、関東の方にも従鬼の主に選ばれた者はおる。それなのに、こっちに来はった意味やな」


「そうやね。瑠璃嬢の他にあと二人。まだ年齢は幼いけど、主に選ばれた子がおるからね」


 しれっとした顔で自分の疑問を口にして来た菖蒲に、桔梗が納得したように頷く。

 ここでの様子を見る限り菖蒲に可笑しな様子はない。

 ただ、それが櫻真たちに何かを悟らせない為の演技かもしれない。

 疑いたくない気持ちは勿論ある。しかし、どうしても疑ってしまう。


 矛盾する二つの気持ちが櫻真の表情に影を作る。

 すると、そんな櫻真に菖蒲が口を開いてきた。


「櫻真、君は誰がその陰陽院の奴らに鬼絵巻や従鬼の事を話したと思う?」


「えっ……? 分かりませんけど……」


「分からなくても、予想くらいしはるやろ?」


 真顔の菖蒲にそう問われ、櫻真は思わず口を閉ざす。

 するとそんな櫻真を見て、菖蒲が額に片手を当てながら肩を揺らして笑って来た。


「えっ、えっ? どうしたんですか?」


 まさか笑われると思っていなかった為、櫻真が戸惑いを見せる。


 すると菖蒲が笑うのを落ち着かせて、

「櫻真は、ホンマに隠し事に向かへんな? まぁ、嘘が得意になるよりは良いのかもしれへんけど」

 櫻真にそう言ってきた。


 つまり、櫻真の考えている事が菖蒲に伝わってしまったという事だろう。


 一緒に訊ねた蓮条も小声で「櫻真のアホ」と呟いている。

 しかし、そう言われても言葉に詰まってしまったのだから仕方ない。


「すみません……」


 とりあえず、櫻真は菖蒲を疑っていた事を素直に謝る事にした。

 すると、今度は菖蒲の横にいた桔梗が声を上げて笑い始めた。


「櫻真君、謝るって事は菖蒲ちゃんを犯人にしてたって認めてる様なものやで?」


「あっ、そうなんですけど……バレとるんやったら隠してても意味ないかなって……」


「うん、気持ちは分かる。けど、菖蒲ちゃんが櫻真君の考えてる事を具体的に言うたわけでもないよ?」


「あっ……」


 桔梗の言っている事が分かって、櫻真は短い声を上げる。すると、さらに桔梗が顔を抑えて笑い始めた。


「櫻真君は、引っ掛け問題に弱いって事も分かったわ」


 笑う桔梗にそう言われ、今度こそ櫻真は口を閉ざすしかない。


「桔梗、笑い過ぎや。別に櫻真たちが僕を疑いたくなる気持ちは分かる。今の僕らの関係性を考えればな。現に僕も君と葵が裏で手を結んでると思っとるし」


「あっ、そうなん? それは心外やね? 前にも弁解させてもろうたけど、僕はあの狸さんと組んだつもりはないよ? 偶々あの人が僕の周りをチョロついとるだけで」


「偶々なわけないやろ?」


 ジロリと桔梗を睨む菖蒲。

 すると桔梗が自分を睨む菖蒲に、酷薄な笑みを浮かべさせた。


「そんな怖い顔したら、アカんよ?」


「桔梗が白を切りはるからやろ? そういえば、桔梗は元々関東出身やったな? 君の知り合いとちゃうの?」


不穏な空気を流し始めた菖蒲に、桔梗が自嘲気味に笑う。


