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ハッピーハロウィーン 〜本編とは関係ありません〜

 ハロウィン編。


 居間にあるテレビからは、今年も盛り上がるであろうハロウィンの特集をしていた。


 櫻真はそれを見ながら、少し眉を寄せた。

 テレビには、悪魔やら海賊やら、アニメのキャラクターなどの仮装をした人々が、楽しそうにUSJの園内で写真を撮っている姿が映っている。


「櫻真? そんなに眉間に皺を寄せてどうしたのじゃ?」


 ソファに座っていた櫻真の顔を除いてきたのは、小首を傾げる桜鬼だ。


「実は、今日学校でハロウィンの話になって……クラスの皆で雨宮の家でハロウィンをするって離しになったんやけど、何の仮装をしたらええか思い浮かばなくて」


 正直、ごてごての和風建築に住み、能楽師という家業。それに陰陽道に精通している自分がハロウィンに興じるなんて、少し可笑しな気が……


 とも思ったが、自分の顔を除いて来ているのは、櫻真が呼び出した従鬼だ。


 仮装のお化けと、もはや次元が違う。


 そんな桜鬼は、ハロウィンという初めて聞く言葉に疑問符を浮かべている。そのため、櫻真が大まかなハロウィンについて、説明をした。


 外国で秋の収穫を祝い、悪霊を追い払う祭りであること。それから、子供がお化けなどの仮装をして、「トリック・オア・トリート」という掛け声と共にお菓子を大人たちから貰うという風習があることなどを、テレビに映る画像を指差しながら説明する。


 すると、瞬く間に桜鬼の顔が興味津々に輝いてきた。


「妾もやるぞ! 楽しそうじゃ!」


 キラキラと目を輝かせる桜鬼に、櫻真が困り顔を浮かべる。


「連れて行きたいのはやまやまなんやけど……今回はクラスの皆でやるから桜鬼は連れて行けへんよ」


「そ、そん、そんなぁ~。嫌じゃ、妾も櫻真と一緒にそのハロウィンという祭りをするんじゃ」


「ごめんな? また別の日に一緒にやろう」


 悲しい表情を浮かべる桜鬼の頭を櫻真が優しく撫でる。

 すると、桜鬼が表情をしゅんとさせながらも、頭を頷かせて来た。


「櫻真の言う事じゃ、妾は聞くぞ。ただ、絶対に妾ともそのハロウィンという祭りをしてくれぬかのう?」


「ええよ。じゃあ、約束やな」


 櫻真がそう言うと、そこでようやく桜鬼に彼女らしい笑みが戻った。その事に櫻真もほっとする。


「でも……」


 どの仮装をしていくかという問題は、まだ解決していない。


「どないしよう?」


 溜息混じりに櫻真がそう呟くと、一緒に悩んでくれている桜鬼が目をぱっと見開いて来た。


「櫻真、櫻真! 妾は良い仮装を思いついたぞ。実に櫻真らしいものじゃ!」


 得意気にそう言って来た桜鬼に、櫻真が首を傾げさせる。


「俺っぽいって、何?」


「それはじゃな……」


 首を傾げた櫻真に、桜鬼が笑みを浮かべたまま耳打ちをしてくる。

 それを聞いて、櫻真は一瞬だけ目を見開いて眉を寄せた。


「それって……」


「どうじゃ? 良い考えであろう?」


 褒めて、褒めてと言わんばかりの桜鬼の表情に櫻真は渋々頷いた。


 ずっと悩んでいるよりは……良いかもしれへんし。




 ハロウィン当日。


 紅葉はソワソワした気持ちで、クラスメイトの雨宮の自宅の一室に集まっていた。


 雨宮は住職の息子で、家はお寺だ。


 ハロウィンとは、少し不釣り合いな気もするが、クラスにいる一人の男子の言葉で雨宮の家に集まることになったのだ。


 けど、おかげで櫻真と一緒にハロウィンを楽しめる……。


 ウキウキとした気持ちの紅葉は、頭に角がついた飾りをつけた小悪魔の格好だ。黒い羽織は来ている物の、スカートの丈が短いため少し恥ずかしい。

 でも、友達から「䰠宮君に見せた方がええよ」と押され、勢いのまま着て来てしまったのだ。


 うぅっ、櫻真がこんな姿のあたしを見たらなんてどう思うやろ?


 か、可愛いとか思ってくれるかな?


 それとも……派手すぎとか思われてしまうやろか?


 期待と不安が、ごちゃ混ぜになる。その内、クラスのほとんどが集まり始めた。


 櫻真は?


 人が集まる中、紅葉が辺りをキョロキョロと見回す。


 すると……


「なぁ、紅葉……あれって䰠宮君?」


 友達の一人が紅葉の肩を叩いて、一つの方向を指差して来た。

 指差された方を紅葉が見る。


 思わず、「えっ……?」と声を漏らしてしまった。


 視線の先にいたのは、上質な着物に身を包み、白い能面を付けた一人が夕闇に紛れてこちらに近づいて来た。


「ちょっ、一人、めっちゃガチなのおるやん」


「あれ、ヤバいやろ。不気味すぎや」


 櫻真であろう人物を見て、コソコソ話をするクラスメイトたち。その手には、白い袋に入ったお菓子を持っている。


 数人のクラスメイトの元に能面を被った櫻真が近づき、少し緊張した声音で、

「ト、トリック・オア・トリート」

 と言って、静かに手を差し出して来た。


 その姿は部屋を照らす蝋燭の光を浴びて、ハロウィンの明るく楽しい雰囲気を吹き飛ばす破壊力がある。


「櫻真……これは、アカン」


 顔を引き攣らせるクラスメイトたちの横で、紅葉は静かに首を横に振った。


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