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大天狗

 まさか、自分が櫻真達に協力する事になるとは思わなかった。

 とはいえ、今の瑠璃嬢にやれる事は皆無に等しい。

 重ねた戦闘と、この結界の維持に声聞力を奪われたためだ。

 今の自分は正直、足手纏いの他ならない。瑠璃嬢としは面白くない状況だ。

「良いだろう。我が主君を守るため、貴様の話に乗るとしよう」

 櫻真たちの話に頷いたのは、魑衛だ。

 作戦は、実にシンプルな物だ。

 まず、術式を斬る事が出来る魑衛の力で、瑠璃嬢と結界の繋がりを断つ。

 そしてその瞬間に、まだ声聞力に余裕のある蓮条が代わりに結界の維持をするという物だ。

 それまでは、菖蒲たちが人柱となり結界の完全崩壊を防ぐ事になっているらしい。

きっと……言葉で言うよりこの作戦は難しいだろう。

 結界はもうすでに壊れかかっている。

 だから、自分との繋がりが途切れた瞬間に、結界が消滅するという可能性も多いにあるのだ。

「それで、全員が結界から出たはったら、魑衛に俺と結界の繋がりを切って貰えばええな」

 最後の段取りを蓮条が話す。

 すると、そんな蓮条に鬼兎火や櫻真が不安そうな顔を浮かべさせている。

 無理もない。

 この作戦で一番、リスクを抱えているのは、最後に残る蓮条と魑衛だ。

「魑衛、貴方とは桜鬼と共に敵対したばかりだけど……信じているわ」

 鬼兎火からの念押しに、魑衛が軽く肩を竦めさせた。

「私は貴様の危惧するような小物ではない。無論、瑠璃嬢に牙を剥くのであれば、話は別だが……今はそうでないだろう?」

「ええ。その通りよ」

 鬼兎火が首肯する。行動が開始された。

 向かった先は、この結界を形成している護符がある美術室だ。

 体に力の入らない瑠璃嬢は、魑衛に抱えられそこまで移動した。

 魑衛が時々不安そうな顔で、瑠璃嬢を見てくる。

「そんな顔で見なくても、大丈夫だから。本当にしんどくなったら、ちゃんと言うし」

「瑠璃嬢が言うときは、本当に危険な時だろう? 私は君をそこまでの状態にしたくない」

「……そんな事言ったら、あたしは動けなくなる。そうじゃない?」

「なら、瑠璃嬢は横になっていた方が良かった。術式を破るなら、私一人でも……」

「あたし、それが嫌なの。自分に関係する事なのに、自分の知らない所で勝手に事態が動くっていう状況。本当に無理」

 勿論、魑衛が言っている意味も分かる。

 けど、自分の自尊心がそんな彼を拒む。

 普通に考えれば、呆れた溜息を吐く者もいるだろう。こんな時に駄々を捏ねるな、と。

 しかし、魑衛はそれをしなかった。

 元々、従鬼が主に対して忠義という事もあるだろうが、それだけではないという事も分かる。

 何故なら……

「君の強情さには正直、手を焼いてしまう。けれど、それは愛おしい君の一部だ。なら、私はそれを蔑ろにすることは出来ない」

 と言ってきたからだ。

 正直、引く。

 乙女思考全開の女子だったら、胸を熱くさせるかもしれない。しかし、残念ながら自分はそれに当てはまらない。

 前から思ってたけど……魑衛の奴、ロマンチスト過ぎて余計な言葉が多いんだよね。

 瑠璃嬢は、魑衛に抱かれながら小さく溜息を吐いた。

 まっ、今は多めに見るけど……。



 まだ破壊されていない護符へと櫻真たちが向かっていた。

 校舎内へと入り、二階の美術室へと向かっていた。

 廊下を足早に進んでいき、もうすぐ美術室へと着く寸前。

「うぎゃあああああああっ!」

 聞き覚えのある叫び声が櫻真たちの耳に届いた。

「櫻真、この声はっ!」

「光君やっ!」

 驚いて立ち止まり、桜鬼と顔を合わせる櫻真。

 そしてその瞬間。

 櫻真たちの元に、凄まじい轟音と共に衝撃が襲って来た。

 櫻真たちの進行を妨げるように、遮断機のような刃物が突如現れたのだ。

 校舎の壁が破砕され、桜鬼たちが自分たちを後方に移動させなければ、櫻真たちも唯ではすまなかったはずだ。

 桜鬼が風で拡散した砂煙を一瞬で吹き飛ばす。