「確かに僕は関東の方にいたけど……僕に分家と関わる余裕があったと思う?」


 質問に質問で返した桔梗に菖蒲が溜息を吐く。


「……洒落も通じへんな」


「ごめんね。僕は根っから真面目な性分やから。さて、もうそろそろ……帰ろうか? あんまり長く居座ってたら、桜子さんに悪いし」


 桔梗がそう言って、稽古場の様子を見に来た桜子ににっこりと微笑む。

 きっと、稽古場から戻って来ない櫻真たちの様子を見に来たのだろう。


「夏は短し……けど、色んな事が起こりそうやね」


 桔梗がそう吐き捨てて、稽古場から去っていく。それに続いて、菖蒲も稽古場を後にして来た。

 取り残された櫻真と蓮条で顔を見合わせる。


「結局、誰が黒で誰が白なんか分からへんかったな……」


 やや間の抜けた蓮条の言葉に、櫻真がゆっくりと頷く。


「そやな……」


 自分たちの周りには、まだまだ謎のまま残っている事が多そうだ。

 桔梗の言葉通り、この夏は色んな事が起こるだろう。そう、いつもの夏とは違う事が。

 しかしそれがすぐに櫻真の身に起こるとは、この時の櫻真は考えてもいなかった。



「戦いは避けられない雰囲気やな……」


「櫻真。残念じゃが……最初からやる気満々の顔をしておったぞ?」


 稽古場で桔梗たちと話してから、次の日の夜。

 櫻真は終業式に会った陰陽院の陰陽師、住吉隆盛と蓮条の元へと現れた百瀬彩香という少女から、北野天満宮へと呼び出されていた。


 相手の情報を少しでも知ろうと、櫻真達もその呼び出しに応じる事にしたのだ。

 勿論、櫻真のすぐ近くには蓮条と鬼兎火の姿もある。

 櫻真たちは、自分たちの事を呼び出した隆盛と彩香と睨み合う形で、対峙していた。


「術式を使った呼び出しに答えて下さり、ありがとうございます。私たちの要望はただ一つ。今から私たちと戦って下さい。そして、私たちが勝者となって鬼絵巻を貰い受けます」


 睨み合う櫻真達へとそう口を開いたのは、長い焦げ茶色の髪にふんわりとしたウェーブが掛かった、凛とした雰囲気のある綺麗な女の子だ。


「整合性に欠けてるわね。何故、鬼絵巻を欲しがるの?確かに鬼絵巻は危険性を孕んではいるけれど、私たちが鬼絵巻を回収すれば危険を回避出来るはずよ。あなた達に渡す必要性をまるで感じない。それともあなた達はただ単純に自分の式鬼神の強さでも見せたいのかしら?」


 鬼兎火が指す式鬼神とは、隆盛と彩香の後ろには十二神将の事だ。

 隆盛の後ろには、朱雀(すざく)……四神の一人で炎に包まれた巨大な鳳凰の姿をした式鬼神が付いている。

 そしてもう一人の彩香の後ろには、六合(りくごう)……猛々しい甲冑を付けた金剛力の様な姿をした、平和と調和を司る式鬼神だ。


 だが、彩香はそんな鬼兎火の言葉に首を横に振る。


「いいえ。私は式鬼神の力を誇示したいわけではありません。私が、あなた達から鬼絵巻を貰い受けたい理由は鬼絵巻という呪物を私の手で浄化したいからです。我が家の名にかけて」