 するとようやく状況が把握できた。

「なっ! どいうことっ?」

 櫻真が自分の視界に広がった光景に思わず目を瞬かせた。

 破壊された壁からは突き出されていたのは、巨大な甲冑を着けた太い腕。その手には巨大な大太刀が握られており、壁全てを破壊し、外へと突き出している。

 正直、大きすぎて敵の全貌がまるで分からない。

 分かる事といえば、何やら厄介な事態が起きたという事だ。

「次から次へと、面倒なことが起きるのう」

 眉を顰めた桜鬼が愚痴を零す。

「桜鬼、ここは俺たちで何とかしよう」

「うむ。畏まった」

 桜鬼に声を掛けてから、櫻真が蓮条の方へと向く。

「蓮条たちは、当初の目的通り結界の方を何とかして」

双子の片割れに櫻真がお願いをする。

 今の自分たちがしなければならないのは、この突如現れた化け物への対処と、この結界を何とか点門が開けるレベルまでに立て直すことだ。

 この二つを同時にするためには、櫻真と桜鬼でこの化け物を相手にして、蓮条たちが結界の事を何とかして貰うしかない。

 そんな櫻真の気持ちを察した様に、蓮条と鬼兎火、そして瑠璃嬢たちが頷いて来た。

「話は、とりあえず纏まったようじゃのう。ならば……」

 桜鬼がそう言って、刀を取り出し、間髪入れずに、その刀を巨大な腕に斬りかかる。

 桜鬼の刀には、風の刃が纏われている。そのため、たった一突きで、巨大な腕の硬い皮膚がボロボロに裂け、肉塊が飛び散り、赤黒い色の血が勢いよく噴き出した。

 戦を告げる法螺の音のような唸り声が、空気を震わした。音が衝撃波となり、さらに校舎の壁や窓ガラスが破壊された。

 おかげで、さっきよりも敵の姿が捉える事が出来た。

「あれは……天狗!?」

 櫻真の目に映ったのは、燃えるような赤い肌に、金色の目に長い鼻。

 まさに櫻真たちが伝承で見る天狗が、櫻真たちを睨みつけていた。

「まさか、斯様な場所で天狗と対峙することになるとはのう。流石の妾も思ってもみなかったぞ。櫻真、妾たちで此奴を踏破しようぞ」

「ええよ。やろう、桜鬼」

 刀を下段に構えた桜鬼と櫻真が、天狗を睨み返す。

 櫻真がすぐさま術式の詠唱を開始した。

「木行の法の下、風神よ我が矛となり災禍を斬り裂け。急急如律令」

 桜鬼へと櫻真が護符を投擲する。護符が白い大鎌へと変わる。大鎌を手に桜鬼が天狗へと肉薄した。

 外にいる天狗は、一〇メートルは悠にあろう巨体だ。

 その天狗を前に大鎌を構えた所で、端から見れば心許ない姿に見えるだろう。

 しかし、櫻真は信じている。

 自分と桜鬼ならば、どんなに大きな天狗に勝てると。

「はぁああああ」

 桜鬼が声を張り上げ、天狗へと跳躍し接近する。

 天狗の視線は、自身に向かってくる桜鬼を捉えた。校舎を貫いていた腕を動かし、桜鬼へと巨大な刃を振りかざす。

 その動きに遅滞はなく、機敏ですらあった。

 桜鬼が振り下ろした大鎌と天狗の刃が激突した。激突した瞬間に、衝撃の波紋が空気中に広がる。波打つ衝撃波は、コンクリートの校舎に亀裂を入れ、校舎の地面を縦に微震させる。

 そんな衝撃を起こす攻撃を桜鬼と天狗が空中で繰り広げている。

 天狗が桜鬼を刺殺せんと刃を突き出す。それも、一度ではく、百、千……もの数を繰り出すのだ。

 その穂先に触れれば、例え強靭な身体を持つ桜鬼でも大きなダメージになるはずだ。

 しかしそれを一番承知しているのは、天狗を直接殴りに行っている桜鬼に違いない。

桜鬼は、自身へと向かってくる刺突の嵐を、大鎌で弾き、体を捻転させ、風で押し返している。

 そして風圧を利用して上空へと飛翔していた桜鬼が、大鎌を背面で構えて天狗へと落下し始めた。

 落ちてくる桜鬼に向かって、天狗が刺突を繰り出してきた。

 桜鬼はそれを大鎌で弾き返す事はせず、体を横に逸らしてその刺突を避けている。

 避けた刃を足場にし、桜鬼が天狗へと疾走する。

 疾走した桜鬼が大きく大鎌を横薙ぎに払う。横一線の斬戦は天狗の両目を切り裂いた。

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