 そう語る彩香は、まるで鬼絵巻を手に入れる事が自分の使命

だという様な顔つきをしている。


「そのためには、まずのあなた達を倒さなければ行けません。隆盛、私に合わせて」


「おうっ。行くぜーー!」


 彩香と隆盛が一気に声聞力を上げて来た。それに合わせて、後ろに控えていた朱雀と六合が前へと出る。

すると桜鬼と鬼兎火も刀を取り出し、すぐさま動いた。


「貴様達の言わんとしている事は、分かった。じゃが、それを叶える義理など妾たちは持ち合わせておらぬ」


 桜鬼が地面と平行に飛翔する朱雀に対して、刀を揮い、斬撃を放つ。

 風の斬撃を目視する事はできない。けれど明確な破壊の爪痕は残していく。地面を荒削りし、巻きあがった石を一瞬で粉砕する。


 生身の人間が当たれば、一瞬で肉塊へと変わるだろう。


 その斬撃を前に、朱雀が甲高い咆哮を上げて突撃した。突撃した瞬間、巨大な炎柱が空高く捲き上る。

 巻き上がった火柱は、朱雀そのもの。


 空高く巻き上がった火柱はうねり、その形状を変えて来た。炎の全てが天高く舞い上がり、幾千もの弓矢の形となって、鏃を地上にいる桜鬼へと向けている。


「水行の法の下、水神となり天から来たる厄を払い除けよ。急急如律令!」


 櫻真が術式を放つ。

 すると桜鬼の頭上に龍神が現れ、龍神が水飛沫を上げながら塒を巻く。


「はっ。俺と朱雀の炎が水龍如きに負けるかよっ! そのまま突っ込め!」


 隆盛の掛け声で、一斉に天に止まっていた弓矢が射られた。

 その勢いは激しく、まさに四神の一人として相応しい威力を有している。そして、その朱雀を使役しているのだから、隆盛の力は本物だろう。


「火神の力は確かに強い。じゃが、妾たち従鬼の力を侮るでないぞ?」


 桜鬼が刀を霞の構えで持ちながら、何かを見定める様な表情をしている。

 恐らく桜鬼は、この中にいる朱雀本体を叩こうとしているのだろう。相手の数は櫻真の視界に広がる空を覆い尽くす程の量だ。


 しかし本体はその内の一つしかない。


 炎の弓矢が龍神と衝突し、辺りに白い霧が立つ。炎を水が掻き消す音、炎の熱量によって、水が蒸発する音、その双方の音が重なり合い、櫻真の耳に木霊する。

その音の中に、桜鬼の「はぁあっ」という声が混ざった。


 桜鬼の刀が纏う風が辺りに立ち込めていた白い霧を払拭した。

 霧が晴れた櫻真の視界には、桜鬼が鳳凰の姿に戻った朱雀へと刺突を繰り出している。

 亜音速で繰り出される刺突。

 それを朱雀が翼を体の前で閉じ、防御の体制で持ち堪えている。


 朱雀の翼は強烈な刺突を受けても、ダメージを受けていない様に見える。しかし、刺突を繰り出す桜鬼の顔にも曇りはない。

 攻が勝つか、坊が制すか。

 櫻真が桜鬼の背中を押す様に、水行の術式を唱え始める。


 朱雀は火を司る式鬼神だ。その前に立つという事は、烈火の前に立っているのと同意義だ。桜鬼たち従鬼がいくら強靭な肉体を持っていようと、その熱はジワジワと桜鬼の体を蝕むだろう。

 それを回避するために、櫻真が目に見えない水衣を桜鬼に付与する。


 そしてそのまま、桜鬼が刺突を継続して続けていく。

 すると今まで無傷だと思っていた朱雀の体に変化が現れ始めた。


「なっ!」


 驚愕の声を上げたのは隆盛だ。

 今まで桜鬼の刀が弾き返される様に防御されていのに、今は朱雀の赤い翼から、濃い色の赤……鮮血が滲み出始めたのだ。


 桜鬼の白い肌に、朱雀からの返り血が付着する。


 よし、このまま押し切れば……勝てる。


 櫻真が術式でさらに桜鬼の強化を図り、さらに……櫻真は指剣で護符を構え、術式を詠唱し始めた。

 櫻真が構えている護符は、木行の護符だ。


「木行の法の下、追風よ、()の者を掴みし蔦となれ」


 深緑の蔓が向かう場所は、新たな術式を唱え始めた隆盛だ。その隆盛に櫻真の放った蔓が勢いよく巻きつく。


「なっ、クソォ……。こんな蔓如きに俺が負けるかっ! 朱雀っ!」


 自身に纏わりつく蔓に苛立つ隆盛が、朱雀の名を叫ぶ。

 すると、朱雀が桜鬼による刺突で傷ついた翼を広げ、そのまま上空へと飛翔し始めた。


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